E1873 – “World e-Parliament Report 2016”から見える図書館の役割

カレントアウェアネス-E

No.317 2016.12.22

 

 E1873

“World e-Parliament Report 2016”から見える図書館の役割

 

   “World e-Parliament Report 2016”(以下「本レポート」という。)は,列国議会同盟(IPU)及びチリ議会下院が2016年6月に共催した“World e-Parliament Conference 2016”へ向けてまとめられたレポートである。議会機能の強化と透明性等の向上のため情報通信技術(ICT)を活用する議会,すなわち電子議会(e-Parliament)を推進するIPUの活動の一環である。2008年の最初のレポート以降,2010年及び2012年に引き続き4回目の刊行となる。

   読みやすく洗練されたデザインの中に,世界88か国,114の議会及び33の議会モニタリング組織(Parliamentary Monitoring Organizations:PMOs)から得たアンケート調査の結果がまとめられており,議会におけるICTの活用状況を地球規模で俯瞰することができる。ここではオープンデータ及びPMOsに関する調査の2つに絞って紹介するが,調査結果及び分析は多岐にわたる。是非レポート本文を参照されたい。

   このレポートにおいてオープンデータとは,機械による判読が容易なデータ形式で,自由に使えて再利用もでき,かつ誰でも再配布できるようなデータないし情報であって,作者のクレジットを残す以外に条件のないものである。“World e-Parliament Conference”は発足当初より議会文書におけるXMLの採用を推進してきた。XMLを利用することで,文書交換の単純化・自動化,検索機能の改善,文書へのリンク・再利用の簡易化,多様な提供形態への対応等の恩恵が得られ,議会の透明性,開放性やアクセシビリティの向上,パブリック・エンゲージメント(国民関与)の促進に寄与するという。

   本レポートによれば,現在XMLで文書を公表している議会は26%(回答数106)に留まる。PDFで文書を公表している議会が80%(回答数106)に上ることと比べれば,XMLの普及は途上であろう。しかし,XMLに対応した文書管理システムを使用している議会は,2010年レポートの調査から倍増したという。今後,XMLの利活用がますます広まると思われるが,その普及における課題としては職員の知識・養成面の不足やソフトウェアの導入・開発の困難さなどがあり,低所得国にとっては予算制約の問題も大きなハードルとなっている。加えて,オープンデータ等の新しい分野については,国内外の議会や政府機関からのサポートを十分に得ることができないという分析結果も示されている。新技術の利活用について,そのノウハウの共有をいかに行うかも課題であるとされている。

   ここで注目したいのは,本レポートで報告された議会図書館ネットワークの広がりである。議会図書館の80%(回答数103)が国際図書館連盟(IFLA)をはじめとする何らかの国際的ネットワークあるいは地域的ネットワークに参加しているという。議会図書館の連携は,図書館だけでなく,立法関係機関のICT導入に重要な貢献を果たすだろうと本レポートも述べる。XML等のICTの利活用について,図書館ネットワークは情報交換の場として有効に機能するだろう。

   本レポートでは,2012年のレポートに引き続き,PMOsに注目している。PMOsとは,議会情報を収集,分析,発信することで議会機能を高め,パブリック・エンゲージメントを促進する市民社会団体である。議会によるオープンデータの発信とPMOsによる利活用が活発になれば,PMOsの機能もそれだけ強化されることになり,議会機能の向上に資することが期待されている。代表的団体として英国のハンサード協会があるが,本レポートでは近年のPMOsの具体的な活動の例として,日本を含む世界中の国会議員とそのFacebook,Twitterアカウント等の情報を検索できる“EveryPolitician”や,市民活動をサポートするデジタルツールを提供する“Poplus”が紹介されている。

   パブリック・エンゲージメントを促進するには,アクセスしやすく,わかりやすい議会情報を提供するだけでなく,国民の教育・啓発,調査研究の支援など,政治及び議会に対する国民の関心を高める地道な活動が求められる。こうした活動は議会単独では成し得ず,地域コミュニティ,メディア,教育機関等との協力が不可欠である。議会のパートナーとしてPMOsが注目されているが,情報提供及び研究支援は図書館も得意としてきた領分ではないだろうか。

   本レポートは国の議会とその周辺機関について述べられたものであるが,示された議論は地方議会にも応用できる。ICTは国会・地方の議会と国民・市民との間の壁を取り除く可能性を持っている。その可能性を実現するために,新しい技術の情報交換の場として,議会と国民・市民とを繋ぐ仲介者として,図書館が果たすことのできる役割は大きい。

調査及び立法考査局議会官庁資料課・松澤貴弘

Ref:
http://www.wepc2016.org/en/wepr2016
http://doi.org/10.11501/3751406
http://www.publications.parliament.uk/pa/cm201314/cmselect/cmpubadm/75/75.pdf
http://elibrary.worldbank.org/doi/abs/10.1596/978-1-4648-0327-7_ch8
https://www.ndi.org/files/governance-parliamentary-monitoring-organizations-survey-september-2011.pdf
https://www.hansardsociety.org.uk/
http://everypolitician.org/
http://poplus.org/
https://assets.contentful.com/u1rlvvbs33ri/6mhRiacA8wQ4m2OumU2gMu/8e451383204344f99cf8e6079a0727b0/Publication__Connecting-Citizens-To-Parliament-2011.pdf
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