カレントアウェアネス-E
No.267 2014.09.25
E1608
図書館のインパクト評価のための方法と手順 ISO 16439:2014
図書館は従来,行政組織と同じように主として統計値によって活動状況を公表してきた。しかし近年,公共的な機関もその存続が自明ではなく,改めて必要なものかどうか,費用に見合う成果を実現しているかといった点が問われている。社会の情報化の急速な進展にあって,とりわけ図書館にはその役割をどのように果たすか,あるいはコミュニティにどれほど寄与しうるかの説明が要請される。
その結果,しばらく前からインパクトの調査・研究が盛んに行われるようになった(文献リスト:Bibliography “Impact and Outcome of Libraries”参照)。このような状況を鑑みて,TC46(情報とドキュメンテーション専門委員会)SC8(統計と評価を扱う分科委員会)は,ISO 16439:2014“Methods and procedures for assessing the impact of libraries”(図書館のインパクト評価のための方法と手順)を作成し,2014年4月にそれを刊行した。本文10章と三つの附属書で構成された90ページの文書である。
SC8は,これまで図書館統計に関するISO 2789(JISではX0814。現在新版に改訂中),そしてパフォーマンスやサービス品質の測定のためのISO 11620(JISではX0812)を刊行してきた(CA1497,CA1581,E652参照)。冒頭で述べた統計などを扱ったものである。それに対してこの規格は,未着手の,図書館がもたらす「変化」を対象とする。
本文の1章~3章は,スコープ,引用規格,用語定義と,他の規格と同じ構成である。続く4章で,インパクト評価のための用語(アウトカム,インパクト,バリュー等)とともに,図書館インパクトが丁寧に説明される。インパクトとは「図書館サービスとの接触によって生じた,個人又は集団における異なり・変化」と定義され,個人に現れるインパクト(例:個人の能力や態度・行動の変化等),機関やコミュニティへのインパクト(高等教育機関のランキング等),社会的インパクト(例:社会的包摂や文化的遺産の保存などへの影響),それに経済的インパクト(例:投資収益率,地域経済への影響等)があげられる。また,この章末には,インパクトの非有形性,図書館以外が及ぼすインパクトとの関係,対象者層による結果の相違など,評価の実施における課題が指摘されている。
インパクトの評価の方法については,5章でまず,たいていのインパクトは直接的な把握が難しく,代用的・間接的にデータが把握されることや,どのようなエビデンスが使えるか,量的なデータと質的なデータの扱い方など,「インパクト評価のための方法」の概要が述べられ,次いで6章「推論に使うエビデンス」(例:統計,パフォーマンス指標,満足度調査等),7章「問い合わせによるエビデンス」(例:サーベイ調査,インタビュー調査,自己評価調査,逸話採集等),8章「観察によるエビデンス」(例:観察,ログ分析,引用分析,テスト等),9章「組み合わせ方法による評価」の各章で,事例を用いて,データ収集・分析の方法が解説される。現在まで試みられた調査方法がここに網羅されている。また,直にインパクトを立証できる場合もあるが可能性を示すだけの場合もあり,いくつかの方法を組み合わせ使うことが示唆されている。
10章は「図書館の経済価値の評価」である。ここでは(1)図書館サービスを測定するもの(例:代替法,トラベルコスト法,仮想評価法(CVM)等)と,(2)費用便益分析,(3)購買者・雇用者としての図書館の経済的インパクト分析とが提示される。最後に,実際において参照できる三つの附属書(A:インパクト調査の例,B:方法の選択法,C:上位機関のある図書館の評価と組織評価)が添えられている。
インパクト評価は,これまでのハンドブックや解説書・研究書においてさまざまに取り上げられてきた。ただ,それらの用語・方法はまちまちであったことから,図書館現場ではその活用に若干躊躇するところがあった。しかし,それらを標準化したこのISO 16439は,体系的かつコンパクトにまとまった資料として,インパクト評価実践の確たる指針となるだろう。
ISO TC46/SC8国内委員会リーダ・永田治樹
Ref:
http://www.iso.org/iso/catalogue_detail.htm?csnumber=56756
http://www.ifla.org/files/assets/statistics-and-evaluation/publications/bibliography_impact_and_outcome_2014.pdf