E2044 – 公立図書館における地域資料サービスに関する報告書について

カレントアウェアネス-E

No.351 2018.07.26

 

 E2044

公立図書館における地域資料サービスに関する報告書について

 

●調査目的

 全国公共図書館協議会(以下「全公図」)は,2016年度・2017年度の2か年で,地域資料サービスについての調査研究に取り組んだ。全国の公立図書館における地域資料サービスの実態を把握・分析し,今後のサービスの一層の進展に資することを目的としたものである。先行調査である『地域資料に関する調査研究』(国立国会図書館2006年度調査;E738参照)の結果と比較して10年の変化を確認するとともに,デジタル化や電子行政資料等に焦点を当てた調査を行うこととした。

●調査内容

 地域資料サービスについて,(1)サービス概要,(2)収集・整理・保存,(3)利用・提供,(4)デジタル化,(5)電子行政資料,(6)連携・協働の実施状況等を調査した。

●調査対象

 図書館法第2条第2項に定められる公立図書館を対象とし,各地方公共団体(自治体)中心館がとりまとめて回答することとした。回答館数及び回答率は都道府県立図書館(以下「都道府県立」)が47館(100%),市区町村立図書館(以下「市区町村立」)が1,304館(98.8%)であった。

●分析の概要

(1)国立国会図書館(以下「NDL」)調査との比較分析
 NDL調査とは調査対象の抽出方法や設問の選択肢が一部異なるため両者を単純に比較することはできないが,サービスの名称,予算配分,自治体発行資料の収集状況,分類方法,件名付与など,多くの調査項目において,10年前のNDL調査と同様の傾向が見られた。

 ただし,「収集方針」の明文化と公開,「書誌データ作成」におけるMARCや他館が作成したものの利用,「保存対策」における媒体変換等の実施の割合が高くなっていた。「広報」,「地域資料サービス事業」,「外部機関からの協力依頼」,「類縁機関との協力方法」等については,NDL調査時よりも図書館側が地域資料についての情報を多く発信し,地域資料が幅広く活用されている様子がうかがわれた。また,地域資料担当職員の配置については,「兼任」の割合が最も多い点はNDL調査と同様だったものの,総数自体は増えていることがわかった。

(2)全公図独自調査項目に関する調査分析
・地域資料の収集・整理・保存
 地方公共団体の規模が大きいところほど多様な資料を収集している傾向にあり,特別コレクションの所蔵率も高かった。また,地域資料担当の専任職員がいる図書館ほど,資料の収集・整理・保存に関わる規程やデータ整備が進み,蔵書管理への取組も積極的・継続的に行われていることがわかった。

・地域資料のデジタル化
 地方公共団体の人口規模が大きく専任職員がいる図書館ほどデジタル化の実施率が高かった。また,図書館の運営主体との関係を見ると,自治体職員のみで運営している図書館よりも,自治体職員中心(一部委託等)や指定管理者中心で運営している図書館の方が実施率は高い傾向にあったが,地域による差は見られなかった。市区町村立では実施できない理由として,具体的なノウハウがないことを挙げたところも多かった。

・電子行政資料に関する取組
 都道府県立では,約57%の図書館が,所属する自治体が公式ウェブサイト上で提供・公開する行政情報の収集を行っているのに対し,市区町村立で行っているのはわずかに9%だった。担当職員数が多い図書館や専任職員がいる図書館ほど実施率は高い傾向にあったが,現状では,紙媒体に印刷して保存・提供している図書館が約78%を占め,電子情報のまま収集することについては,一部の先進的な図書館(E1736参照)で実施されているに過ぎない状況がうかがえた。

・地域資料サービスに関する地域住民との協働
 住民と協働して地域資料サービス事業を実施している(CA1876参照)のは,全体の約2割の図書館であった。実施率が最も高かったのは政令市立(65.0%),最も低かったのは特別区立(13.0%)で,地方公共団体の規模にかかわらず行われていることがわかった。また,一定数の担当職員がいることが,住民との協働につながっていると考えられる。

●分析結果から見えた今後の課題

 多くの人がネットワークに接続して情報を入手している現在,各図書館所蔵の特色ある地域資料のデジタル化と公開,地域に関わる多様な情報の発信は,今後,公立図書館が一層取り組むべき領域である。また,地域の行政資料・情報の把握と収集を行うためには行政各部門との密接な関係づくりが欠かせず,地域機関との連携や,住民との積極的な関係づくり,ボランティアの活用なども重要となる。そして,図書館の運営形態や職員構成が変化する中においては,地域資料サービスを継続的に実施するための職員の育成,研修体制の整備,ノウハウの継承が大きな課題である。

全国公共図書館協議会事務局・堀合儀子

Ref:
https://www.library.metro.tokyo.jp/zenkoutou/report/2017/index.html
https://www.library.metro.tokyo.jp/zenkoutou/report/2016/index.html
http://current.ndl.go.jp/report/no9
E738
E1736
CA1876