カレントアウェアネス
No.231 1998.11.20
CA1224
ニューヨーク公共図書館での新しい利用者教育
米国のニューヨーク公共図書館(New York Public Library: NYPL)は研究図書館部門と分館部門とで構成されているが,その研究図書館部門の4番目の図書館として,科学・産業・ビジネスを専門とする公共情報センター(Science, Industry and Business Library: SIBL)が,1996年5月2日にオープンした。この方面の公共情報センターとしては世界最大級である。SIBLは,マンハッタンにおよそ100億円をかけて建設された。所蔵資料分野は広告・マーケティング・金融・労使関係・不動産関係などにわたる。また,自然科学はもちろんのこと,特に数学やコンピュータ関係にも強い。国内外の紙媒体や電子媒体資料を含め,その数は調査用資料およそ150万冊,貸出用資料5万冊,逐次刊行物1万タイトル,データベース100タイトル以上にも及ぶ。SIBLの一日の来館利用者はおよそ2,500人で,学生や研究者,企業経営者,小規模の会社や法人団体のメンバーと幅広い。来館利用者の他にも,電話やSIBLのホームページを通じて相談を寄せる遠隔利用者もいる。
ところでSIBLでは,様々な資料にアクセスしたい利用者に対して,ユニークな利用者教育プログラムを無料で提供している。1時間から1時間半のコースは,図書館の使い方,インターネットの使い方,ビジネス・政府・科学技術情報の探し方,データベースの使い方等多様である。特に“ABI/Inform for Business Information”,“Dow Jones News Service for Company, Industry and Financial Information”等ビジネス関係のデータベースに対する利用者の需要は大きく,それが開設プログラムの内容にも大きく働いている。1998年11月初旬現在,参加者は30,000人ほどである。
プログラムは電子機器教育センター(Electronic Training Center: ETC)の専門スタッフによって運営され,ETC内の最新式設備をもった教室で実施されているが,情報サービス担当のライブラリアンは,全員毎週最低1クラスを担当しながら,本来の図書館職員としての仕事もこなさなければならない。プログラムは参加者や担当講師からのフィードバックの分析に基づき随時改良が加えられる。また,最近では,担当者のプレゼンテーション能力の向上をめざした研修会を開催したり,プログラムの質を評価する委員会を発足させた。
NYPLは,レファレンスサービスやコレクション構築,テクニカル・サービスなどと同様に利用者教育も重要だと以前から考えてきた。SIBLの利用者教育プログラムも,そのようなNYPLの方針に基づくものであろう。公共図書館における利用者教育の是非については議論があるが,SIBLの今回の試みは,教育プログラムを重要なサービスの一つと位置づけている点,示唆するものが多いように思われる。
土屋 慎一(つちやしんいち)
Ref: Mark, B. User education at NYPL's new SIBL. C & RL News 58 (9) 633-636, 1997
Esther, H. New York's new door to the information age. Am Libr 27 (6) 58-59, 1996
関 善一 ニューヨーク公共図書館 科学・産業・ビジネス図書館を見学して ひびや(147)2-7,1998
木下玲子 The Society -1- ニューヨーク公立図書館 Foresight 8(10)78-84,1997.10
New York Public Library, Science, Industry and Business Library.(last modified 1998.11.6)[http://www.nypl.org/research/sibl](last access 1998.11.9)