E1679 – IFLAによるディスレクシアの人のためのガイドライン改訂

 

カレントアウェアネス-E

No.282 2015.06.04

 

 E1679

IFLAによるディスレクシアの人のためのガイドライン改訂

 

 2015年3月に公開された「IFLAディスレクシアの人のための図書館サービスのガイドライン 改訂・増補版」(“IFLA Guidelines for Library Services to Persons with Dyslexia – Revised and extended”;以下ガイドライン)は,2001年に国際図書館連盟(IFLA)の専門報告書第70号として発行された旧ガイドラインの改訂・増補版となる。この改訂は,「特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会」(Library Services toPeople with Special Needs Section:LSN)および「印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館分科会」(Libraries Serving Persons with Print Disabilities Section:LPD)による作業グループによって2012年から進められた。筆者も作業グループの一員として改訂作業に携わったので,その視点から紹介する。

 この改訂の取り組みは,DAISYの普及に伴ってディスレクシアの人々の図書館利用が進み,主として視覚障害者の支援を保障する著作権の例外規定が広義の読書障害(print disabilities)に拡大したこと,国連障害者権利条約が採択されたことなどを受けたものであり,障害者サービスを推進する両常任委員会の自然な動きであったと言える。

 2014年8月にリヨンで開催されたIFLA年次大会において,LSNとLPDが共同開催したポスターセッションと分科会の中で,ガイドラインの案が発表された。その後この案は,ディスレクシアの専門家,ディスレクシアの人の支援に関わる図書館員,および標準委員会(IFLA戦略プログラムの一つ)のレビューを経て,IFLAの承認を受け,LSNと標準委員会のウェブサイトにおいてガイドラインとして公開された。

 このガイドラインの目的は,ディスレクシアの利用者へサービスを提供する図書館を支援することである。また,ディスレクシア以外に読むことが困難なその他の利用者に対するサービスにも適用できる。職務経験の多寡に拘らず,読むことや学習することが困難な人にサービスを提供する責任を負う全ての図書館員に,ひとつのツールとして使用してもらうことを想定している。そのために,ディスレクシアの利用者に対する図書館サービスについて,詳細かつ最新の内容がまとめられている。

 ガイドラインは,主として公共図書館を対象としているが,その他,子ども図書館,学校図書館,大学図書館など他のタイプの図書館,そしてディスレクシアの子どもを持つ親に向けたものである。

 旧ガイドラインの視点を拡大して,ガイドラインは,ディスレクシアの定義,支援をする上での著作権などの法的背景,ディスレクシアの利用者に対する図書館や図書館員のサービスのありかたに焦点を当てている。また,電子書籍などディスレクシアの利用者にアクセスしやすい資料とその読み上げ機器,DAISYなどの最新の支援技術も紹介していて,世界の図書館における具体的な好事例も掲載されている。その他,本ガイドラインを図示してわかりやすくまとめたチェックリスト「ディスレクシア?図書館にようこそ!」(“DYSLEXIA? WELCOME TO OUR LIBRARY!”)も提供している。さらに,ディスレクシアの人々に関する基本的な情報と彼らに対する図書館サービスの事例を含めたナレッジベースも作成され,今後,LSNのウェブサイト上で,定期的に更新される予定である。

 また,改訂・増補に当たり,「ディスレクシア」の定義について,「特別なニーズのある利用者グループ」に関する用語定義集を出版したナンシー・パネラの「ディスレクシアとは,神経学的基盤に由来する障害で,言語の習得と処理を妨げ,それゆえ,読むこと,文字をつづること,書くこと,話すことや聞くことまたはその両方における問題,正常な知能と十分な努力にもかかわらず読み書きの学習がうまくできないことを特徴とする。」という記述をベースに,作業グループでの議論が行われた。ヨーロッパディスレクシア協会(EDA),国際ディスレクシア協会(IDA),英国ディスレクシア協会(BDA),世界保健機関(WHO)などの定義を調査したが,まとめることが難しく,作業グループにおいて一致したのは,ディスレクシアの人が抱える読書の困難は,不適切な指導方法や当人の努力不足に起因するものでないこと,生涯にわたって影響を及ぼすものであるという点であった。したがって,今回のガイドラインにおいては,複雑な医学的な点に焦点を当てるよりも,社会的な意味合いでどのような支援ができるかに焦点を当てていることに注目してほしい。

 早期発見と適切な支援は,ディスレクシアの人がその症状に対処する方略を身につける手助けとなる。このことを認識して,図書館員は,ディスレクシアの人の来館をただ待つのではなく,彼らが「物語」,本および図書館を楽しめるよう働きかける活動を始めてほしい。このような活動への取組みの草創期にあるといえる日本の図書館においては,このガイドラインを活用してディスレクシアの人を積極的に支援することが望まれる。なお,このガイドラインの日本語訳は,日本障害者リハビリテーション協会が進めており,協会のウェブサイトで公開する予定である。

日本障害者リハビリテーション協会・野村美佐子

Ref:
http://www.ifla.org/publications/node/9457?og=50
http://www.ifla.org/files/assets/lsn/publications/guidelines-for-library-services-to-persons-with-dyslexia_2014.pdf
http://www.ifla.org/files/assets/lsn/publications/dyslexia-guidelines-checklist.pdf
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/ifla/dyslexia_checklist.html
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/ifla/dyslexia-guidelines-checklist_jp.pdf
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