CA1892 - 学校図書館をひらく―東京・学校図書館スタンプラリーの試み― / 杉山和芳

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カレントアウェアネス
No.331 2017年3月20日

 

CA1892

 

 

学校図書館をひらく―東京・学校図書館スタンプラリーの試み―

東京都立国分寺高等学校:杉山和芳(すぎやま かずよし)

 

はじめに

 2014年6月に学校図書館法が一部改正され「学校司書」の配置が努力義務とされた(1)。次期学習指導要領でも学校図書館が果たすべき役割は大きくなると予想されている(2)。また、文部科学省が「学校図書館ガイドライン」を作成するなど(3)、学校図書館の機能強化を目指す動きが現れている。このように学校図書館をめぐる状況は大きく変化しつつある。

 このような流れの中で、東京・学校図書館スタンプラリー実行委員会は、学校図書館を一般に公開して理解を深めてもらうことを目的としたイベントを行っている。今年度までに5回を数えた「東京・学校図書館スタンプラリー」(以下、スタンプラリーとする)について報告する。

 

1. スタンプラリーの目的

 スタンプラリーは、学校の夏休み期間を利用し、中学・高校の学校図書館を一般に公開するイベントである。小・中学生とその保護者、高校生、教職員、図書館関係者、地域住民や学校図書館に関心を持っている人を対象に公開している。

 この活動の目的は、中学・高校の受験を考えている小・中学生とその保護者に対し進路を選択する上での判断材料を提供することにある。「図書館を見ると学校がわかる!?」というキャッチコピーのもと、学校での教育活動全般を支援している学校図書館を見学・体験してもらうことで、進路先への理解を深めると同時に、学校図書館の魅力を知ってもらうことを意図している。

 同時に地域住民や教育関係者、図書館関係者、学校図書館に関心のある一般の方にも呼びかけ、広く参加してもらうことにより、学校図書館活動への理解を深めてもらうことも重要な目的の一つである。

 

2. これまでの経緯

 第1回の「東京・学校図書館スタンプラリー」を開催したのは2012年であった。

 2010年夏、大阪の府立高校を中心に「高等学校図書館フェスタ in 大阪」(4)というイベントが行われた。また、2011年から2013年にかけて、埼玉県の県立高校で「埼玉県高校図書館フェスティバル」(CA1807参照)(5)が行われるなど、各地で学校図書館活動をアピールするイベントが行われるようになってきていた。

 それらの情報に接した東京都内の学校に勤務する学校司書・司書教諭有志の間で、同様のイベントを行おうという機運が高まった。そこで、学校図書館問題研究会(学図研)東京支部に参加する公立・私立の学校司書・専任司書教諭が中心となり、2012年3月に学校図書館スタンプラリー実行委員会を組織した。大阪府の取組を参考にして勤務する学校図書館を公開することを決め、夏休み期間中の開催に向けて準備を始めた。その際、実施期間中になるべく多くの学校図書館を見て欲しいという思いから、スタンプラリーという形式で実施することになった。

 当時では先駆的な、複数校の学校図書館をスタンプラリー形式で公開するという活動に対し、メディアで取り上げられるなどの反響があった(6)。初回の2012年は8月の4日間に都立10校、私立3校で開催され、参加者は189名を数えた。

 第1回のイベントが多くの参加者に受け入れられ好評だったこともあり、2013年以降も継続して実施することが決まった。東京都立高等学校学校司書会や学図研東京支部等の協力を得て参加する学校を募集した。開催期間も第1回の4日間から7月後半の2週間へと大幅に拡大した。そのため、第2回の参加校は都立14校、私立3校へと増加した。

 参加校が増えた理由として、第1回参加校メンバーが他校を勧誘した、実際に見学し自校でも開催してみようと考えた、公式ウェブサイトを見て参加希望を持った、さらに、第1回の実践報告があるため管理職への説明を行いやすかった等の理由があげられる。特に都立の参加校に大きな変化が見られるのは、定期的な異動により勤務校が変更になる学校司書が多いためである。開催期間と参加校が増えたことにより、第2回の参加者数は485名へと倍増した。

 その後も参加校と参加者は年を追うごとに増加し、第4回(2015年)には1418名の参加者を得た。直近の第5回(2016年)は前年より減少したとはいえ、865名の参加があった(図1参照)。

 

図1 スタンプラリー参加者数・参加校数推移

 

3. 参加者の特徴

 直近の第5回参加者の内訳を調べてみると、スタンプラリー本来の対象者である小・中学生が41%を占め、その保護者を含めると72%に達する(図2参照)。学校説明会に日程を合わせて開催している参加校も多い。そのような学校では学校図書館に案内された親子が、館内を熱心に見学する様子が見受けられた。

 小・中学生とその保護者に次いで多いのは15%を占める図書館関係者である。小・中・高等学校の学校司書・司書教諭や、公共図書館の児童・青少年サービス等の担当者が参加し、学校図書館の運営について興味・関心を持って見学している。これらの参加者からは、セキュリティ確保のため特別な理由なく見ることができない学校図書館が公開されており、日常業務の参考になるとの意見が多く寄せられている。

 これまで学校図書館を一般に公開するという試みはあまりなかったため、スタンプラリーは学校図書館を自由に見学できる貴重な機会として広く知られるようになってきている。特に小・中学校の学校司書にとって研修の機会は必ずしも多くないため、スタンプラリーの果たす役割は大きい。日本図書館協会学校図書館部会の夏季研究集会や学図研、全国学校図書館協議会等の大会で東京に出かけるのに合わせてスタンプラリーに参加する図書館関係者も多くいる。また、リピーターも増えていて、毎年の参加を楽しみにしてくれる方もいる。

 

図2 第5回スタンプラリー参加者内訳
※参加者属性、参加者数、構成比

 

4. 実行委員会の役割と各校における取組

 スタンプラリーは参加校で構成される実行委員会を中心に運営を行っている。実行委員会がスタンプラリーを企画・管理運営することで、企画の内容と質を充実させると同時に、継続して運営できる態勢を作っている。

 実行委員会では参加校の中から役員を選出し、役員が中心となってスタンプラリー全体に関わる業務を行っている。主な内容としては、参加校全体で使用するスタンプラリー・カードや賞品の「しおり」、広報資料であるポスター、チラシ等の作成、「学校司書が選んだ小・中学生におすすめの本」を紹介する小冊子の企画・編集、各種後援団体との連絡調整を行っている。都内全域に散らばる参加校の担当者が集まれる機会は限られるため、参加各校間の連絡には電子メールやオンラインストレージを活用し、効率的な情報交換と共有を行っている。

 一方、参加校では独自に行うイベントの準備やチラシ・しおり・ブックカバー等の作成も行っている。また、地域の公民館や公共図書館等への広報や、実施にあたり校内の理解を得るといった調整も大変重要である。

 スタンプラリーでは第1回から継続して、単に学校図書館を公開するだけではなく、学校図書館の特色が現れるような各種イベントも行っている。イベントの内容は主に講習系と工作系の2種類に分類される。講習系では東京都立多摩図書館児童青少年係と連携した「小中学生向けブックトーク」実演、書店と連携した「書店員によるPOP作り教室」、英語科の教諭と連携した「英語多読体験」、「ビブリオバトル」、「ブクブク交換」等の多彩なイベントが行われている。工作系のイベントでは、しおり作り、ブックカバー作り、和とじ本作り、英字新聞でのエコバッグ作り、モビール工作、バスボム(入浴剤)工作、豆本工作といった多様な体験活動を行ってきた(7)

 これらのイベントには毎回多くの方が参加していて好評を得ている。特に小学生や同伴の保護者が連れてくる幼児が図書館内で真剣に工作に取り組んでいる姿が印象的である。イベントは学校図書館という場の持つ多様な楽しみ方と可能性を実感できる取組であり、今後も継続して実施していきたい。

 

5. スタンプラリーの広がり

 このような東京都でのスタンプラリーの活動を受けて、他県でも同様の試みが行われるようになった。兵庫県では2013年から「兵庫 学校図書館スタンプラリー」(8)が実施され、第4回の2016年は私立5校が参加している。

 他にも大学で司書課程や司書教諭課程を学んでいる学生や大学教員等の参加が増えてきている。学校図書館について学んでいる人にとって、スタンプラリーは実際の学校図書館運営を学ぶ良い機会となっている。さらに、地域の図書館振興に関わる人や書店員、教育関係者など、学校図書館に関心を持っている多様な人々が参加をしている。

 学校図書館を公開することにより、参加校内でも良い影響が現れている。スタンプラリー公開中は多くの参加校で図書委員の生徒が協力して準備や参加者への対応を行っている。生徒たちは普段の学校生活では接することの少ない、小さな子どもから大人までの多様な参加者と接することで、コミュニケーション能力を伸ばし達成感を得ている。さらに、学校図書館をより身近に感じることで、利用も増加する傾向が見られる。

 また、職員会議等で学校図書館の活動をアピールすることができ、教職員が学校図書館の役割を再認識し、選書や展示等の図書館活動に協力するようになったり、図書館を利用した授業のきっかけとなったりするなどの反響があった。学校にとってスタンプラリーは、学校図書館に対する姿勢を変えるきっかけとなっている。

 

6. 今後の課題

 現在、スタンプラリーの参加を専任・正規の学校司書か専任司書教諭がいる学校図書館に限定している。

 その理由としては、スタンプラリーは学校施設の一般公開という側面があるため、責任を持って運営するためには専任・正規の学校司書か専任司書教諭が携わる必要があるからである。同時に、学校図書館の利活用を担う学校司書の必要性は今後も高まることが予想されるいま、スタンプラリーの実践を通して学校司書の仕事内容と、学校図書館に専任の職員がいる意味を広く知ってもらいたいという願いがあることも理由の一つである。

 スタンプラリー参加校の多数を占めている都立高校の学校図書館の業務委託が進行し、正規の学校司書が徐々に減ってきている(9)。今後、都立高校の学校司書がさらに減ることにより、スタンプラリーに参加できる都立高校も減ってしまうと予想される。参加校数を減らすことなくどのようにスタンプラリーの内容を維持し運営していくのかが最大の課題である。

 

 

おわりに

 本稿では学校図書館を広く公開するというスタンプラリーの経緯と意義について紹介した。スタンプラリー実行委員会では来年度以降もスタンプラリーを継続して実施する予定である。スタンプラリーは様々な人が自由に学校図書館を体験できる貴重なイベントである。学校図書館を公開していくことにより、われわれ学校司書の仕事を広く見てもらい、幅広い理解を得ていきたい。

 同時に、われわれ運営をしている側としても、図書館に来た参加者と対話をする中で、他校の実践の様子を知ることや、図書館運営に関する意見やヒント、気づきを得ることができる。より良い図書館づくりのためにも、スタンプラリーを通して多くの方に図書館を見てもらい、意見を出してもらいたいと思っている。

 参加してくれた小・中学生の中には、スタンプラリーをきっかけとして学校図書館や読書に親しみを持つようになり、進学後に図書委員として積極的に学校図書館運営に関わってくれた例もある。さらに、スタンプラリーに関わった図書委員の生徒が、学校内の読書活動や図書館活動を活性化することで、学校全体の読書への意識も変わってくるのではないかと期待している。今後も学校図書館を公開することで、小・中学生にとって学校図書館が身近な存在となるように努力すると同時に、学校図書館の活動を多くの方に理解してもらえるように、スタンプラリーの活動をより充実させていきたい。

 

(1)学校図書館法の改正については、『図書館雑誌』2014年11月号に特集されている。
特集,学校司書法制化以降 : いま「学校司書」に求める専門性・その具体化. 図書館雑誌. 2014, 108(11), p. 737-752.

(2)次期学習指導要領答申では学校図書館の役割が以下のように指摘されている。「「主体的・対話的な学び」の充実に向けては、(中略)学校図書館の役割に期待が高まっている。」
“幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)(中教審第197号)”. 文部科学省. p. 53.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1380731.htm.

(3)「学校図書館ガイドライン」は2016年11月29日付「学校図書館の整備充実について(通知)」の中で定められている。
“学校図書館の整備充実について(通知)”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1380597.htm.

(4)「高等学校図書館フェスタ in 大阪」については、以下のページにチラシが掲載されている。
学校図書館部会報. 日本図書館協会. 2010, (35), p. 14.
https://www.jla.or.jp/portals/0/html/school/bukaihou_No35.pdf.

(5)「埼玉県高校図書館フェスティバル」(2011年~2013年)については以下のページを参照。現在も「埼玉県の高校司書が選んだ イチオシ本」を毎年選出している。
埼玉県高校図書館フェスティバル.
http://shelf2011.net/.

(6)第1回スタンプラリーについては、以下のメディアに掲載された。なお、第1回は「東京・高校 学校図書館スタンプラリー」として、中学生向けに開催している。
図書室巡れば高校が見える. 東京新聞, 2012-07-04, 朝刊24面.
図書館見て 学校選んで!. 日本教育新聞. 2012-07-23.
“高校選びは図書室が決め手!学校図書館スタンプラリーが開催中”. カーリル. 2012-08-21.
http://blog.calil.jp/2012/08/tokyohslib.html.

(7)東京・学校図書館スタンプラリー.
http://tokyohslib.ehoh.net/.

(8)「兵庫 学校図書館スタンプラリー」については以下のページを参照。東京と大きく異なるのは開催期間と参加校である。兵庫県では夏休みを中心に6月から11月と広く設定されており、当初は県立高校も参加していたが、現在は私学が中心となって実施されている。
兵庫 学校図書館スタンプラリー.
http://hlibrary.kgjh.jp/.

(9)東京都では専任・正規職の学校司書を全課程で配置していた。学校司書での新規採用は2002年度から実施していない。欠員が生じた学校については順次業務委託が導入されており、2016年4月現在、97校(188校中)となっている。業務委託に従事する職員の不安定な雇用のあり方や現職の学校司書のスキルの継承ができない等の様々な問題が発生している。
宅間由美子. 東京都立高等学校学校司書会の研修. 学校図書館部会報. 日本図書館協会. 2016, (51), p. 4.
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/bukai/学校図書館部会/部会報No51_OK.pdf.
東京都財務局による学校図書館委託についての評価は以下のページに記載されている。
“都立高等学校図書館業務管理事業評価票”. 東京都財務局.
http://www.zaimu.metro.tokyo.jp/syukei1/zaisei/24jigyouhyouka/01_jigo/24jigo161.pdf.
埼玉県及び神奈川県では学校司書の採用が一時停止されたが、現在は採用を再開している。
“2012年度 私たちの課題”. 学校図書館問題研究会. p. 8.
http://gakutoken.net/opinion/?action=cabinet_action_main_download&block_id=305&room_id=1&cabinet_id=2&file_id=23&upload_id=220.
“フェスティバルとは?”. 埼玉県高校図書館フェスティバル.
http://shelf2011.net/htdocs/?page_id=127.
文部科学省の見解として「教育委員会は、学校司書として自ら雇用する職員を置くように努める必要がある。」としている。
“これからの学校図書館の整備充実について(報告)”. 文部科学省. p. 26.
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/10/20/1378460_02_2.pdf.

 

[受理:2017-02-14]

 


杉山和芳. 学校図書館をひらく―東京・学校図書館スタンプラリーの試み―. 2017, (331), CA1892, p. 5-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1892
DOI:
http://doi.org/10.11501/10317593

Sugiyama Kazuyoshi.
School Library Open House – Tokyo School Library Stamp Rally.