E1690 – 「アウトドアライブラリー」で育てる都心の公園

カレントアウェアネス-E

No.285 2015.07.23

 

 E1690

「アウトドアライブラリー」で育てる都心の公園

 

 2015年6月1日から14日まで,神戸パークマネジメント社会実験実行委員会は東(ひがし)遊園地という神戸の都市公園において「アーバンピクニック」と名付けた社会実験を開催した。神戸市役所の南に位置するこの公園は,都心に位置しながら,土のグラウンドが大きな面積を占め,大きなイベント開催時でもなければ閑散としていた。2014年ごろからいくつかの施策を市役所に提案していた,筆者を含め,市民から立ち上がった発起人数名は,市民が日常的に公園を利用することが,都心の魅力を高めるためには重要だと考え,都市と自然を同時に楽しむことを趣旨とした社会実験の企画を進めることとなった。

 これまでは多くの市民がただ通り過ぎていた公園に,愛着を感じてもらうために企画したプログラムの1つが,「アウトドアライブラリー」である。市民の想いがこもった1冊を並べることによって,本を寄贈した人の想いが公園に残り,それを手に取って読む人にとってもあたたかい想いが伝わってくる。本を通して市民の想いが伝わる場づくりをめざした。

 イベントの開催に先立って,まずは「本棚オーナー」を一般募集した。「本棚オーナー」は,今回のアウトドアライブラリーの運営に主体的に関わる,いわば主役である。8歳から77歳まで多彩な経歴をもつ36組のオーナーがワークショップに参加し,自分が集めたい本のテーマを決めた。「あの人のおかげで出会えた本」や「親子の会話がふくらむ絵本」,「ハゲをはげます本棚」,「『旅』に出たくなる本」など,個性豊かなテーマがならぶこととなった。

 それらのテーマに沿って本棚に収める本は,全て市民から寄贈して頂いた。当初は,一人で多くの本を寄贈してくれる方から集めようと検討していたが,一人一冊に限定し,たくさんの方から集めることとした。メッセージシートを貼付して寄贈者の言葉を本に残して頂くことで,想いのこもった本を集めることができた。寄贈するたびに,東遊園地に一冊分ずつ貢献し,一冊分ずつ想いを残す。市民が公園に愛着を感じて頂くために,本ほどすばらしいアイテムはなかったと感じている。

 開催日までに本棚に10冊の本を集めること。そんな目標を本棚オーナーが掲げることによって,初日には360冊の本が公園に並んだ。実際には,もっと多く集められた本棚も,数冊にとどまった本棚もあったが,開催期間中も会場で寄贈を受け付け続けた結果,本当に多くの市民の想いを集めることができた。

 本棚オーナーは,寄贈者と本を紹介しあうことで交流する「本の交流会」を開催した。会費を支払ってワークショップに参加し,本を集め,交流会を主催するまで,本棚オーナーの36組はまさにアウトドアライブラリーの主役として活動した。そのおかげで,この一時的な「図書館」に対する強い当事者意識をもち,運営に主体的に関わってくれた。最終日には集まった本を持ち帰ってもらったが,自らの経営する飲食店など,一般の方が手に取れるような場所に本を展示している方が多い。

 開催期間中,会場中央に設置したカウンターの四方を本棚とした。貸し出しはしなかったが,それぞれのテーマに沿って集まった本をじっくりと会場内で読む方も多く,寄贈者の言葉を貼付したメッセージシートに感想を書き込む姿も散見された。

 会場には芝生を植えたほか,カウンターを設置してコーヒーや軽食を提供するなど,ゆったりと本を読みたくなる環境を整えた。また,廃校になった小学校の本棚を使ったことも,会場づくりのポイントとなった。芝生とカフェだけでも,今までの公園と比べてはるかに快適で美しい場づくりはできたと感じるが,本がそこに介在することで,多くの方が実際に足を止めて滞在するきっかけを創出できたと実感している。

 これからも,一人一冊の寄贈本とともに市民の想いを公園に残す取り組みを続けることによって,東遊園地を育てていきたい。この事例が,公共空間の有効活用をめざす方々のご参考になれば幸いである。

神戸パークマネジメント社会実験実行委員会
                        事務局長・村上豪英

Ref:
http://urbanpicnic.jp/library
http://kobemd.com/pdf/upol_request.pdf
http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2015/05/20150512041801.html
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