カレントアウェアネス-E
No.126 2008.04.16
E773
イラク国立図書館・文書館の最新情報
2007年7月以後2008年3月までのイラク国立図書館・文書館(INLA)の状況を紹介するエスカンダー(Saad Eskander)館長の特別レポートが,英国図書館(BL)のウェブサイトに掲載されている。例えば,次のようなできごとが報告されている。
- 1か月当たりの来館者の数が240人から750人に増加した。
- 納本制度により,699冊の図書,68タイトルの逐次刊行物,1,229点の学位論文を受け入れた。また2,488冊の図書を購入するとともに,BLのコーディネートのもと,英国の大学図書館から300冊の図書の寄贈を受けた。
- “Pioneer Library”なる新しい図書館を今年中に着工する予定である。
- 職員の子どもが宗教的理由で誘拐・殺害された。
INLAの状況に関してはこれまで,INLAの支援活動を行っているBLが特設ウェブサイトを設け,エスカンダー館長の日記を公開してきた(E608 参照)。この日記は世界中の多くの図書館・文書館関係者の関心を集め,またINLAの活動を支援する国際的な動きにもつながっていたが,同館長は2007年7月,「命を失ったり,悲惨な目にあったり,被害を受けたりしたスタッフのことを食い物にしているようで呵責を感じる」として,日記の公開を終了していた。今回公開された特別レポートは,その後の状況を,エスカンダー館長が報告したものである。
この特別レポートからは,本稿冒頭に記した来館者の増加や蔵書構築の着実な進捗に加え,インターネットへの無料アクセスサービスの開始,ノートパソコン,複写機,エアコンなど新しい設備の導入,水に濡れて傷んだオスマン朝時代の記録文書の修復や歴史的文書のマイクロ化といった資料保存活動の実施,職員へのIT研修の実施,全国書誌を始めとする各種書誌の刊行,各行政官庁からの公文書の定期的な移管など,国立図書館・文書館として担うべき各種業務が着実に行われていることがうかがい知れる。また新しい図書館の建設予定があるほか,INLA内の女性職員が「女性デー(Woman Day)」に表彰されたなど,喜ばしいニュースもいくつかあったという。
その一方で,悲惨なニュースも相変わらず発生している。本稿冒頭の例のほかにも,職員の家族が行方不明になっている事件が2件あるほか,自動車爆弾により,建物の窓が95枚以上破損したという。
BLは今後も,INLA復興の状況を定期的にウェブサイトで提供していく予定であるとしている。次回の更新時には,INLA復興のいっそうの進捗とともに,悲惨なニュースが減り,喜ばしいニュースが増えていることを期待したい。
Ref:
http://www.bl.uk/iraqreport.html
http://www.iraqnla.org/fp/art/art7.htm
http://www.iraqnla.org/wpeng/
E608