カレントアウェアネス-E
No.112 2007.08.29
E682
イェール大の決定,OA出版のビジネスモデルに一石
2007年8月3日,イェール大学のカッシング・ホイットニー医学図書館(Harvey Cushing/John Hay Whitney Medical Library)とクライン科学図書館(Kline Science Library)が,BioMed Centralへのオープンアクセス・メンバーシップを打ち切ることを発表した。
BioMed Centralはピアレビューされた生物学・医学論文をオープンアクセス(OA)で刊行しており,出版費用は主に論文を投稿した研究者からの投稿料により賄われている。だがこのような刊行形態は研究者に金銭的負担を強いることから,研究者に代わり所属する学術・研究機関がBioMed Centralに会員登録することにより,研究者に代わり出版費用を拠出する「会員資格」(Open Access Membership)制度が設けられている。
イェール大学の発表によると,この制度に基づきイェール大学図書館は2005年度に4,658ドル(約55万円)を負担したが, 2006年度には請求金額が31,625ドル(約365万円)に跳ね上がったという。2007年度もすでに7月の時点で,29,635ドル(約345万円)の請求を受けており,さらに年度内に34,965ドル(約405万円)の追加負担が必要になる見込みであるという。この負担増を背景に,BioMed CentralのOAモデルは技術的には受け入れられるものであるが,長期的な収益をもたらすビジネスモデルの構築には失敗しており,持続可能でないと,イェール大学側は指摘している。一方で利害関係者が平等にコストを負担する,新たなビジネスモデルをBioMed Centralが提示すれば,出版費用の負担を再検討することにも言及している。
この発表に対しBioMed Centralは8月7日,同社が運営するブログ“BioMed Central Blog”で,イェール大学側の批判に対する反論を展開している。記事では,イェール大学に対する請求金額の増大は,同大学の研究者からの投稿論文数,および掲載論文数がともに年々増加しているからであり,BioMed Centralの成功を意味しているとする。また全体として論文数の増加によりOA出版のコストが増大していることを認めつつも,英国ウェルカム財団の調査報告書『科学研究出版の費用とビジネスモデル』(E196,CA1543参照)を引用して,1論文あたりの出版コストは,商業出版よりもOA出版の方が低廉であることを指摘している。一方で現在のOA出版のコスト構造にも言及し,出版費用を全て図書館の負担とすると,OA出版に対する重大な障害となりうるものの,現在のところ他の資金源が存在しており,OA出版活動を進めてゆく一助となっていると述べている。またBioMed Centralに掲載している論文の約半数で,研究者自身が出版費用を負担している現状にも触れて,「会員資格」制度は学術・研究機関によるOA出版活動の普及支援であり,出版費用の負担が不要である商業出版誌と,公平な条件で競争できる機会をもたらすものでもあると指摘している。その上でOA出版に対する資金源を,多様なルートから持続的に確保していくために,各種研究助成ファンド,研究者,学術図書館などが協力して,長期的な収益をもたらすビジネスモデルの構築を目指していることを表明している。
Ref:
http://elibrary.med.yale.edu/blog/?p=495
http://www.library.yale.edu/science/news.html
http://blogs.openaccesscentral.com/blogs/bmcblog/entry/yale_and_open_access_publishing
http://www.biomedcentral.com/info/about/membership_jp
E196
CA1543