E1693 – 2015年ISO/TC46国際会議<報告>

カレントアウェアネス-E

No.285 2015.07.23

 

 E1693

 2015年ISO/TC46国際会議<報告>

 

 2015年6月1日から5日まで,中国の北京でISO/TC46(International Organization for Standardization/Technical Committee 46:TC46)の国際会議が開催された。TC46は「情報とドキュメンテーション」を担当する専門委員会である。今回は,TC46総会と5つの分科委員会(Subcommittee:SC)の総会及び作業部会が開催され,日本からは計5名が参加した。筆者は第9分科委員会(SC9)の国内委員としてSC9の作業部会,総会及びTC46総会に参加した。以下SC9の会議内容を中心に報告する。

 SC9は「識別及び記述」(Identification and Description)を担当している委員会である。SC9総会の今回のトピックとしては,昨年日本が提案を行った「国際図書館資料識別子」(International Library Item Identifier:ILII;E1565参照)の開発状況が報告されたことが挙げられる。ILIIは,「図書館及び関連組織のための国際標準識別子」(ISIL;CA1757参照)と,図書館等が管理する資料に付与されたIDを組み合わせた識別子である。定型的で一意に資料を識別する情報の提供が可能となり,相互貸借(ILL)やシェアードプリントの分野での活用が想定される。昨年の会議で国際規格化のための新業務項目提案(New Work Item Proposal:NWIP)の提出が勧告された案件であり,その後日本の国内委員会で策定したNWIPが昨年7月にSC9事務局に提出された。11月に行われた各国の投票の結果,NWIPは承認され,国際規格案として開発が始まった。現在はSC9事務局よりWD20247の番号を付与され,各国から推薦されたメンバーによるワーキンググループ(WG)のWG13が,ワーキングドラフト(WD)作成に向け,内容を検討している。

 筆者もWG13のメンバーとしてWD作成に関わっており,規格に盛り込む項目やその内容について検討を行っている。原案では,資料の形態を問わず各館がIDを付与して管理するものを対象としている。また,このような対象資料の範囲やISIL部分と資料のID部分の区切り文字列をどう定義するか,またURI(Uniform Resource Identifier;CA1746参照)に関する項目を規格内に盛り込むかどうかといった点を検討している。今後は原案の修正を行い,今年10月にはWDを完成させる予定である。SC9総会での進捗報告では概ね好意的な反応が得られ,今後の規格化への期待が感じられた。

 SC9の作業部会では,ISBNを規定する規格ISO2108を始め様々な規格の改訂について議論が行われた。ISBNのWGでは,委員会原案(CD)に対して出された意見を1点ずつ議論して,検討しており,国際規格に多くの専門家が目を通すことで標準となることを実感した。一方で,国際標準レコーディングコード(International Standard Recording Code:ISRC;CA1226参照)を規定するISO3901のWGでは参加者間で議論が空転し,改訂案の検討が進んでいない状況が報告された。ISRCは音声や映像の記録の成果に付与される識別子であり,コードの重複付与防止や管理用データベースの一元化が改訂の主要な議題となっている。しかし,WDで提示された既存のコード体系の全面見直しなどの抜本的対策に対してはISRCの国際登録機関である国際レコード産業連盟(IFPI)から反対意見が寄せられ,関係者間の意見集約が難しい状況であることが推察された。現行規格の課題に対する改善案と国際規格としてコンセンサスを得られる提案は別であることや,制定された国際規格の影響力の大きさを理解する契機となった。

 このほかTC46総会では,規格の開発手順に関する改善点として,規格の発行の前段階に実施していた最終国際規格案(Final Draft International Standard:FDIS)への投票がオプションとなったことが報告された。これにより規格の開発期間の短縮が期待される。また技術的相互運用性を担当している第4分科委員会(SC4)からは,情報交換のためのプロトコルに関するWG15が今回初めて開催され,対象範囲を文書アーカイブスに関するものからデジタルアーカイブ全体に拡大する方針となったことが報告された。こちらはまだ検討が始まったばかりの段階であり,今後の動向に注視したい。

 筆者はISO/TC46の国際会議に初めて参加したが,総会や分科会を通じて規格開発に積極的に関わるプレーヤーを増やそうとしている印象を受けた。ISOは元々欧米諸国の参加者が中心となって活動してきたが,近年は特にアジア諸国からの新規格の提案やWGメンバーの参加などが期待されている。今年5月には中国が提案した2つのデータを結ぶリンクに付与する識別子 (International Standard Link Identifier:ISLI)がISO17316として発行されるなど,アジアからの具体的な活動成果も出始めており,ILIIの活動もそうした文脈でとらえることができる。ISOを始めとする国際規格の利用頻度の高さやその重要性については論を俟たないが,今後は,国際規格の開発や改訂へ日本が参加を求められる機会がこれまで以上に増えると思われ,日本でもそうした国際的期待に応えられる体制をTC46関係の分野においても整備することが必要と考えられる。

 2016年のISO/TC46会議は,5月にニュージーランドのウェリントンで開催される予定である。

収集書誌部収集・書誌調整課・松田稔広

Ref:
http://www.iso.org/iso/standards_development/technical_committees/list_of_iso_technical_committees/iso_technical_committee.htm?commid=48750
http://www.iso.org/iso/home/standards_development/list_of_iso_technical_committees/iso_technical_committee.htm?commid=48836
E1565
CA1226
CA1746
CA1757