E2082 – 千葉大学学術リソースコレクションc-arcの公開

カレントアウェアネス-E

No.359 2018.12.06

 

 E2082

千葉大学学術リソースコレクションc-arcの公開

 

 千葉大学附属図書館(以下「図書館」)及び同アカデミック・リンク・センター(以下「センター」)は,2018年9月6日に「千葉大学学術リソースコレクション(Chiba University Academic Resource Collections:c-arc(シーアーク))」を公開した。

 千葉大学では,「アカデミック・リンク」というコンセプトのもと,生涯学び続ける基礎的な能力を持つ「考える学生」を育成するために,コンテンツや空間の整備および人的な支援活動を行ってきた。2017年度からは,深い専門性を持ちつつも異分野・異文化を横断・融合し俯瞰的に思考する「知のプロフェッショナル」の育成を目指して,大学院生の支援を開始している。その中で,最先端の研究成果や研究資源などのデジタル・リソースを教育の場に活用し,主体的な学びを促す教育の質的転換をめざした「デジタル・スカラシップ」という概念を取り入れた教育研究基盤の一環として,c-arcの構築を行った。

 現在,c-arcで公開されているのは「古医書コレクション(東洋医学古書コレクション)」,「江戸・明治期園芸書コレクション」,江戸時代の古文書「町野家文書」,顕微鏡画像「真菌・放線菌ギャラリー」である。以下,c-arcの特徴を紹介する。

●デジタル・スカラシップ

 デジタル・スカラシップとは,デジタル・リソースを全面的に活用した学術的活動を行うための新しい教育研究基盤を指す概念である。研究成果や研究資源のデジタル化が進展し,教育においてもICTの活用が進む中,教育の質的転換とグローバル化を牽引するために,センターの事業の一つの柱として取り入れている。デジタル・リソースが教育研究に活用されるように促すことがc-arcのコンセプトとなっている。

●IIIFの採用

 近年,急速に広がりをみせているIIIF(E1989参照)を採用し,図書館で従来から運用していたデジタルアーカイブや機関リポジトリのコンテンツの活用を目指した。IIIFは,ウェブサイト上に分散している画像を同じ規格を使うことによって単一のビューアで扱うことができる国際的な画像の相互運用の枠組みである。これにより,他機関の画像との比較研究が簡便に行えるようになる。画像の切取り・回転等,加工する処理を容易に行うことができる機能もあり,教育研究のさまざまな場面で活用されることも期待される。なお,「町野家文書」は,千葉大学所蔵の資料を国立歴史民俗博物館(以下「歴博」)がデジタル化して公開し,c-arcではその画像を表示しており,IIIFの特徴を活かした取組みである。

●利用条件の明示

 デジタル・リソースの利用を促進するためには,公開するコンテンツに適切なライセンスを付し,利用の条件を明確に示しておくことが重要である。c-arcにおいては,原則として,著作権保護期間が満了しているコンテンツにはEuropeanaと米国デジタル公共図書館(DPLA)が共同開発しているRights Statementsを,著作権が存続しているコンテンツにはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを付与することとした。前者を適用する場合は“No Copyright – Contractual Restrictions”と表示し,千葉大学附属図書館が提供するデジタル・コンテンツであることの表示と,改変した場合は改変していることの表示を行えば,特別な手続きなく自由に利用できることを明示している。

●利活用の促進

 公開にあわせ,千葉大学園芸学部教員が収集し,松戸分館が所蔵する「江戸・明治期園芸書コレクション」の貴重書展示を図書館(本館)で開催し,展示物キャプションにQRコードを表示することにより,展示に興味を持った利用者をウェブに誘導する仕掛けを作った。

 加えて,コレクション提供元,関係機関との緊密な連携をしていることが,デジタル・スカラシップの今後の展開のためには重要な点である。歴博のほか,「真菌・放線菌ギャラリー」については千葉大学真菌医学研究センター,公開準備中の「萩庭植物標本」については原資料を収蔵している国立科学博物館の研究者と打合せを重ねながら進めており,今後の利用の掘り起こしや大学の教育研究活動における活用を促進することを狙っている。

●教職協働の事業体制

 c-arcの構築は,センターのデジタル・スカラシップ開発部門のプロジェクトとしてワーキング・グループを設置し実施した。センターの教員3人と図書館の職員9人の教職協働事業である。教員も職員も各人のスキルを活かして,システムの構築,データの整備,ウェブサイトの構築,ライセンスの検討,広報・渉外を分担した。その結果,構想から約11か月,ワーキング・グループ設置から約5か月という短期間での構築・公開が可能となった。

 c-arcでは,デジタルと紙の資源を融合した利用が今後さらに進み,大学における学術活動全般が大きくデジタルへとシフトすることを想定し,今後もコンテンツを増やし,利用環境の整備を進めていく予定である。

千葉大学附属図書館・高橋菜奈子

Ref:
https://iiif.ll.chiba-u.jp/main/
http://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2018/20180910c-arc.pdf
https://iiif.io/
https://rightsstatements.org/
https://www.ll.chiba-u.jp/topics/2018/topics_20181001_tenji.html
E1989