E935 – 図書館員に対する効果的なメンタリングとは<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.151 2009.06.10

 

 E935

図書館員に対する効果的なメンタリングとは<文献紹介>

 

Shin Freedman. Effective Mentoring. IFLA Journal. 2009, 35(2),  p.171-182.  http://archive.ifla.org/V/iflaj/IFLA-Journal-2-2009.pdf, (accessed 2009-06-04).

 メンタリングとは,職場において,上司・部下の関係とは別に,知識や経験を持つ人(メンター)が若手職員等に対し指導を行う制度で,1980年代から盛んになったものとされる。この文献では,図書館(研究図書館)におけるメンタリングについて,著者自身が大学図書館職員としてメンタリングを受けた経験も交えつつ,現状と課題等をまとめている。

 著者はまず,図書館界でメンタリングが重要となっている背景として,情報通信技術の発達による図書館業務の変化に加え,図書館員の年齢構成をあげている。図書館員は他の職種に比して平均年齢が高く,今後,2015-2019年をピークとして大量に退職者が発生する(CA1583参照)ことから,図書館員を採用・補充する必要が生じており,その際にメンタリングが重要な役割を果たすことができるとしている。

 メンタリングには,業務の成功を支援する「キャリア支援」と,関係の個人的な側面に基づく「心理社会的支援」の2つの機能があるとし,実施に当たっては,サポートとフィードバックが重要であるとしている。メンタリングにより,被指導者側には,自信の獲得,モチベーションの維持,スキルや知識の向上等の効果があり,また,メンター側にも,他人を支援することによる満足感,職務への姿勢の刷新,考え方への刺激等の効果があるとしている。その結果,組織全体として,職員の定着やリーダーシップの向上等の効果が得られるとしている。

 研究図書館におけるメンタリングについては,図書館員のキャリア段階や職務と密接な関係があるとし,5つに分けたキャリア段階ごとにメンタリングのテーマやふさわしい方式等を示している。メンタリングのプログラムが最も用いられるのは,終身在職権(tenure)や昇進を得るための段階においてであるとしている。課題としては,制度への理解が少ないこと,旧来からの人的つながりを打破しがたいこと,組織としてメンタリング制度を育成する文化がないこと,等をあげている。

 図書館で用いられることの多いメンタリングの方式として,(1)組織内での一対一という伝統的な形式のメンタリング,(2)同僚間でのピア・メンタリング,(3)複数人が一人のメンターから指導を受けるグループ・メンタリング,(4)被指導者が計画する自己管理型のメンタリング,(5)専門職協会でのメンタリング,の5つが紹介されている。

 まとめにあたって著者は,これまで図書館組織はメンタリングの導入にあまり積極的でなかったことを指摘し,図書館が現在直面している様々な課題(急速な職員構成の変化,人材不足,必要なスキルの変化等)に対応するためにメンタリングが有用であるとしている。そして,効果的なメンタリングとは,個々の図書館員の能力を向上させるだけでなく,組織としての生産性を高めるものでなければならないとしている。

Ref:
CA1583