E1650 – 電子情報保存の研修への要望に関する調査報告書(米国)

カレントアウェアネス-E

No.275 2015.02.05

 

 E1650

電子情報保存の研修への要望に関する調査報告書(米国)

 

 2014年12月18日,電子情報保存に関する国家的な支援活動や研修の発展を 目的として活動している米国議会図書館(LC)のDigital Preservation Outreach and Education(DPOE) Programが,研修に対する要望についてのデータを収集し,既存のカリキュラムの改善を実施することを主な目的として行ったアンケートの調査報告書“2014 DPOE Training Needs Assessment Survey”を公開した。本稿ではこの報告書の概要について紹介する。

 本調査は,機関や専門家が保持している効率的な電子情報保存のための能力の把握,電子情報保存に関する研修への要望等,電子情報保存の実践を取り巻く現状に関する知見を得るためにオンラインで実施されたもので,調査期間は2014年の7月から9月の7週間(週末と祝日を除いた36日間)であった。調査対象は、米国本土と準州における電子情報保存に関係する機関となっている。

 調査は,研修内容の要望と実施方法の選択肢,専門能力開発と研修のための財政面での組織的支援といった研修に関する質問に加えて、機関の主要な機能(図書館,文書館,ミュージアム他)や運営主体,スタッフの数と職責,電子情報のコレクションアイテムの収集方法と種類に関する17項目からなっている。回答は,地理的な偏りなく,48州およびワシントンD.C.,プエルトリコにある機関から436の回答が寄せられた(カナダ,パキスタンの各々1機関からの回答を含む)。

 本調査は2010年の夏から秋にかけて実施された調査の追跡調査である。両調査の間で,州政府の運営による機関からの回答が顕著に増加したものの,図書館,文書館,ミュージアム,歴史学会の回答の比率はほぼ同じであった。また,回答では,彼らが所有する電子情報が少なくとも10年以上アクセス可能になることへの圧倒的な関心が示されるとともに,DPOEのトレーナーワークショップのような,電子情報の長期アクセスを推進し,組織の能力を強化するための専門家の学習機会に対し強い支持があることが分かった。

 本調査の主目的である電子情報に関する研修については6項目の質問が用意された。出張や専門能力開発の予算を削減するため,オンライン研修への要望が多くの部門で増加傾向であったが,対面の小規模なワークショップ形式の研修に今でも最も価値が置かれており、その次に、ウェビナー(ウェブ セミナー)や自分のペースで進められるオンラインコースが好まれていることが分かった。研修の内容に関しては,基本概念の入門的内容よりも応用技術に焦点をあてたものが好まれていた。集合型の研修の場合では,2~3日や1週間の中・長期の研修よりも,半日から1日程度で,半径100マイル圏内の場所での研修が好まれていることが分かった。

 また,専門能力開発や継続的学習のための財政的な支援に関する質問では, 2010年調査と比べて支援を受けているとの回答に17%の増加が見られた。年間1人あたりに配分されている研修関連予算については回答の25%が不明と答えており,次いで24%が「0から250ドル」と回答している。

 次に,電子情報保存担当の職員数や配置について,この4年間で変化が見られたのが重要な発見であるとされる。2010年の調査と比べて、職員が50名以下の小規模の機関では常勤やパートタイムの職員数は6%減少しており, また500名以上の大規模機関でも2%減少している一方,51~500名の中規模の機関では3~4%の増加がみられるという。

 また,実務経験のある常勤やパートタイムの職員については,機関全体を通して13%の増加がみられ,専門職員がいない機関は5%減少している。本報告書では,専門職員数に関するこの知見は,文化遺産を長期保存するためのデジタル保存に取り組む団体にとってよい傾向を示しているとしている。

 さらに,どのような性質の電子情報を所蔵しているかの質問に対しては、83%が,所蔵資料をデジタル化して媒体変換したもの,76.4%がボーンデジタル資料、45%が他の個人や機関が作成したものを受け入れたものとの回答した。ボーンデジタル資料は2010年の調査では回答者の保有するコンテンツの選択肢としてはまだなく,今回の調査でも媒体変換と僅差の2位であり, 2016年に調査をする場合には、深く注視されるポイントとなるだろうとされている。

 調査結果に基づいて、DPOEは研修のカリキュラムやワークショップの強化・改善を行うという。継続的な調査とそれを受けての研修内容の改善は望まれるところであろう。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
http://www.digitalpreservation.gov/education/2014_Survey_Executive_Summary-Final.pdf
http://www.digitalpreservation.gov/education/2014_Survey_Report-Final.pdf
http://blogs.loc.gov/digitalpreservation/2015/01/report-available-for-the-2014-dpoe-training-needs-assessment-survey/
http://blogs.loc.gov/digitalpreservation/2014/10/2014-dpoe-training-needs-assessment-survey/
http://blogs.loc.gov/digitalpreservation/2014/07/muster-in-training-needs-assessment-from-dpoe/