カレントアウェアネス
No.148 1991.12.20
CA780
LCの大量脱酸処理の今後−保存フォーラムでの報告から−
去る9月25日,国立国会図書館において第3回保存フォーラム(注)が開催され,LC保存部のドナルド・シベラ博士とジェラルド・ギャーベイ氏によって大量脱酸処理入札の結果について報告がなされた。以下,その報告を中心にして,LCにおける大量脱酸処理の動向についてまとめる。
LCは従来よリジエチル亜鉛(DEZ)を用いた脱酸方法を開発し,1976年にDEZ法の特許を獲得したが,1989年にライセンスがアクゾ・ケミカルヘ供与された。また大量脱酸技術は,他のいくつかの化学会社でも開発が行われてきている。LCは,実験開発段階にあった大量脱酸処理計画を本格的に稼働させるにあたり,これらの処理方法のうちLCにとって最も適切な方法を選択することになった。そして1990年9月,処理会社の入札を行うことにした(CA681参照)。
この入札に際して,各国の保存技術者や保存科学者が一年がかりで協議を行い,化学会社からの情報も入手して,脱酸処理が満たすべき要件を要求書としてまとめた。この要求書の中にはまず,毒性がなく環境に対する安全性が確保されていること,本の耐久性が最低でも3倍延びること,アルカリ・リザーブが1.5%含まれていること,均一に脱酸されることなどがあげられている。また,変形・変色などを与えない,臭いが残らないといった,本の体裁上の要件なども設定された。さらにビジネスの観点から,一冊あたりの処理コストの算出が求められ,またLCの計画である年間100万冊を処理できる施設と資金基盤があることなども要件としてあげられた。
これを受けて,最終的にはFMC社,ウェイトー社,アクゾ・ケミカルの3社が入札に参加した。入札にあたって各社は,LCの要求書に基づく膨大な書類の提出と,それぞれの技術を実証するために,1セット500冊の本について実際に脱酸処理を行うよう要請された。また各社が脱酸処理した本は,外部の試験機関であるアトランタ(ジョージア州)の紙科学工学研究所に送られ,本の耐久性,アルカリ・リザーブ,体裁,臭いなどについて分析された。
1991年3月,落札会社を決定するため14人のメンバーからなる審査委員会が召集され,各社の技術や条件を評価することになった。審査委員会は,会社側の提出した書類と脱酸処理の分析結果を検討し,さらに各処理施設を訪問して評価を行った。その結果,3社の方法は耐久性を3倍以上に延ばすという点では要件を満たしていたが,それぞれいくつかの問題点が残った。例えばアクゾ・ケミカルの方法は,中和は十分になされていたものの,臭いや変色があり,またコストも高く,年間10万冊しか処理できない点が問題であった。またFMC社やウェイトー社の方法は,臭いが残ること,中和が十分でなくアルカリ・リザーブも少ないこと,変形をきたすなどの点で問題が生じていた。このように,どの化学会社の方法もLCの要件を完全に満たすものではなかった。審査委員会は6月にこの評価結果をLCに提出。LCはこれを受けて,8月30日,今回の入札を断念することを決定した。
現在,大量脱酸処理は実施段階への過渡期にあるといえる。米国では他に先駆けて,ジョンズ・ホプキンス大学図書館がアクゾ・ケミカルと契約し,DEZ法による脱酸処理を今年6月に開始した。またハーバード大学でも大量脱酸プログラムが進行中で,1992会計年度には大量脱酸処理に約85,000ドルが当てられる予定である。
LCがどの処理方法を選択するか,世界の多くの図書館が注目していたが,今回の入札では適切な契約会社を得ることができなかった。しかしながらLCは,大量脱酸が蔵書保存のための重要な手段であるという見解を崩してはいない。今回明らかにされた問題を解決し,できるだけ早い時期に大量脱酸処理を実行に移すため,11月中にも新しい実行計画を打ち出す予定である。
安藤由美子(あんどうゆみこ)
(注)「保存フォーラム」は,NDLが昨年から着手している「保存協力プログラム」の一環として随時開催されている。比較的少人数の参加者で,特定テーマに即した自由な討論を趣旨として行われる。
Ref: LC responds to deacidification bids from industry: all offers are turned down. LC Information Bulletin 50 (18) 347, 1991. 9. 23
Deacidification: Johns Hopkins takes the plunge. The Abbey Newsletter 15 (3) 37, 1991
Mass deacidification at Harvard. The Commission on Preservation and Access (38) 3, 1991