CA1782 – 広島市まんが図書館の現状と課題について / 吉田 宏

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カレントアウェアネス
No.314 2012年12月20日

 

CA1782

 

 

広島市まんが図書館の現状と課題について

 

広島市まんが図書館:吉田 宏(よしだ ひろし)

 

開館経緯について

 1983年、広島市まんが図書館の前身である広島市立比治山公園青空図書館が開館した。当初は利用も多かったが、山の上という立地条件の悪さに加え、蔵書規模が一般図書3~4万冊程度のミニ図書館(1)であったこと、同一区内に閲覧室の広さがほぼ倍(2)の南区図書館ができたこと等が影響し、次第に利用が減少していった。市議会において「まんがを置いてはどうか」という提案が出たことを機に検討を重ねた結果、1997年5月1日、公立では全国初となる、まんがだけを扱う、広島市まんが図書館が開館(蔵書数約3万8千冊)した(3)(図1参照)。

 予想を上回る利用があったこと等により、1999年5月1日には安佐南区に分室としてあさ閲覧室を開設(蔵書数約3万2千冊)した(4)

 

図1 広島市まんが図書館内

図1 広島市まんが図書館内

 

入館者数・貸出冊数について

 開館初年度は入館者数約28万6千人、貸出冊数約64万冊と大変な盛況だった(5)。2010年度までの14年間の平均は入館者数約24万人、貸出冊数約52万冊である。

 

表1 資料種別貸出冊数(広島市立図書館全体)

表1 資料種別貸出冊数(広島市立図書館全体)

出典:広島市の図書館(要覧)2012年度(平成24年度)
※まんが図書館・まんが図書館あさ閲覧室以外で、貸出を行った割合。

 

 しかし、2011年度の入館者数は2010年度の約22%減の約19万人、貸出冊数は約7%減の約42万3千冊だった。筆者が考えている理由としては、東日本大震災による観光客利用者の減少、増え続ける蔵書(2012年9月現在、約10万7千冊)のために棚一段に前後二列の配架をせざるを得ないという飽和状態にある閲覧室の環境である。そして、まんが雑誌、コミック市場の売り上げ減から(6)、まんがを読む人が減少傾向にあるとも考えられる。また、レンタルコミックやまんが喫茶(ネットカフェ)、大型古書店等の存在により、身近に廉価でまんがを読めるようになったという環境の変化の影響もあるだろう。その原因を見極めることが、館としての課題である。

 直近の5年間において、広島市の他館でのまんがの貸出の割合は2011年度が一番高い(表1)。貸出・返却は、市立図書館のどこでも可能で、遠方からまんが図書館に来館する必要がないことが、入館者数・貸出冊数の減少理由のひとつと考えられる。

 

資料収集について

 収集については、貴重書と新刊書に分けて考えている。

 貴重書は、主に戦後の日本まんがを概観できるようにするため、まんがを多く取り扱う古書店が作成するリスト等を参考に、職員が体系的に選書・収集している(7)

 新刊書は、まんが雑誌等10種(8)で初出され、その後単行本として刊行されるものを全点購入している。それ以外はリクエストによる購入と複本の購入、続刊購入等が大半を占めている。職員による選書も行っているが、上記の購入で予算の大部分を執行していることもあり、その数は少ない。ちなみに2011年度では選書購入は総購入タイトル数全体の1割にも満たない(9)。まんが図書館の目的のひとつでもある資料の体系的な収集のためにも、新刊書の購入は、基準の確立を含めて、検討を要する課題である。

 続刊購入については、書架が飽和状態となる原因のひとつになっている。人気のあるまんがは、連載が長期に及び、単行本は何十巻ともなる。中には100巻を超えるまんがも増えてきている。収集するにつれ、これらのまんがが書架のかなりの部分を占めているためである。

 

保存について

 利用の少なくなった資料は、通常、閲覧室のスペースに余裕が無いときには、書庫に移すか、除籍するのであろうが、当館にはバックヤードとしての書庫も無く、除籍についても、まんがの保存という目的からなかなか容易には出来ないジレンマに陥っている。2010年には市立図書館である湯来河野閲覧室の空き部屋を書庫(約2万6千冊収納済)として整え保管を始めたが、既に一杯となっている。今年度は当館の地下の倉庫を書庫(約1万8千冊収納可能)として使用できるようにした。図書館が積極的に保存に努めなければ、まんがは散逸しやすい資料である。方途を探り、出来る限り保存していきたい。

 

図2 2011年度年齢別貸出者数(まんが図書館)

図2 2011年度年齢別貸出者数(まんが図書館)

出典:広島市立図書館内部資料

※総貸出者数は92,599人である。

 

利用者について

 視察や取材に来られる方から利用者層について、よく問われる。子供や若者が中心だと思われていることが多い。筆者もかつてはそうであったが、実際は子供から高齢の方まで年齢層は幅広い。2011年度の貸出者数とその割合を見ると、一番多いのは40代、二番目に10代、三番目は30代である。以下10代未満、50代、20代、60代、70代以上と続く(図2参照)。

 また、公立の図書館がまんがを扱うことに対する市民の抵抗感に関する質問を、受けることがある。しかし、実際のところ、これにまつわる苦情はほとんど無い。市立図書館の2011年度の資料種別利用率(貸出冊数÷蔵書冊数)は、まんがは約7.1倍、一般図書は約2.1倍、児童図書は約3.3倍であり、まんがの利用が突出しているのがわかる(10)。やはり、まんがはそれだけ多くの利用者に受け入れられ、読まれているものだと思われる。

 そして、これらの、まんがに関する質問の背景には、広く一般に、まんがに対する共通のイメージがあると思われる。まんががサブカルチャーとよく称されることは、そのイメージの端的な表出ではないだろうか。サブカルチャーは、使われ方によりニュアンスは異なるが、広辞苑によれば「正統的・支配的な文化ではなく、若者など、その社会内で価値基準を異にする一部の集団に担われる文化。下位文化。」とある(11)。まんがが広く受け入れられていることから考えると、まんがは、サブカルチャーという、いわゆる“一部の集団に担われる下位の文化”ではないのではないかと思われる。

 利用者について、筆者が意外であったのが、例えば勤めをリタイヤされた方が最初は興味のあるまんがを読むため等で来館されて、やがて新旧の作品・テーマ等もかなり広く、様々なまんがを読み始められることがあることだ。リピーターになる方もある。子供や若い頃にまんがをよく読んだ方が再び読み始められたという場合もあるだろうが、触れる機会があれば、まんがを熱心に読み始めるのは何も若い時だけとは限らないのだと思った。また、年配の方から、本を読むにも小さな活字は辛い、その点、まんがだと文字も少なく、絵だと目の負担が少ないので楽に読める、と伺ったこともある。

 

おわりに

 2009年にまんが図書館では県内22の公立図書館へ、まんがに関するアンケートを行った(12)。再び、その後の状況を知るため、県内の図書館にアンケートを行い、20館から回答をいただいた(13)。まんがの蔵書数は18館が増加(1館無記入)していた。収集にあたっては「購入が主である」が8館、「寄贈が主である」が12館であった。ほとんどの館は、まんがの蔵書が増えることには歓迎的であると受け取れるが、半数以上は、購入による積極的な収集にまでには至っていないようである。

 まんがを図書館資料として、相対的に多く収集している図書館はあるだろうが、まんがのみを扱う公立の図書館は稀有である。その意味ではまんが図書館は開館して15年を迎えた現在もユニークな存在だ。

周知のとおり、2006年に「京都国際マンガミュージアム」が開館した。今年は「北九州市漫画ミュージアム」が開館し、2014年には明治大学が「東京国際マンガ図書館(仮称)」を開く予定である(14)。これらは、まんが文化にとって有益なことであり、大変喜ばしい。しかし、同時に当館も独自性の見直しをする時期に差し掛かっていると思われる。

 現在、当館では、“ひろしまコーナー”と称して、広島にゆかりのあるまんが家やまんがと、原爆・平和に関するまんがを別置している。例えば、そこを発展させて、原爆・平和に関するまんがの収集に力点をおき、広島市のまんが図書館ならではのコレクションを持ち、資料に精通した職員の育成を図ること等は、最も力を入れなければならないことのひとつだと考える。

 まんが図書館の誕生は、青空図書館の利用減少からその端を発したことは既に述べた。今年の7月に、旧広島市民球場跡地の活用策案のひとつとして、「アニメ、漫画の拠点」を作るというものが出ていると新聞で報じられた(15)。仮に、この案が採用された場合、「アニメ、漫画の拠点」が博物館施設であっても、まんが図書館の存廃は検討されるであろう。まんがは、広く市民に受け入れられ、幅広い年齢層の方に利用されている。筆者としては、まんが図書館がなくなったとしても、図書館資料としてのまんがの収集・提供は、保持していくことが大切だと考える。

 

(1) 閲覧室の広さは約300㎡。

(2) 閲覧室の広さは約580㎡。

(3) 青空図書館の建物をそのまま使用した。まんが図書館の開館経緯については、以下に詳しい。
久留井洋士. 広島市まんが図書館の誕生-漫画文化を新しい市民文化に. 図書館雑誌. 1998, 92(9), p. 784-785.
小林郁治. マンガと図書館-まんが図書館の運営から教えられたこと. 現代の図書館. 2009, 47(4), p. 251-257.

(4) まんが図書館あさ閲覧室の開設経緯については、以下に詳しい。
片山久仁子.広島市まんが図書館あさ閲覧室オープン. みんなの図書館. 1999, 269(9), p. 29-36.
小林. 前掲. p. 252.

(5) 青空図書館が閉館(1996年12月1日)した前年度に当たる1995年度の入館者数は約8万6千人、貸出冊数は約8万8千冊であり、まんが図書館の盛況ぶりがわかる。

(6) 「2011年のコミック全体(コミックス+コミック誌合計)の推定販売金額は、前年比4.6%減の3,903億円。内訳は、コミックスが同2.7%減の2,253億円、コミック誌が同7.1%減の1,650億円。前年、5年ぶりにプラスに転じたコミックスは再びマイナスとなった。(中略)コミック誌は16年連続のマイナス。この結果、コミックの市場規模は右肩上がりの成長が止まった96年以降、16年間で最低の金額に落ち込んだ。」
安部信行編. 出版指標年報.2012年版.全国出版協会出版科学研究所. 2012, p. 230.

(7) 時代を代表するまんがや、まんが家、まんが雑誌、また、貸本まんがや、付録まんがなどの独特な形態等をとるまんがの収集を行なっている。

(8) マーガレットコミックス、りぼんマスコットコミックス、YOUコミックス、クイーンズコミックス、花とゆめコミックス、てんとう虫コミックス、てんとう虫コロコロコミックス、講談社コミックスなかよし、BE・LOVE KC、ガンガンコミックス。

(9) 2011年度の総購入タイトル(新刊書)約3,000タイトルの内、選書購入は約70タイトル。

(10)「2011年度の市のまんがの蔵書は159,340冊、一般図書は1,157,296冊(自動車図書館を除く)、児童図書は393,397冊(自動車図書館を除く)である。」
財団法人広島市未来都市創造財団 広島市立中央図書館. 広島市の図書館(要覧)2012年度(平成24年度). 2012, p. 35-36.

(11) 新村出編. 広辞苑. 第6版. 岩波書店. 2008, p. 1141.

(12) 小林. 前掲. p. 254-255.

(13) 広島県内公立図書館(広島市を除く)22館へのまんが所蔵アンケート結果(2012年8月。広島市まんが図書館)。

(14) “東京国際マンガ図書館”.明治大学.
http://www.meiji.ac.jp/manga/, (参照 2012-09-25).

(15) 藤村潤平. 旧市民球場 2分野案に絞る. 中国新聞. 2012-07-12, 朝刊, 25面.
藤村潤平. 旧広島市民球場「スポーツ複合型」検討継続. 中国新聞. 2012-08-25, 朝刊, 18面.

 

Ref:
山口美咲. 公共図書館におけるマンガ資料の選択・収集に関する研究. 明治大学, 2012, 修士論文.

 


吉田宏. 広島市まんが図書館の現状と課題について. カレントアウェアネス. 2012, (314), CA1782, p. 8-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1782