E1996 – 米国著作権法の図書館等関連規定改正に向けたモデル条項

カレントアウェアネス-E

No.341 2018.02.08

 

 E1996

米国著作権法の図書館等関連規定改正に向けたモデル条項

 

    2017年9月,米国議会図書館(LC)が所管する米国著作権局は,図書館等に適用される権利制限を規定する著作権法第108条の改正に向けたディスカッション・レポートを公表した。米国著作権局はここ10年以上,デジタル時代に対応した第108条のあり方について,図書館関係者や著作権者,研究者等からなる研究グループを設置するなどして継続的な検討を進めてきた(E778参照)。本レポートは,連邦議会を含む関係者の議論を加速させる枠組の提供を目的とした,新たな第108条のモデル条項を提案している。以下にその主な論点を紹介する。

●適用機関

    現行第108条は,適用対象機関として図書館及び文書館にのみ明示的に言及するが,モデル条項は,新たに「ミュージアム」を適用対象とすることを提案する。それに合わせ,同条の適用を受けることができる図書館等の要件について,現行法が定める収蔵物の公衆による利用可能性等に加え,訓練された職員やボランティアが機関の性質に合わせた専門的サービスを提供していること,適切なデジタルセキュリティを実践していること等を追加することを提案する。


●保存及びセキュリティのための複製

    現行法では,図書館等は,保存又はセキュリティを目的として,未発行著作物を3部まで複製することができる。モデル条項では,発行済/未発行という区分を,デジタル情報の流通実態に合わせ「公衆での流通の有無」に変更し,マイクロフィルムでの複製実務を前提とした「3部」の要件を,デジタル保存にとって「合理的な部数」に変更することを提案する。当該複製は公衆での流通の有無に関わらず収蔵物全体について行えるものとし,複製物へのアクセスに関しては,公衆での流通がされている著作物は職員による機関内からのアクセスのみを,それ以外の著作物は,デジタル形式での外部からのアクセスを一度に1人かつ限られた時間にする等の要件を課した上で認めることを提案する。


●代替物を作成するための複製

    現行法では,図書館等で発行済著作物の代替物の作成(3部)が可能なのは,収蔵する著作物の状態が,損傷したり,変質したり,紛失しもしくは盗難にあったり,媒体の形式が古くなり市場で入手困難になったりした場合で,かつ,公正な価格で未使用の代替物を入手できない場合とされるが,モデル条項では,著作物の状態に「脆弱」を追加することを提案する。


●利用者の求めに応じた複製物の提供等

    現行法では,利用者の求めに応じた複製物の提供等に関して,言語以外の著作物(音楽・絵画・図画・彫刻作品・映画その他の視聴覚資料)を原則として対象外としている。モデル条項では,特に視聴覚資料及び音楽著作物に関しては遠隔アクセスを一度に1人かつ限られた時間に限定するなどの条件を設けた上で,言語以外の著作物に関しても第108条の対象に含むことを提案している。


●著作権保護期間最終20年条項

    現行法では,図書館及び文書館(それらと同様に機能する非営利教育機関を含む)は,著作権保護期間の最後の20年間に入った発行済著作物が,商用利用されておらず,かつその複製物を妥当な金額で入手できない場合には,保存や学問・研究を目的に当該著作物を幅広い用途で利用することができる。これは著作権保護期間を20年間延長した1998年の著作権法改正において設けられた条項である。モデル条項は,1998年の著作権法改正において全ての著作物の保護期間を延長していることとの平仄を取り,本条項を未発行を含む全ての著作物に適用することを提案する。


●契約上の責任との調整

   現行法では,第108条の各規定は,図書館等が複製物を取得したときに負担する契約上の責任には何ら影響を与えないものとされる。モデル条項では,対象となる契約の範囲にアクセス許諾等の「ライセンス」が含まれることを明確化すると共に,保存またはセキュリティ目的の複製を禁ずる交渉不可能な契約やライセンスに反して行った第108条に基づく複製に関しては,図書館等はその著作権侵害責任を負わないものとすることを提案する。


●複製作業の第三者への委託

    現行法では,第108条の各規定に基づく著作物の複製等の作業を外部企業等の第三者に委託することの可否に,何も言及していない。モデル条項では,同条に基づく著作物の利用行為のうち複製の第三者委託を明示的に認めると共に,委託先に関する要件として,複製サービス終了後の複製物保持を契約で禁止すること等を提案する。

   なお,現行第108条には,より一般的な権利制限規定である第107条のフェアユース条項に何ら影響を与えないとする,フェアユース救済条項と呼ばれる規定が存在しており,図書館等は,両方の権利制限規定の適用を受けることができる。例えば大学図書館等による世界最大のデジタル化資料共同リポジトリであるHathiTrustの活動は,第108条ではなく第107条のフェアユース条項に基づき行われている(E1586参照)。米国著作権局は,図書館等の活動にとっての第108条と第107条それぞれの重要性に鑑み,第108条のいかなる法改正にあたっても,フェアユース救済条項を堅持するべきであるとする。

    本モデル条項は,日本における著作権法第31条に関わる検討に与える示唆も多いと考えられる。

東京大学大学院情報学環・生貝直人

Ref:
https://www.copyright.gov/newsnet/2017/681.html
https://www.copyright.gov/policy/section108/discussion-document.pdf
E778
E1586