E1942 – 学術情報流通の「オープンさ」指標あれこれ<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.330 2017.08.10

 

 E1942

学術情報流通の「オープンさ」指標あれこれ<文献紹介>

 

David M. Nichols, Michael B. Twidale. Metrics for Openness. Journal of the Association for Information Science and Technology. 2017, 68(4), p. 1048-1060.

 従来,学術情報流通に関する指標の多くは論文同士の引用関係に基づき算出されてきた。学術文献をオープンアクセス(OA)にすることのメリットも,被引用数が増えるといった点から論じられるほどである(CA1693参照)。しかし学術文献のOAや研究データの公開など,「オープンであること」が推奨されるようになった現在,「オープンさ」そのものを測定する指標があっても良いのではないか。そのような意図のもとで,本文献では既存のオープンさに関する研究等をまとめた上で,新たな観点も加えて様々な指標を提案している。

 なお,本文献では基本的に研究者個人を対象とした指標に焦点をあて,「ある研究者(の研究活動)がいかにオープンであるか」に関する指標としてどのようなものがありえるかを検討している。

●現実的なオープンさの指標:Practical Openness Index

 学術文献のオープンさを調べた調査は従来から存在するが,多くは対象とする文献のリストを用意し,1件ずつタイトル等をGoogle等で検索し,本文を無料で閲覧することができるものの割合を集計している。どのような方法でオープンにしているか,公開している文献のバージョン,再利用等の許諾もなされているか,等までは考慮していない調査が多い。また,多くの調査は特定の研究領域や機関,雑誌群等を対象とするもので,研究者個人に関して指標を構築しようという試みはあまりない。

 以上のように従来の調査には問題があることを指摘しつつも,本文献ではまず従来の調査と同様の,Google等を使って単純に文献が無料で手に入るかどうかを調べるような調査を,研究者個人の単位で行うことを提案している。多様なオープンさの状況を区別した,理想的な指標の構築は現実的ではない。とりあえず手に入るかどうかであればすぐに調べて算出することができ,これを本文献ではPractical Openness Index(OI)と定義している。OIはある研究者の雑誌論文と会議録掲載論文のうち無料で手に入るものの数を,その著者の全論文数で除すことで得られる。すべての論文がオープンであればOIは1,すべてがオープンでなければ0となる。

●オープンにできるものをオープンにしているか:Effective Openness Index

 OIは研究歴の長い研究者にとっては不利な指標である。既に購読型雑誌で公開していたり,著作権を出版者に譲渡してしまった論文を,後からOAにすることは困難だからである。そこで著作権の制限のためにOAにできない文献は分母から除いて,OIを計算し直した指標としてEffective Openness Index(EOI)が本文献では提唱されている。EOIは,「自分の意思でオープンにできるはずのもののうち,実際どれだけをオープンにしているか」を示すことになり,研究者自身の態度を示した指標となる。ただし,ある文献をOAにできるのかどうか,その権利関係を調査することは必ずしも容易ではない。

●長く残りそうな方法でオープンにしているか:Preservation-Friendly Openness Index

 恒久保存を約束された手段など存在しないとはいえ,機関リポジトリや主題リポジトリへの搭載や,OA雑誌での発表の方が,研究者個人のウェブサイトに掲載するよりは確実に保存されそうではある。これらのオープンにする手段の違いを考慮し,OIの分子を,なんらかのリポジトリあるいはOA雑誌で公開された文献に限定した数に置き換えた指標を,本文献ではPreservation-Friendly Openness Index(PFOI)と名付けている。多少の手間を掛けてでも確実に保存される媒体を選ぶ,という研究者の態度を考慮した指標である。もっとも,OA雑誌については消滅するケースもあり,著者本人はオープンにしていたのに消えてしまった文献に関する別の指標(Loss Index)を作る必要があるかもしれない,とも本文献では述べている。

●文献の入手・オープン化にかかるコストを考慮:Acce$$ IndexとOpenness Cost Index

 一口に「オープンではない」(オンラインで,無料で閲覧できない)文献と言っても,実際に入手するときにかかるコストは様々である。このコストの合計額を算出した,ある研究者の成果を全て入手するのにかかるコストを本文献ではAcce$$ Indexと名付けている。単純には,非OA文献のPay per view(PPV)にかかるコストの合算で算出されるが,学会に入った方が安く入手できるといった事情を考慮したり,逆に図書の一部の章について,その図書が絶版の場合の古書の購入価格やILLにかかる時間を考えたり,といったことをしだすとAcce$$ Indexの算出は非常に複雑になる。

 オープン化を推進していく上で,Acce$$ Indexと対になる指標として,逆に文献をオープンにするのにかかったコストを計算した,Openness Cost Indexを考えることの必要性も本文献では指摘している。法的に問題ないファイルを探したり,メタデータを入力してリポジトリに登録したり,といったことには実際どれくらいの労力をかけているのだろうか。OAに非協力的な研究者について理解するためには,彼らがOA化のためにかけているコスト(=労力)についても理解する必要がある。

●引用文献のオープンさを考慮した指標:Open Reference Index

 文献そのものがオープンであっても,そこで引用されている,その文献の議論の土台となる文献がオープンになっていないのであれば,議論の内容を正確に理解しようとしたときには結局,コストをかける必要が出てくる。そこで文献そのものに加えてその引用文献のオープン化状況まで見ようというのがOpen Reference Index(ORI)である。ORIは研究者単位ではなく個々の文献単位で集計され,引用文献に占めるオープンな文献の割合から算出される。

 理想的な学術文献のOAとは,その文献自身がOAであり,引用文献もOAであるだけでなく,さらに引用文献が引用している文献もOAであって,その研究に関わる全ての文献を無料で閲覧できる状況である。このような状態にある文献を,本文献ではFully Open Paperと定義している。Fully Open Paperが実際に存在するかは疑わしいが,理想状態を考えるコンセプトとしては意義がある。そしてFully Openな状況を理想とすると,学術文献のOAを考える際には,学術文献に引用される可能性のある他の情報源(例えば政策文書等)のOA化まで考えていく必要があることも自ずと導かれる。

 多くの指標はメタデータの不足等のためすぐに算出することは困難であるが,例えば自分のOIを計算することはすぐにでもできる。本文献では,「何かをコントロールしたければ,まずその対象を測ることである」という言葉が紹介されている。オープンさの指標を試しに算出してみることで,OAやオープンサイエンスに関わる議論の一つの枠組みを作ることができる。さらに本文献では「ある問題に関する注目を集める一つの方法は,単に測ることである」と付け加える。オープンさの指標のいくつかを実際に構築し,ランキング等として発表することで,研究者のオープンな学術情報流通へのモチベーションを高めることにつながるかもしれない,と著者らは呼びかけている。

同志社大学免許資格課程センター・佐藤翔

Ref:
https://doi.org/10.1002/asi.23741
CA1693

 

 

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