E1823 – 本のある広場からの発信:Book!Book!Okitama2016

カレントアウェアネス-E

No.308 2016.07.28

 

 E1823

本のある広場からの発信:Book!Book!Okitama2016

 

 Book!Book!Okitamaは,山形県の置賜地方(3市5町)で2014年から開催されているブックイベントである。図書館に集う人たちやミニコミ誌を作っている団体のメンバーが立ち上げた実行委員会の主催で,すべてボランティアで企画から運営まで行っている。「本と出会い 人,店,まちとつながる心が通う 9日間」をコンセプトに,(1)著者,編集者,装丁家,ブックコーディネーターといった本づくりや本に関わる方によるトークイベント,(2)一箱古本市(CA1813参照)や紙もの雑貨を販売する紙もの市をメインとした「読書と昼寝の日曜日」,(3)協賛いただいたカフェや書店などで「本」にまつわる限定メニューや企画展などをする「よりみちブックイベント」の三本柱で展開している。全く手探りではじめたイベントであったが,年を経過するごとに協賛店や参加者は増え続け,イベントをきっかけに新しいお店を知ったり,「本」の話題で友人や知人が増えたりと,様々な出会いのきっかけとなり,広く地域に根ざしたイベントとなってきた。

 メイン会場となるのは川西町フレンドリープラザ。川西町出身の作家・井上ひさし氏から寄贈された書籍22万冊を収蔵する遅筆堂文庫,町立図書館,劇場が併設された文化施設である。作家の書き込みや付箋がそのまま残された本を直接手にすることができる文庫を備えた全国的にも稀有な図書館だ。

 3回目となる今年は2016年6月25日から7月3日まで開催し,これまで以上に面白く,個性的なプログラムを用意した。中でも話題となったのは,特別企画「図書館に泊まろう!」である。書店に泊まるイベントは既にあったものの,図書館に泊まるイベントはなく,実行委員会のメンバーから話が持ち上がった。本に囲まれた空間で好きなだけ本を読みながら寝落ち……という夢のような企画。公共施設を使うため,実施にあたっては,町から許可を得た。

 図書館では食事,寝具,シャワーなどの提供はできず,館内での食事も禁止だが,そのかわり,参加者に対して,事前に近場の食事処や銭湯の場所を案内する地図を郵送することとし,本を片手にまちにでかけるきっかけとしてもらうこととした。「全国初!図書館に宿泊できる」と銘打った企画が珍しかったのか,仙台市や関東地方など遠方からも申込みがあり,募集を開始してあっという間に定員の20名に達した。

 7月2日の実施当日,遅筆堂文庫の学芸員による30分程度のガイダンスと書架の案内の後,参加者は思い思いに自分の好きな場所で持参の寝袋や毛布を広げ,寝そべりながら本を読み始めた。「わぁ~,『ももんちゃん』シリーズがある!私はここで寝ようっと」と絵本コーナーで寝転んでいる人もいれば,「江戸川乱歩全集のこの一角がいい。一晩中寝ることができないかも~」と少々興奮ぎみの人も。井上氏の生涯のテーマでもあった「演劇」「農業」関係の棚の間に寝て,同氏の想いを共有したいという人もいた。本棚と本棚の間に寝袋や毛布が敷かれ,参加者がごろごろしている風景は,昼間の図書館とは全く違った異空間へと様変わりした。

 宿泊以外に,夜の図書館を利用したワークショップも開催した。ブックカフェ・6次元の店主であるナカムラクニオ氏による「断片小説ワークショップ」は,図書館にある様々なジャンルの本のタイトルを組み合わせて,30分で短編小説を作るというもの。夢と現実,空想が自由に交錯する不思議な空間と時間帯。何十万冊という本とことばに囲まれて,参加者は自分の内面に持っている「何か」を誘発されたようだった。生み出された小説は,素人とは思えないほど素敵な作品ばかり。ナカムラクニオ氏の狙いは,小説を誰でも気軽に書けるものとしてとらえてほしいということ。読み手だけではなく,書き手もいるというのが,「本の街」づくりになるのではないかとの考えからである。

 上記以外のイベントでは,ライターで編集者の南陀楼綾繁氏と全国紙の整理部担当記者である加瀬賢一氏による,図書館の資料をコピーして,切り貼りしながら壁新聞を作るワークショップ「自分新聞を作ってみよう!」,ブックトーク,読書会など,「図書館」という舞台でできる様々な企画を用意し,参加者に楽しんで頂いた。

 井上氏は遅筆堂文庫の堂則にこう書いている。「当文庫は有志の人びとの城砦,陣地,かくれ家,聖堂,そして憩いの館なり。我等は只今より書物の前に坐し,読書によって,過去を未来へ,よりよく繋げんと欲す」。遅筆堂文庫のような「本のある広場」の図書館や書店,ブックカフェなどでこそ,人と人とが繋がり,知が集積し,そこで問題解決の方法や未来への可能性を見出すことができるのではないかと筆者は思うのだ。

Book!Book!Okitama実行委員会・荒澤久美

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