E1941 – 大学図書館におけるIT部門の配置について(米国)

カレントアウェアネス-E

No.330 2017.08.10

 

 E1941

大学図書館におけるIT部門の配置について(米国)

 

 2017年5月,米国のIthaka S+Rは,大学図書館や研究図書館(以下,大学図書館)におけるIT部門の位置づけについての報告書,“Finding a Way from the Margins to the Middle: Library Information Technology, Leadership, and Culture”を公開した。

 大学図書館では,多くの重要なITプロジェクトが進められている。しかし図書館において組織上,IT部門は周縁に置かれ,中核となる術を見いだせていない。そのためIT部門の職員の意見や能力が図書館の運営に活かせていない現状を,本報告書は問題提起している。そして大学図書館におけるIT部門を取り巻く問題をまとめ,IT部門の組織上の配置を周縁から中心へ移行するための提案を行っている。

●図書館におけるIT部門の配置の経緯

 大学図書館ではネットワーク環境の規模の大小は差し引いても,組織におけるIT部門の配置は似通っている。大抵は図書館業務から離れており,大学図書館で独自にシステムやソフトウェアの開発を行うため,図書館から独立した部門として配置されている。IT部門の職員はデータベースやシステムの管理から,端末の保守やコンテンツ開発などの様々な業務を,本来必要な人数より少ない人数で引き受けている。組織によってIT部門の名称に「IT」が含まれるかどうかはまちまちであるが,図書館員としてよりも技術者としての文脈から,彼らの仕事が語られる傾向がある。

●IT部門が組織上周縁に置かれている原因

 本報告書では,IT部門を図書館組織に組み入れることに失敗すると,次の4点の悪影響が発生すると述べている。それは,「IT部門のリーダー候補となる人材の不足」,「IT部門の職員の意見を取り入れる仕組みの欠如」,「IT部門の排他主義が強まること」「世間のITの進歩から図書館が取り残されること」である。

 そして現在図書館でIT部門が孤立している原因を,以下の5点から考察している。

  1. IT部門のリーダーの選考ではITに関する知識量を重視しており,図書館の職員がIT部門に移ることが難しい点
  2. IT部門が図書館の組織内で付属的な位置にあり,各職員の業務の専門性が認識されておらず,IT部門内で各職員の仕事は交代可能であるとみなされている点
  3. IT部門の職員が他部署の業務などの幅広い経験がないことから,図書館で中心的なリーダーシップを執ることに組織が慎重になっている点
  4. ITの仕事のサイクルが速いために,図書館の事業計画にIT部門の意見を反映できない点
  5. IT部門の職員に適切な業務分担がなされず,雑多な仕事を任されており,アイデアを出す余裕がない点

 これらの問題が解消しなければ,ステップアップの機会やより良い雇用条件を求めて,有能な人材が図書館のIT部門から去ってしまうと報告書では危惧している。またIT業界の職場は男性の比率が高く,米国ではゲーム業界やスタートアップ企業等でセクシュアルハラスメントが発生した例がある。こうしたIT業界の背景もまた,女性が多い図書館でITに詳しい人材の確保を妨げる要因の一つとなっている。

 利用者は高度なITにより構築された環境に慣れており,図書館にも洗練されたITによるサービスを期待している。しかし,図書館は時代遅れのテクノロジーの維持に労力を割き,利用者のニーズに応えられていない。こうした問題を図書館は積極的に解決すべきだが,図書館のIT部門は組織が定めた業務に追われ,新たな技術の導入に回す余力がないのが現状である。

●IT部門を図書館の周縁から中心へ動かすための方策

 報告書では最後に,IT部門を図書館の組織の中心に置く方策について,近年組織の中核となった情報リテラシー部門と学術コミュニケーション部門(E1764参照)の事例を先行例として述べている。以下の通り,ITのリーダーシップ,図書館組織の構造,図書館組織の文化との関係の3点からまとめている。

 まず,IT部門のリーダーとなる人材は,高度に専門的な知識よりもIT部門をマネジメントし,図書館の他の部署と調整できる能力が必要であると提言している。図書館組織の構造に関しては,IT部門を従来通り周縁に置くのではなく,組織を横断する形で各部署と関わるように位置づけ,IT部門をよりオープンな職場環境にするべきであると述べる。最後に,図書館組織の文化については,図書館の中心となる業務としてIT部門を位置づけることが,今後の図書館のミッションにおいて,ITが重要な役割を果たす上で不可欠となることを指摘している。

 これらの方策に図書館のリーダーは積極的に取り組み,IT部門の職員の能力を図書館で活かすためにIT部門の組織上の位置付けを改善していく必要があるとしている。

関西館図書館協力課・小野恵理子

Ref:
https://doi.org/10.18665/sr.303501
https://www.cni.org/topics/economic-models/from-invasive-to-integrated-information-technology-and-library-leadership-structure-and-culture.
E1764
E1255