E664 – LC,資料劣化調査にセルロースの専門家を招聘

カレントアウェアネス-E

No.109 2007.06.27

 

 E664

LC,資料劣化調査にセルロースの専門家を招聘

 

 米国議会図書館(LC)は約1億3千万点の資料を所蔵する,世界を代表する図書館のひとつである。所蔵資料には図書や雑誌をはじめ,希覯書,文書類,映画フィルムなどの貴重なものが多数含まれている。

 この貴重な資料の保存に関する研究については「保存研究・試験部門(Preservation Research and Testing Division)」が重要な役割を果たしている。保存研究・試験部門は酸性紙の「脱酸化処理」(CA1152CA1252参照)やデジタル資料の保存など,資料保存に関する科学的観点からの調査研究を行うとともに,修復部門などと連携して,資料の修復・保護・保管に関する機材や技術に関する基準・標準を策定している。このほど保存研究・試験部門は,フロリダ州立大学の分析化学の助教授で,セルロースをはじめとする多糖類の研究者であるシュトリーゲル(Andre Striegel)を招聘した。

 図書や雑誌,文書類からフィルムに至るまで,図書館の所蔵資料の多くは,セルロースを主成分とする素材からできている。そのため,資料の劣化や保存,修復などの研究を進めていく上で,主要な素材であるセルロースに着目することは不可欠である。シュトリーゲルは2007年夏の約2か月間,セルロースで構成された資料の劣化と,負荷軽減に向けた方法論の研究をおこなう。シュトリーゲルによると,原材料を加工しセルロースを生成する過程で,セルロース分子にはストレスとなる様々な加工が加えられ,分子レベルで損傷が発生する。この過程で生じた損傷が,最終加工品である紙やフィルムにも影響を及ぼす。そこで加工過程でセルロースに加わった損傷を研究することにより,より耐久性のある製品を生み出すための製造過程の再検討を実施する。この研究は,LCが所蔵する劣化が進行している資料の保存にも有益な知見を与えることができる,とシュトリーゲルは指摘している。

 具体的な研究方法は,セルロースを主成分とする劣化の進んだ資料を,超音波測定による非破壊的手法で調査し,データの収集・分析を実施するというものである。

 シュトリーゲルは,LCに招聘されている期間内に,セルロースの研究のほか,録音磁気テープの劣化など資料劣化に関する助言活動や講演会などの活動もおこなう予定である。

Ref:
http://www.fsu.com/pages/2007/06/04/LOCTreasures.html
http://www.loc.gov/preserv/
http://www.loc.gov/preserv/rt/PRTDinstruments.pdf
CA1152
CA1252