E2147 – 米国における子どもと家庭の読書の実態に関する全国調査

カレントアウェアネス-E

No.371 2019.06.27

 

 E2147

米国における子どもと家庭の読書の実態に関する全国調査

 

    児童向けの出版・教育などを手掛ける米国のScholastic社は,2019年1月から5月にかけて,子どもと家庭の読書状況に関する全国調査についての一連の報告書“Kids & Family Reading Report”の第7版を公表した。

    本調査は同社が隔年で実施しているもので(E1108参照),今回は6歳から17歳までの子どもとその保護者1,040組と,0歳から5歳までの子どもの保護者678人を対象に,2018年9月6日から10月4日にかけて実施された。調査結果は「読み聞かせの普及」(The Rise of Read-Aloud),「自分の物語を見つける」(Finding Their Story)及び「夏休みの読書の必要性」(Summer Reading Imperative)の3つのテーマにそってまとめられ,テーマごとに報告書が公開されている。

    各報告書の概要は以下のとおりである。

  「読み聞かせの普及」では,家庭での読み聞かせに関する調査結果がまとめられている。乳幼児に読み聞かせをする保護者の割合は,過去2回(2014年,2016年)の調査と比較して増加しており,読み聞かせを0歳から始める家庭も増加している。また,読み聞かせが好きだと回答した割合と,読み聞かせは互いにとって特別な時間だと回答した割合は,保護者と子どもの双方でいずれも80%を超えた。前回の調査と比較して,家庭での読み聞かせの頻度は上がっている一方,子どもが大きくなるにつれその頻度は下がり,9歳以降は急速に低下する。この理由について保護者に尋ねたところ,「子どもが自分で本を読めるようになったから」という回答が最も多かった。

  「自分の物語を見つける」では,子どもの読書に対する意識や傾向がまとめられている。読書が好きな子ども,読書は重要だと思う子ども,よく本を読む子どもの割合は,いずれも8歳から9歳の間に大幅に減少することが明らかになった。一方,保護者と子どものいずれも半数以上が,「本は困難な状況を乗り越える助けになった」と回答しており,子どもが登場人物に求めるものの上位3つとして「こうなりたいと思えること」「困難に立ち向かい乗り越えること」「自分に似ていること」が挙げられた。保護者を対象とした調査でも,本の登場人物は子どもの望ましい資質を育む助けになり得ると回答した割合は95%に上った。また,物語の筋や舞台,登場人物に多様性があったほうがよいと答えた割合は,保護者と子どものいずれについても,前回(2016年)の調査より上昇した。本をよく読む子どもの周囲には,親や友人など読書の手本となる人がいる傾向があることも示された。

  「夏休みの読書の必要性」では,夏休みの読書に関する調査結果がまとめられている。報告書冒頭では,“summer slide”(夏休みに授業等がないことによる学力低下)について,低所得層の保護者を中心に認知度が低いことを指摘している。“summer slide”は夏休みに読書量が大幅に減ることが主な原因であり,“summer slide”を意識している保護者は,そうでない保護者と比べて,夏休みに子どもが本を読むよう様々な方法で働きかける傾向がある。また,子どもを対象とした調査では,夏休みの読書は9月から始まる次の学年の役に立つと回答した割合が77%に上る一方,夏休みに全く本を読まないと回答した割合は,前回調査と比較して増加した。報告書では,子どもは主に学校図書館や公共図書館で本に出会うという調査結果に着目し,学校図書館等は夏休みにはほとんど利用できず,特に公共図書館がない地域では本に出会う機会が極めて制限されると述べている。その上で,同社が別途行った夏休みの読書に関する調査研究の結果を引用しつつ,学校と地域,家庭が一体となることが,夏休みの読書をサポートするために大きな役割を果たすとしている。また,現状では,半数以上の子どもや保護者は読書関連のイベントへの参加に好意的であるものの,その多くが学期中に開催されていることから,地域にとっては,図書館や家庭における夏休みの読書推進に協力する好機だと述べている。なお,夏休みの読書を楽しんでいると答えた子どもの割合は59%で,そのうち70%が,理由として,好きなときに好きな本を読めることを挙げた。

   なお,過去13年間の調査を通じて,「子どもは自分で選んだ本は読む」という結果が一貫して得られており,今回の調査でも,89%の子どもが,自分の好きな本は自分で選んだものだと回答した。このことから,子どもにとって,自分で選んだ本を読むことが読書を楽しむための大きな要素となっていることが分かる。また,家庭での読み聞かせの頻度が低下する時期と,子どもの読書に対する興味・関心が低下する時期が,共に8歳から9歳の間に当たるという調査結果は興味深い。

   家庭,学校,地域が一体となって子どもの読書活動を支援することで,子どもが読書への関心を維持し,ひいては好きな本と出会うことや,“summer slide”の解消につながることが期待される。

国際子ども図書館企画協力課・山上慶

Ref:
http://mediaroom.scholastic.com/press-release/litworld-and-scholastic-celebrate-rise-read-aloud-february-1st
http://mediaroom.scholastic.com/press-release/scholastic-biennial-survey-reveals-young-readers-face-challenges-finding-their-stories
http://mediaroom.scholastic.com/press-release/summer-reading-2019-all-about-kids-empowerment-scholastic-summer-read-palooza
https://www.scholastic.com/readingreport/home.html
https://www.scholastic.com/readingreport/access-matters.html
https://www.scholastic.com/readingreport/rise-of-read-aloud.html
https://www.scholastic.com/readingreport/summer.html
https://www.scholastic.com/readingreport/past-reports.html
E1108