E1829 – 2016年日本建築学会賞(作品)の図書館複合建築をめぐって

 

カレントアウェアネス-E

No.309 2016.08.18

 

 E1829

2016年日本建築学会賞(作品)の図書館複合建築をめぐって

 

◯選ばれた2つの図書館複合建築
 日本建築学会の作品賞は,戦後間もない1949年に創設され,以来60年以上にわたって,日本の建築界において最も権威のある賞として数多くの建築を選出してきた。2016年は,受賞対象として,「近年中,国内に竣工した建築(庭園・インテリア,その他を含む)の単独の作品であり,社会的,文化的,環境的見地からも極めて高い水準が認められる独創的なもの,あるいは新たな建築の可能性を示唆するもので,時代を画すると目される優れた作品」と規定した。応募総数は49件に上り,書類審査を経て8件が現地審査の対象となり,10人の審査員による厳正な審査を経て,千葉県流山市の「流山市立おおたかの森小・中学校,おおたかの森センター,こども図書館」(2015年竣工),東京都武蔵野市の「武蔵野プレイス」(2011年竣工),高知市の「竹林寺納骨堂」(2011年竣工)の3件が選ばれた。

 応募作品は,集合住宅やチャペル,宗教施設や超高層ビルまで,規模も内容も多岐にわたる中で,偶然とはいえ,2件の図書館の複合施設が選ばれた。そこには,もしかしたら時代の求める新しい図書館像や公共建築の姿が投影されているのかもしれない。本稿では,賞の審査に携わり,設計者から現地で話を聞く機会のあった立場から,これら2件の,大きく性格を異にする建物の特徴を紹介し,建築という側面から図書館の現在について考えたい。

◯流山市立おおたかの森小・中学校,おおたかの森センター,こども図書館
 流山市立おおたかの森小・中学校,おおたかの森センター,こども図書館は,つくばエクスプレスの開通で首都圏へ30分でアクセスできるようになり人口の急増が著しい流山市のニュータウンに計画された。敷地の北側には大鷹が生息する豊かな森が広がる。建物は,将来的に最大1,800名の子供たちが通える小・中学校を併設した学校施設,地域の交流センター,学童保育所等から構成される延床面積が約2万2,000平方メートルの大規模複合施設である。その中に,学校図書館に併設する形で「こども図書館」が設けられた。建物全体が地域コミュニティの形成を促す開かれた公共施設として位置付けられている。そのため,正面の道路沿いには,地域住民が気軽に利用できる音楽ホールやランチルーム,多目的室が設けられる一方,「こども図書館」は小・中学校の昇降口のある校庭へと抜ける「風のみち」に面する場所に配置された。蔵書数8,000冊程度の小さな図書館だが,学校図書館と隣り合わせで,目の前を行き来する子供たちの姿も見えるので,就学前の幼児と親たちが学校という空間にごく自然に馴染むことができるだろう。竣工から1年,今後どのように地域に根づいていくのか,その行方を見守りたい。

◯武蔵野プレイス
 一方,武蔵野プレイスは,さまざまな世代が気軽に通うことのできる「居場所としての公共空間」を目標に掲げ,図書館を中心にしつつ,生涯学習,市民活動,青少年活動を支援する機能を併せ持った複合施設として計画された。そのために,多様な人々がそれぞれの活動を通して時間を共有できる空間構成の実現が,設計上の最大のテーマとされた。注目されるのは,静かに本を読む場所としての従来の図書館像を見直し,交流とコミュニケーションの場としての新しい図書館の在り方を求めた点にある。「ルーム」と名づけられた細胞のような9メートル角のドーム状の単位空間が連続しながら上下につながっていく構成で,延床面積が約9,800平方メートルであるにもかかわらず,人々にとって居心地のよい空間が醸成されている。

 興味深いのは,約12万冊の蔵書を持つ図書館の機能が,アート&ティーンズ,メインライブラリー,マガジンラウンジ,テーマライブラリー,こどもライブラリーと,地下2階から2階まで4層に分散し,他の市民や青少年の活動を支援する機能と入り混じる形で配置されていることである。また,前面の芝生の公園から入る1階エントランスの中央には,新着・返却本架と共にカフェが設けられ,適度のざわめきと賑わいのあるカジュアルな雰囲気がつくり出されている。計画から竣工まで10年を費やし,市民との議論を尽くして機能の構成や配置が考え抜かれた成果であろう。竣工から5年,人口約14万人の都市で年間の来館者が160万人を超える活気ある公共施設として親しまれている。

◯図書館を中心とする新時代の公共施設の模索
 これら2つの建物は,図書館という誰もが特に用がなくとも自由に過ごすことのできる公共空間が,市民に強く求められていることを教えてくれる。そして,図書館を組み込んだ新しい建築のかたちを模索することによって,さまざまな世代が交流する居場所をつくることの意味にも気づかせてくれる。図書館建築の新しい在り方を模索する動きが広がりつつあるのだと思う。

京都工芸繊維大学・2016年日本建築学会賞選考委員会作品部会・松隈洋

Ref:
https://www.aij.or.jp/2016/2016prize.html
https://www.aij.or.jp/images/prize/2016/pdf/2_2award_note.pdf
https://www.aij.or.jp/images/prize/2016/pdf/2_2award_001.pdf
https://www.youtube.com/watch?v=gi5Cpur0sIw&feature=youtu.be
http://www.subaru-shoten.co.jp/tosho/kodomo/index.html
https://www.aij.or.jp/images/prize/2016/pdf/2_2award_002.pdf
https://www.aij.or.jp/jpn/design/2016/data/2_2award_musashino_place.pdf
https://www.aij.or.jp/nihonkenchikugakkaihyousyouseido.html
http://www.musashino.or.jp/place.html