E2019 – 認知症にやさしい図書館ガイドライン

カレントアウェアネス-E

No.346 2018.05.17

 

 E2019

認知症にやさしい図書館ガイドライン

 

 2017年10月13日,「超高齢社会と図書館研究会」は,第103回全国図書館大会の特別セッション「認知症と図書館を考える:超高齢社会をともに生きるために」において,「認知症にやさしい図書館ガイドライン」第1版を発表した。同ガイドラインは,「認知症にやさしい図書館」を目指そうとする図書館のための指針である。

 「認知症にやさしい(Dementia Friendly)」とは,「認知症の人に優しくする」ことではない。「あらゆる人が認知症について知り,理解することで,認知症の人が『理解されている』『存在価値がある』『地域に貢献することができる』と感じることができる(ガイドライン1.2)」ことを意味する。

 同ガイドラインは,図書館員や作業療法士などの実務者,図書館情報学や作業療法学,臨床心理学,老年看護学などの研究者のみならず,認知症の人やその家族などの当事者がそれぞれの立場や経験,専門性を尊重しながらともに作成しているところに特徴がある。また,図書館サービスを「図書館から利用者への一方向」からのみとらえるのではなく,利用者(当事者)とともにつくり提供するという双方向性を打ち出した。利用者から図書館への矢印は,利用者志向の図書館サービスを実現するだけでなく,当事者自身が活躍することによって生きがい創出や社会参加につながる。

 同ガイドラインは,7章で構成されている。

  1. 第1章 ガイドラインの目的
  2. 第2章 図書館とは
  3. 第3章 認知症と図書館
  4. 第4章 サービスの対象
  5. 第5章 認知症を理解することの意味
  6. 第6章 認知症の人や家族等とのかかわり方と留意点
  7. 第7章 認知症にやさしい図書館の取り組み

 第1章で,「認知症にやさしい図書館」は,地域包括ケアに主体的に関わり,認知症にやさしい地域を支える一員であり,認知症の人や家族などに,資料や情報,サービス,空間を提供し,認知症の人の社会参加や生きがい創出の手助けをするとしている。第2章では,公立図書館の特徴を簡潔に示している。なお,本ガイドラインは,基本的に公立図書館を対象としているが,すべての館種に応用可能である。

 第3章から第6章は認知症について示している。診断上は社会生活に支障をきたすような状態になると定義されているが,図書館が関与することで,地域の中で認知症の人が心地よく生活することができると考えられる。

 ここでは図書館のサービス対象を,(1)認知症の人(アルツハイマー型認知症,血管性認知症,前頭側頭葉型認知症,レビー小体型認知症),(2)軽度認知障害の人,(3)家族や介護者など認知症の人を取り巻く人,(4)認知症の情報を必要としている人,(5)現在は認知症と直接的な関わりをもたない人,として,各々の症状の特徴などを示すと共に,症状に対する関わり方と留意点を例示している。

 認知症の特性や症状を呈する場合の関わり方を明示することは,ともするとスティグマを助長する,と考える人もいるかもしれない。しかし,2025年に700万人になると言われている認知症の人の症状を明示し理解を深めることは,結果的に偏見を取り除くと考え,ガイドラインでは認知症の特性と症状についての項目を示した。当事者を含めた多くの人が認知症を理解し,その状況に合わせた関わりを持つことができるようになれば,認知症の人にとってもそれ以外の人にとっても,真の意味で,やさしい図書館になるという考え方である。

 第7章は,「できるところから」としながら,「認知症にやさしい図書館」の望ましい姿を示した。例えば,(1)図書館スタッフは,認知症についての深い理解と知識を持つ,(2)資料・情報の提供,講習会の実施を通して,認知症の理解を深めるための普及・啓発を推進する,(3)回想法キットを活用した回想法,音読,読書会,朗読会,ヒューマンライブラリなど,認知症の理解を深めるための普及・啓発や,症状の進行抑制,生活の質の向上等を目的とした図書館プログラムを提供するなどである。

 同ガイドラインは,2018年3月末まで意見を募り,同年4月から改定作業に入っている。その後も世に問いながら,進化するガイドラインを目指す。

筑波大学図書館情報メディア系・呑海沙織
湘南医療大学保健医療学部・竹原敦

Ref:
http://www.slis.tsukuba.ac.jp/~donkai.saori.fw/a-lib/index.html
http://www.slis.tsukuba.ac.jp/~donkai.saori.fw/a-lib/guide01.pdf