CA1044 - 危機に瀕する政府情報 / 内海和美

カレントアウェアネス
No.197 1996.01.20


CA1044

危機に瀕する政府情報

ホダスキーは20年間アメリカ連邦議会印刷合同委員会(Joint Committee on Printing:以下JCP)のスタッフとして勤務し,アメリカの政府情報政策及びその実施に多大な影響力を与えてきた人物である。その彼女が,1995年1月,JCPを退職することを余儀なくされた。その背景には,連邦議会や印刷・出版業界からの,JCPのみならず政府印刷局(Government Printing Office:以下GPO)をも廃止してしまおうとする動きがあったのである。

GPOは1860年に創立され,組織的には連邦議会に属する。議会資料の印刷・刊行を行うばかりでなく,政府刊行物の印刷・製本業務及び管理・販売,政府刊行物総目録の作成,さらには,後に記す寄託図書館制度(Depository Library System)の運営という実に多様な活動を行っている。このGPOを管理し,業務の怠慢・遅延・無駄等を改善するための対策をとることを任務としているのがJCPである。

この,世界最大の印刷機関と言われ,今日あまりにも巨大化したGPOに対して,まず,経費削減を至上命題とする議会が,廃止へと動き出したのである。これに対してホダスキーはGPOの廃止にはあくまでも反対するが,規模の縮小は必要であると考えている。実際,この20年間で,GPOの職員は8,000人から4,000人へと半減し,1980年代には,印刷所も半減した。しかしそれを補うものとして現在進められているのが,政府情報の電子情報化である。寄託図書館制度を通じての,電子フォーマットによる政府情報提供の試み,GPO Access Systemはその一環である。

しかし,JCP,GPO廃止を画策する本当の理由は別にあるとする見方もある。JCPさえ廃止してしまえば,政府情報と関わりあいを持つ利益団体と,公共の利益とのバランスをとりながら,政府情報の一元的監理・政策立案をする主体がなくなってしまうからである。

JCP,GPO廃止を支持する団体にはまず,民間印刷業者が挙げられる。GPOが持つ膨大な量の政府刊行物の印刷の権限を獲得できれば,莫大な増収へとつながることは明白である。また,印刷設備製造業者も,GPOが担っていた機能の分散化により,機器の売り込み先の拡大を狙っている。

ここで,このような動向をなぜホダスキーは憂えているのか,問題の本質に帰りたい。そのためにはまず,GPOの主要業務の一つである寄託図書館制度について触れる必要がある。GPO及びその他の連邦政府諸機関により刊行された政府刊行物は,法律により指定された図書館に無償で提供され,その管理・運用が委託される。これが寄託図書館と呼ばれるものである。寄託図書館には,政府刊行物の中から,depository itemと定められた刊行物の全てを受け入れる義務のあるものと,各館がその図書選択方針や地域の利用傾向等を勘案して決めたitemのみを受け入れるものの二種類が存在する。しかしどちらも,閲覧希望者に対し,自由に,しかも無料で利用に供さなければならないことになっている。つまり,国民はこの寄託図書館制度によって,必要とする政府情報に自由かつ容易にアクセスすることができるのである。言い換えれば,寄託図書館制度は,国民の知る権利を保障するものと言うことができる。

これが,JCP,GPOの規模縮小に止まらず,廃止へと向かい,政府情報提供に関する権限が民間営利業者へと渡ってしまえば,今までのような自由で容易な政府情報へのアクセスは困難となってしまうであろう。

現代社会においては,政治・経済・社会生活を営む上で,複雑でしかも高度に専門技術的な問題に対して国民自身が判断を下さなければならない場面が多くなってきている。そのような社会にあって,国民が自ら判断し,政治主体となるためには,必要とする政府情報を必要な時に入手できる環境は,制限されることがあってはならない国民の権利なのである。

ホダスキーは述べている。「政府が出版活動を行っている根本的な理由を理解している人は非常に少ない。政府がなぜ情報を広めようとしているのか――それは,情報こそが私達を自由にしてくれるからなのです。」

では,図書館に勤務する者として,GPOを存続させるためにしなければならないことは何なのか。それは,全ての議員と会い,政府情報がどのように利用されているかを示すこと,さらに,議員を図書館に招待し,議員と政府情報利用者との間で真剣な議論を戦わせ,政府情報の重要性を認識させることである,とホダスキーは考えている。

内海 和美(うちうみかずみ)

Ref: Bernadine Hoduski speaks: the current crisis in government information. Libr J 120(9) 28-29, 1995
Federal depository libs. online via GPO access program. Libr J 120(7) 19, 1995
Robinson, Judith Schiek. Tapping the Government Grapevine. Oryx Press, 1988, p.13-28