E883 – 人文科学にとっての図書館とは?(米国)

カレントアウェアネス-E

No.143 2009.02.04

 

 E883

人文科学にとっての図書館とは?(米国)

 

 米国芸術科学アカデミー(American Academy of Arts and Sciences)は2009年1月7日,米国における人文科学の現況に関する統計データを集約し,人文科学のベンチマークたる「人文科学指標(Humanities Indicators)」のプロトタイプ版として,オンラインで公開した。

 これは,米国の文化における人文科学の意義を検証し,21世紀において健全な状態であり続けるためのリソースや政策を開発することを目的とした,同アカデミーの“Initiative for Humanities and Culture”プロジェクトの一環で作成されたものである。「データなしに,人文科学の効果,影響,必要性を評価することはできない」として,米国科学委員会(National Science Board)が策定している“Science and Engineering Indicators”に倣い,経験的データを集約したのだという。今回のプロトタイプでは,(1)人文科学と初等中等教育,(2)人文科学と大学・大学院教育,(3)人文科学の人材,(4)人文科学への助成と研究,(5)米国人の生活における人文科学の5分野,合計74の指標が集められ,その説明用に200以上の図表が付されている。さらに,各分野ごとに,指標の値から現状を解釈したエッセイがまとめとして収録されている。これらの指標については,新しい数値が入り次第,更新していくとのことである。

 これらの指標の中には,図書館に関するものもある。大学・研究図書館に関しては,(4)の4つのセクションのうちの1つ「人文科学研究へのサポート」の中に,「指標IV-11 研究図書館」が含まれている。また(5)の4つのセクションのうちの1つが「公共図書館」となっており,「指標V-7 公共図書館の蔵書数」「指標V-8 公共図書館の利用」「指標V-9 公共図書館におけるインターネットアクセス」「指標V-10 公共図書館の支出と資金源」「指標V-11 公共図書館司書の数と研修」の5つの指標が設定されている。さらに公共図書館とは別に,(4)のセクション「人文科学への州の助成」の中に,「指標IV-4 州立図書館機構」が含まれている。このほかに,図書館の名を直接冠してはいないが,図書館に深く関わる識字,読書,学術出版などに関する指標も挙がっている。

 (4)のエッセイでは,「多くの人文科学者が必要としているのは時間とアーカイブや図書館を有する研究機関へのアクセスである」としながら,多くの研究図書館で逐次刊行資料の購入が増え単行書の購入が減っていることが,大学出版の落ち込みとともに厳しい状況だと捉えられている。また(5)のエッセイでは,「コミュニティの文化センターとしての図書館機能は,良い値を示している」と評価されている。

 図書館は人文科学だけに関わっているわけではないが,図書館が学問にどのような影響を及ぼす存在であると見なされているのか,その一端をここで取り上げられている指標やその分析レポートから知ることができ,興味深い。

Ref:
http://www.humanitiesindicators.org/humanitiesData.aspx
http://www.amacad.org/news/hrcoAnnounced.aspx
http://www.nsf.gov/statistics/seind08/
http://www.humanitiesindicators.org/essays/brinkley.pdf
http://www.humanitiesindicators.org/essays/ellison.pdf