E2109 - 第29回保存フォーラム「図書館建築と資料保存」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.364 2019.02.28

 

 E2109

第29回保存フォーラム「図書館建築と資料保存」<報告>

 

 2018年12月21日,国立国会図書館(NDL)は,東京本館において第29回保存フォーラム「図書館建築と資料保存」を開催した。保存フォーラムは資料保存の実務者による知識の共有,情報交換を意図した場である(E2001ほか参照)。

 資料の長期保存のためには,保存に適した環境を維持できる収蔵施設が必要である。本フォーラムは,図書館の設計コンセプトに保存の観点を盛り込んだ例や,資料保存を念頭に置いた施設上の対策についての講演・報告を受けて,資料保存に適した建築や施設完成後に取り得る対策に関して理解を深めることを目的とした。

 以下,当日の内容を紹介する。

●講演「資料収蔵施設の建築と設備」(国文学研究資料館准教授・青木睦氏)

 青木氏は,資料の長期保存を目的とする収蔵施設・設備に求められる諸機能について,保存計画や保存マネジメントといった大枠の考え方を説明した。まずはIPM(総合的有害生物管理)の観点から自館の現状を把握して保存計画を立てることが必要であると述べ,参考となる国際規格や環境指針を示した。また,資料の基本的な劣化因子を挙げ,資料を保管する上で望ましい環境条件を示し,国内外の保存施設における保存対策や,エントランスを除く全施設の窓への網戸の設置といった国文学研究資料館の移転に伴う設備改善の具体例を紹介した。アーカイブ資料と一般的な図書館資料とでは資料の性質や利用頻度が異なることから,設備面での工夫や排架,保管の方法も異なるとし,理論を学んだ上でどのように実践するかは,各館の事情に合わせた対策が必要となるとした。

●事例報告1「東京大学経済学部資料室における建築設計の考え方」(東京大学大学院経済学研究科講師・小島浩之氏)

 小島氏は,東京大学経済学部資料室が入る建物の建築に設計段階から関与した経験を踏まえ,資料保存を意識した図書館の設計に必要なポイントを紹介した。設計において最も重視すべきは断熱・防湿環境の構築であり,保存環境を適切に管理することが必要であることを示した。また,同室では職員と資料の動線を分離した区画分け(ゾーニング)を行い,区画に応じて足拭きマットや粘着マットを活用する,カーペット類を使用せず,埃がたまらないよう床材を幅木部分まで立ち上げることで清掃しやすい空間設計をするなどして,書庫内に虫やカビを持ち込ませない工夫をしているとのことであった。建築設計を考えるには,まず各々の組織の特徴を押さえた上で資料保存の基本的な考え方を学び,自館にどのように適用するかを各自が考えることが重要であると強調した。

●事例報告2「東京都立多摩図書館―施設からみる予防的資料保存対策」(東京都立中央図書館資料保全専門員・眞野節雄氏)

 眞野氏は,東京都立多摩図書館(2017年1月に移転開館)における設計段階からの関わりや開館以降の予防的資料保存対策の事例について報告した。同館では,水害の危険度が低い土地ではあったものの,ゲリラ豪雨等の昨今の異常気象に鑑みて,水害対策のため地上に書庫を配置したこと,書庫の壁を二重にすることで魔法瓶構造とし,地上の書庫でも温湿度管理がしやすい環境に整備したこと,また,書庫の入口にカビ防止のための粘着マットや「啓発」ポスターを設置したこと等を挙げた。

●事例報告3「国立国会図書館の3施設の概要―資料保存の観点から」(収集書誌部資料保存課保存企画係長・小澤恵美子)

 NDLからは,東京本館,関西館及び国際子ども図書館の3施設について,5つの書庫を中心に,資料の防災や適切な保存環境の観点から,構造や設備の特徴を説明した。また,設備以外の工夫として,資料防災マニュアルの整備や,温湿度モニタリング調査の実施,書庫に塵埃・虫・カビを持ち込まない仕組みを紹介し,これらを行う上で,施設担当者や各現場の職員の理解と全面的な協力が重要であること等を報告した。

 報告終了後の質疑応答では,(1)設計・建築段階で採るべき資料保存上の対策,(2)既存施設を収蔵庫等に利用する場合の留意点,(3)カビ対策の施設面からのポイント等の質疑が交わされた。(1)については,設計の段階で建材やその塗装から有機酸やアルカリができるだけ出ないものを選択するよう業者に依頼する,換気設備には虫・ガス等が侵入しないよう,設置場所に気を付け,立地に合わせたフィルターを使用する,といった指摘があった。(2)については,既存施設を活用する際に,気泡緩衝材・隙間テープや除湿器・扇風機等で温湿度の調整ができるといった指摘があった。(3)については,結露を生じさせないよう断熱する,中性紙ボード等を活用して空調の風が書架等に直接当たらないようにするだけでも効果があるとの指摘があった。思い付く対策を試してみて効果があれば,更に施設や設備の担当に相談してはとのアドバイスもなされた。

 フォーラム閉会後,希望者を対象に,東京本館新館書庫(書庫空調設備,ガス消火設備等を含む)の見学を行った。

 当日の配布資料はNDLの「資料の保存」のページで公開している。

収集書誌部資料保存課・正保五月,橋村稚子

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/preservationforum29.html
https://www.nijl.ac.jp/
http://www.lib.e.u-tokyo.ac.jp/
https://www.library.metro.tokyo.jp/guide/tama_library/
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/outline/equipment.html
http://www.ndl.go.jp/jp/preservation/collectioncare/stacks.html
E2001