CA1941 – 日本図書館協会建築賞について / 植松貞夫

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カレントアウェアネス
No.338 2018年12月20日

 

CA1941

 

 

日本図書館協会建築賞について

公益社団法人日本図書館協会図書館施設委員会:植松貞夫(うえまつさだお)

 

 日本図書館協会建築賞(以下「図書館建築賞」)は、1984年に、優れた図書館建築を顕彰し、これを広く世に知らせることによって、日本の図書館建築の水準の向上に寄与することを意図して創設された。

 発案者である協会内の施設委員会(現図書館施設委員会)において、1983年に公募から審査までの方法等について取りまとめられ、理事会等の承認を得て「協会の賞」として発足した。1984年度の第1回以降、若干の変更を加えながら毎年継続して実施し、現在第35回の募集を行っている。

 建築に関する学協会・業界が設けている賞(E1829参照)は、デザインの美しさ、新規性や、建築物としての品質を評価するものであることから、建築の用途を問わないのが主である。その点、特定用途の建築物ないし建築空間のみを対象とし、ソフトとハードの両面から評価する図書館建築賞は、ユニークな存在である。なお、一般社団法人日本医療福祉建築協会は、1991年より同様の趣旨で医療福祉建築賞(当初は病院建築賞)を設けている(1)
 

優れた図書館建築とは

 優れた図書館建築とは、応募要項においては「建築としての質はもとより、そこで展開されるサービスもよく行われていることが条件となる。つまり、器(建築)と中身(サービス)が調和し、いずれにおいても優れていることを意味する」と表現している(2)。それを実現するためには、発注者である図書館やその設置主体と、設計者とが共通目標に向け協調的な関係を築くことが欠かせない。そのため、賞は図書館と建築設計者の両方に与えられる。また、応募資格は、図書館及び機関等に付随する図書館(室)、資料室とし、館種は問わず、単独館・複合館の別や新築・増改築の別も問わないが、中身の評価を行うことから、公募の前年度末までに開館(翌年の実地視察までには最短でも1年以上経過)したものとしている。
 

選考方法

 図書館施設委員会(以下「親委員会」)のもとに設ける選考専門委員会が候補館を選考し、親委員会での審議、常務理事会の承認を経て決定される。選考専門委員会は、現在は、親委員会の図書館員またはその経験をもつ委員(ソフト)と建築を専門とする委員(ハード)が同数ずつ、及び公益社団法人日本建築家協会よりの委嘱委員1名で構成している。委嘱委員を加える理由は、専門的な視点からの評価を得るためであり、一方で、図書館建築に理解と興味をもつ建築家が増えていくことを期待するからである。委嘱期間は2年を基本としており、2年目には専門委員会主査を務める。賞創設以来、建築家協会からは副会長レベルの経験豊富な建築家が派遣されている。また、具体的な審査は、提出された書類に基づく第一次審査、一次合格館に対する複数委員での実地視察に基づき総合判定を行う第二次審査の二段階方式である。
 

選考基準に関する議論

 館種、規模、地域、運営方針等が一つ一つ異なる図書館に対し、さまざまな図書館観・建築観をもつ委員が評価に当たることから、審査基準については、最も議論が重ねられ、外部からの意見も集中している。創設からの約20年間は審査基準は非公開とし、賞創設時に決めた「図書館建築賞運用心得」(施設委員会内規、1985年12月16日)の該当部分を参照しつつ、総合的な判定を行うことを、毎年度の選考専門委員会で確認する方式であった。しかし、本賞が社会的にも認知され、受賞が有形無形の効用を生むに従い、審査基準を明確化し公開すべきとの意見が寄せられるようになった。親委員会では4度にわたり審査基準に関する見解を説明してきたが、2003年の常務理事会における意見を受けて検討した結果、「日本図書館協会建築賞の選考のための評価項目(申合せ)」を原案作成、試行の後2005年8月に公表し、第21回(2005年)から適用している(3)(4)。これは、選考基準・評価の考え方を表記した上で、「全体の構成・内容」「建築計画・スペース」「サービスの提供・利用」「特徴となるポイント、新しい提案・試み」の4視点の計13項目について詳細な評価要素を列挙したものと、評価採点表とからなる。以降は、各年度の選考専門委員会の発足時に、この申合せに則して評価を行うことを確認している。しかし、同一年度における他の応募館との比較や、受賞館が後に続く館の計画・設計の範となることから、図書館建築の水準も年々上がっていくため、それまでの受賞館との比較も選考の基準となる。従って、視点と項目は同じであっても、一律の基準を継続して点数化することは適切ではなく、相対的・総合的に判定している。

 そして、賞創設時から一貫して、顕彰された図書館の長所・短所を含む詳細な講評と、選考経過及び応募館全体への短評(これも常務理事会の承認事項)を毎年『図書館雑誌』で示すことで、審査の透明性を担保するとともに、新たに計画する図書館関係者にとって参考に資することを意図している(5)
 

審査料の導入等応募要項の変更

 現地審査の交通費など選考経費確保のため、応募要項において、第18回(2002年)より「応募料(1作品につき5万円)を応募時に納入」とした。しかし、第一次審査で選外となる応募館からの徴収には異議が呈され、第28回(2012年)より、「第二次審査の対象館は審査料(前記同額)を納入」に改めた。審査料徴収には、本賞の目的、顕彰制度の趣旨に照らしての批判や、会計制度上応募料を支出できない館があり、応募館が減少する恐れがあるなど批判が寄せられたが、(1)前記の医療福祉建築賞を含め多くの建築賞は応募料を徴収している、(2)応募は設計者でもできる、(3)設計者では、受賞が設計競技などへの応募資格要件とされる事例が増加するなど、営業上の効果をもたらしていること、などから有料化は問題ないと認識している。とはいえ、2000年以降新設図書館数が減少傾向にあるとはいうものの、第17回(2001年)の計13館(公共図書館12館)から有料化開始の第18回は9館(同7館)と減少し、以降も応募館数は減少傾向にある。また、同じく第28回から、応募要項の公表段階で選考専門委員の氏名を明らかにしている。
 

応募館数と顕彰館数

 第1回より第34回(2018年)までの応募館の総数は416館(公共331、大学・短大71、その他(国立、学校、法人)14)であり、受賞館の総数は83館(応募数に対し20%)、内訳は公共62館(同18.7%)、大学・短大18館(25.4%)、その他3館(21.4%)である。なお、本賞は第10回(1994年)まで、全体的に優れている「優秀賞」と、多少の欠点はあっても特定の部分について奨励するに値するものについてその理由を付して顕彰する「特定賞」を選定していた。前記の受賞館には特定賞を含む。また、第11回以降は特定賞を廃し「建築賞」で統一している(6)
 

近年の状況と課題

 35回を数えるに至り、本顕彰事業は定着したといえる状況にある。主な課題を挙げれば以下である。

(1)応募館の減少傾向

 2016年1年間で新たに建設された公共図書館が38館あるのに対し、応募館は9館と少ない(7)。第6回(1990年)から応募を待つだけでなく、会員からの推薦を呼び掛けているが、事例はごくわずかにとどまる。設計者には応募に熱心な者、そうでない者、賞の存在を知らない者があることから、周知方法に改善を要する。

(2)開館後の年数

 開館後1年以上を応募資格としているが、多くの場合、開館後1年間程度は活況が続くものであり、それが継続するかの判定は難しい。開館後の年数を延長すべしとの意見もある。

(3)施設整備への関与者の増加に伴うプロセスの変容

 市民参加によって案が練られていく例、首長部局主導で進行する例、コンサルタント会社、PFIや指定管理者予定事業者が先導する例など、計画・設計プロセスへの関与者が多様化している。図書館員と図書館長(候補者)の関与を重視する考え方も見直す必要があるといえる。

 筆者は、賞創設以来、くり返し選考専門委員を務めている。意欲と工夫に富む設計と運営の図書館を、深くかかわった人々から、直接説明を受けながら拝見できるのは委員の特権である。近年の応募館からは、取り巻く環境の変化を読み取ることができる。盛り込まれた創意や、新しいサービス、利用行動は、次のそして今後の図書館像を考える種である。読者各位には複数の受賞館の視察を推奨するとともに、大幅な増改築により一新された館、既存他用途施設を転用した館、全く新しい発想のもとで蘇った館など、多様な図書館の応募を待ちたい。

 

(1)“医療福祉建築賞”. 一般社団法人日本医療福祉建築協会.
https://www.jiha.jp/awards/architectureaward, (参照2018-10-16).

(2)“日本図書館協会 建築賞”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/Default.aspx?TabId=699, (参照2018-10-25).

(3)評価基準を明確にすべしとの意見に対し施設委員会では、以下の4つを発表している。
栗原嘉一郎. 日本図書館協会建築賞について. 現代の図書館. 1989, 27(3), p. 167-173.
関根達雄. 日本図書館協会建築賞における評価と最近の特徴. 図書館雑誌. 1994, 88(2), p. 100-102.
JLA施設委員会. 日本図書館協会建築賞の概要. 図書館雑誌. 1996, 90(8), p. 569-571.
JLA施設委員会. 日本図書館協会建築賞に関する評議員会での質疑について施設委員会の見解. 図書館雑誌. 2003, 97(1), p. 39-41.

(4)JLA施設委員会. 日本図書館協会建築賞の選考のための評価項目について. 図書館雑誌. 2005, 99(8), p. 519.
日本図書館協会施設委員会. 日本図書館協会「図書館建築賞」の評価項目について(申合せ). 図書館雑誌. 2005, 99(8), p. 520-521.

(5)選考経過、受賞館の講評などは、『図書館雑誌』毎年度8月号に掲載されている。また、次年度の応募要項は同じく8月号の折り込みにて公表している。

(6)第1回から第22回(2006年)までの受賞70館については作品集にまとめられている。
社団法人日本図書館協会施設委員会図書館建築図集編集委員会. 日本図書館協会建築賞作品集1985-2006. 社団法人日本図書館協会, 2007, 210p.

(7)植松貞夫. 図書館の施設と設備. 図書館年鑑2017. 2017, p. 113-116.

[受理:2018-11-07]

 


植松貞夫. 日本図書館協会建築賞について. カレントアウェアネス. 2018, (338), CA1941, p. 10-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1941
DOI:
https://doi.org/10.11501/11203357

Uematsu Sadao
About the Japan Library Association Library Architecture Award