E1808 – がん相談支援センターと図書館との連携ワークショップ<報告>

カレントアウェアネス-E

No.305 2016.06.16

 

 E1808

がん相談支援センターと図書館との連携ワークショップ<報告>

 

 2016年1月25日,福岡県立図書館で,九州・沖縄地区図書館&がん相談支援センター連携ワークショップ「いつでも,どこでも,だれでもが,がんの情報を得られる地域づくりをめざして」が開催された。

 このワークショップは,国立がん研究センターがん研究開発費「がん情報の収集と効果的な活用,そして評価の在り方に関する研究」(研究代表者:国立がん研究センター・高山智子),科学研究費助成事業「市民の健康支援のための価値互酬型サービスを支える知識共同体の構築」(研究代表者:慶應義塾大学・池谷のぞみ),福岡県立図書館が合同で開催した。主催者であるがん研究センターと慶應義塾大学の研究班では,2015年1月にも大阪府の豊中市立岡町図書館において,「公共図書館員のための医療情報サービス研修会 in 大阪」を開催している。今回のワークショップは,九州・沖縄地区のがん相談支援センターと公共図書館を対象にしたもので,九州・沖縄地区には医療機関が身近にない離島などの地域が多いという特性がある。ワークショップの目的はがんに関する情報の提供によって,患者と家族を含む市民を効果的に支援していくためには,互いにどのような連携を進めればよいのかについて共に考える機会を設けることであった。

 福岡県立図書館の大場茂嘉館長からの開会の挨拶の後,前半に図書館とがん相談支援センターの連携プロジェクトに関する2つの講演の後に4つの先進的事例報告があった。

 まず,がん相談支援センターの立場から高山氏が,公共図書館の立場から慶應義塾大学の田村俊作氏が,図書館とセンターの連携について報告した。両者の報告では,看護師やソーシャルワーカーなどのがん専門相談員が配置されているがん相談支援センターと身近で気軽に立ち寄れる公共図書館の連携により,市民が充実した健康・医療情報を入手できる環境が実現する可能性があることが示された。

 続いて,病院の相談支援と患者図書室・公共図書館との連携の事例4件が報告された。最初に愛媛大学医学部附属病院がん専門相談員の塩見美幸氏が,2011年5月に開設した同院の患者図書室「ひだまりの里」での取り組みについて報告した。同室では,平日の午前中,常駐している専門看護師や認定看護師が相談に応じ,看護師が不在の時間帯でも,相談の希望があれば司書が看護師に電話をつないでいる。このほかに患者やその家族の交流の場である「がんサロン」を図書室で定期的に開催するなど,図書室を活用しての情報提供や相談支援機能の充実が図られているということであった。

 埼玉県立久喜図書館の小西美穂氏は,2009年度から「がん情報」などのコーナーを中心として提供している健康・医療情報サービスについて報告した。埼玉県の疾病対策課の協力を得て,患者会と連携した展示会を行うことを通して,がん相談支援センターを含む各組織とのつながりができ,多角的な情報提供が可能になったという。最近では「妊活情報」「見て・聴いて・感じる読書(印刷された文字が読みにくい方のための読書支援)」のコーナーを作った。さらに,健康・医療情報を選択する際に必要となる情報リテラシーをまとめた小冊子『健康・医療情報リサーチガイド@埼玉』を図書館が作成し,反響を呼んだことも紹介された。

 長崎市立図書館の下田富美子氏は大雪により登壇が叶わず,代わりに上映された下田氏のプレゼンテーション資料と,図書館が2014年10月に作成したがん情報サービスを紹介する動画(E1656参照)からは,その成果の大きさと同館の図書館員の熱意が伝わってきた。同館では2011年より「がん情報コーナー」を設置し,ブックリストの作成や病院等と連携して講座の開催等を行っている。

 前半の締めくくりとして,大阪南医療センターのがん専門相談員萬谷和広氏は,大阪南医療センターと河内長野市立図書館が互いの見学から始め,各機関が発行した印刷物を互いに提供し合い,共同で講演会を開催するに至った1年間の連携の経緯を紹介し,医療機関と図書館が連携を始めるステップとその留意点について述べた。

 当日の後半は,参加者が10班に分かれ,各自の取り組みを紹介し合い,図書館と医療機関との連携について活発な議論を交わすとともに,連携をしていくうえでの課題やアイデア等を出し合った。

 最後に,九州がんセンターの藤也寸志氏から閉会の挨拶があり,閉会した。

 当日は記録的な大雪で交通機関に大きく乱れが出たが,九州・沖縄から,公共図書館や病院の患者図書室の職員,がん診療連携拠点病院等に設置されているがん相談支援センターのがん専門相談員,自治体の医療行政の担当者58名が参集し,関係者を含めて総勢83名が参加した。本ワークショップ実施後,参加した福岡県飯塚市の飯塚病院等の働きかけで,飯塚図書館と近隣の桂川町立図書館に「がん情報コーナー」が設置されたとの報道が最近あり,手応えを感じている。医療機関と図書館の連携が進み,より充実した健康・医療情報に市民が触れられるようになることを期待している。

慶應義塾大学文学部・須賀千絵,池谷のぞみ

Ref:
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/20160125.html
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/files/20160125_02.pdf
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/files/20160125_03.pdf
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/files/20160125_04.pdf
http://ganjoho.jp/data/hospital/consultation/files/salon_guide01.pdf
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/files/20160125_05.pdf
https://www.lib.pref.saitama.jp/stplib_doc/reference/milestone/health_researchannai.html
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/files/20160125_06.pdf
https://www.trc.co.jp/information/150108_nagasaki.html
https://www.youtube.com/watch?v=vYGY_bBNdRI
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/files/20160125_07.pdf
https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-15H02788/
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/medical/article/247979
E1656