CA673 – マイクロ波で資料の害虫駆除 / 大橋邦生, 兎内勇津流

カレントアウェアネス
No.130 1990.06.20


CA673

マイクロ波で資料の害虫駆除

ニューヨーク州立大,環境科学・林学研究室で,マイクロ波を利用した害虫駆除法が研究されている。従来,燻蒸処理等の方法はあったが,安全性や費用,資料そのものに対する影響が問題となっている。この点,マイクロ波の利用はその解決策としてユニークである。

○マイクロ波の性質

マイクロ波を用いた調理器具(いわゆる電子レンジ)は,現在幅広く使われている。マイクロ波は,水や脂肪の分子を振動させ,温度を上昇させる。多くの生命体は水と脂肪を含んでいるため,マイクロ波の作用で細胞は破壊され,タンパク質は変性をおこす。しかし,紙や羊皮紙は,水分含有率はおおむね8%以下であり,マイクロ波に対して安全である。

マイクロ波による害虫駆除には,次のような利点がある:一般の人でも安全に行なえる,残滓をださない,すぐに終了できる,安価である,生物のみに選択的に作用するなど。

○テストの結果

最近の出版物を用いて,マイクロ波による有害な効果がないかどうか,テストが行なわれた。

家庭用電子レンジ内で,3分間,720ワット(強度:強)のマイクロ波では,一部のソフトカバー資料のページがとれてしまったのを除いて,変化は認められなかった。但し,金属塩を含有する可能性をもつ再生紙,皮革装丁資料など,適用に注意すべき,または,適用できない資料もある。

殺虫効果の方は,639ワット(強度:中)70秒の照射で十分という結果である。なお,長期的影響について,現在調査を続けている。

○利用に向けて

図書館の防虫対策は,虫の生活条件全体から考えてゆく必要がある。つまり,侵入口を減らし,壁の割れ目や,使われていない配管をふさぐなどして,その休息所をなくしてゆくなどである。また,専門家の協力を得て化学薬品も使用される。ここまで体制が整った段階で,マイクロ波の適用は有効となる。電子レンジを出納台に備えつけ,返却された資料にマイクロ波をあてることで資料に付着して虫が書庫に入り込むのを防ぐことができる。ブレズナーたちは,このような使い方を想定している。

大橋邦生,兎内勇津流

Ref. Brezner, J., et al.: Nuke'em! Library Pest Control using a Microwave, Library Journal 114 (15) 60-63, 1989.