E1255 – デジタル情報サービスへの移行に必要な大学図書館の再定義

カレントアウェアネス-E

No.208 2012.01.19

 

 E1255

デジタル情報サービスへの移行に必要な大学図書館の再定義

 

 米国のEducation Advisory Boardが「大学図書館を再定義する:デジタル情報サービスへの移行を成し遂げる」(Redefining the Academic Library: Managing the Migration to Digital Information Services)という研究報告書を公開した。Education Advisory Boardは,大学の指導者層に対して優良事例の研究や実践的な助言を提供すること等を目的とした組織である。

 報告書は,前半で情報環境の変化について,後半でその変化に対応したデジタル情報サービスへの移行についてまとめられており,後半はさらに「デジタルコレクションの活用」「学術出版モデルの再考」「図書館スペースの再活用」「図書館職員の再配置」の4章に分かれている。冒頭ではこれらの各テーマの要約として計30個の教訓が挙げられている。以下でその一部を紹介したい。

 まず,情報環境の変化については,紙資料の保存庫としての図書館の伝統的な役割は失われつつあるとし,「蔵書の量的価値は急速に低下しつつある」「伝統的な図書館指標では教育・研究に与える影響を測ることができない」「学術雑誌価格の上昇によりオープンアクセス等の異なる出版モデルが求められている」「Google等のサービスが図書館に代わって手軽な情報アクセスを提供している」等の6項目の教訓を挙げている。

 デジタルコレクションの活用については,「電子書籍の普及は転換点を迎え,今後ますます広がっていく」「GoogleブックスやHathiTrust等の大規模デジタルコレクションは低コストで広範囲なアクセスを実現する」「DRMによる利用制限や著作権は依然として最大の障害である」「電子書籍のPatron Driven Acquisition(利用者主導の選書)によってジャストインタイムの資料購入が可能となる」等の5項目を挙げている。

 学術出版モデルの再考については,学術雑誌の価格高騰によって現在の商業出版モデルの維持は不可能だと考えられているとし,「集中共同購入によるコストダウン」「ビッグディールの代替としてのPay-per-Article(論文単位の購入)モデル」「機関リポジトリや論文投稿料の補助等,オープンアクセスへのインセンティブやインフラを提供する機関の増加」等の4項目を挙げている。

 図書館スペースの再活用については,膨大な紙資料コレクションの価値が低下する一方で協同学習等が可能な快適な空間が求められているとし,「資料の除籍・再配置に客観的な利用データ等を活用する」「資料の共同保管・収集によって不要な重複を避ける」「スペースを再活用してラーニングコモンズや学習支援センター等の協同学習を支援する空間を設置する」等の6項目を挙げている。

 図書館職員の再配置については,図書館の重点が紙資料の収集・保存・提供からシフトするにつれて職員の役割も変化していくとし,「目録業務はもはや各館で行う業務ではない」「レファレンスサービスのニーズ減少に対して機関を超えたスタッフの共有を行う」「エンベディッドライブラリアン(CA1751参照)が教室やオンライン等で講習を行う」「研究データ管理のための新しい情報インフラが求められる」「高度な専門性を持つ人材を学内他部署と共同で採用する」等の9項目を挙げている。

 報告書本文は80ページ近くある大部なものだが,72個のトピックが図表を活用して1ページずつにまとめられており,読みやすいものとなっている。大学図書館関係者にとって一読の価値があると思われる。

Ref:
http://www.educationadvisoryboard.com/pdf/23634-EAB-Redefining-the-Academic-Library.pdf
http://www.educationadvisoryboard.com/
CA1751