E1592 – 少年院法改正の経緯と条文における「読書」への言及について

カレントアウェアネス-E

No.264 2014.08.07

 

 E1592

少年院法改正の経緯と条文における「読書」への言及について

 

 第186回通常国会において,少年院と少年鑑別所の根拠法である少年院法の改正法案が2014年6月4日に参議院本会議で可決され,6月11日に公布された。今回の改正は,同法が1948年に制定されて以来,初めての抜本的改正であり,読書等に関する条文も新たに追加されている。本稿では,改正の経緯や改正内容等について,読書等に関する部分を中心に紹介する。

 

1. 経緯

 今回の改正は,2009年に広島少年院で発生した職員による在院者への暴行事件が契機となっている。この事件を受けて,外部の専門家等による視点で改善策を検討する「少年矯正を考える有識者会議」(法務大臣の私的諮問機関)が設置され,2010年12月に「少年矯正を考える有識者会議提言」が公表された。この提言では,少年院法の全面改正とともに,「書籍の閲覧について国費で在院者にふさわしい本を十分に備えるよう努めること」等が求められている。

 法務省はこの提言を受けて,2011年11月に「少年院法改正要綱素案」を策定し,パブリックコメントを実施している。この素案は法改正に向けた具体的な内容を示したもので,「矯正教育等以外の処遇」に関する部分には,「書籍等の閲覧等」と題した項目も設けられている。

 上記の素案やパブリックコメントの結果等をもとにした改正法案は,2012年3月の180回通常国会で一度上程されたが,ほとんど審議されることなく廃案となっていた。今回の改正法案は,最初の上程から約2年の月日を経て再び上程され,成立したものである。

 

2. 概要

 現行の少年院法は,全17条(附則を除く)の短い法律だが,改正少年院法は全147条(附則を除く)で構成されており,条文数は大幅に増加している。また,これまでは少年院法で少年院と少年鑑別所の両方を規定していたが,少年鑑別所の部分については新たに全132条(附則を除く)の少年鑑別所法として独立させている。

 改正の概要を紹介した法務省のWebページでは,改正の大きな柱として以下の3点が挙げられている。

 (1)再非行防止に向けた取組みの充実
 (2)適切な処遇の実施
 (3)社会に開かれた施設運営の推進

 具体的には,少年の権利や義務,職員の権限,矯正教育の内容等について詳しく規定しているほか,在院者・在所者による不服申立制度も整備している。また,施設運営の透明性を高めるため,全ての施設に弁護士や教育関係者等の外部有識者で構成する「視察委員会」を設け,施設の運営について施設長に意見を述べることとしている。

 

3. 読書等に関する条文

 読書等に関する部分には,少年院法では「第十章 書籍等の閲覧」,少年鑑別所法では「第三章 在所者の観護処遇 第八節 書籍等の閲覧等」と題した見出しが付けられている。

 少年院法の関連条文は78条から80条となっている。78条では書籍等の閲覧に関する基本事項を定めており,少年院長に対して「在院者の健全な育成を図るのにふさわしい書籍等の整備」,「矯正教育等への積極的な活用」,「自主的に閲覧する機会を与える」ことを求めている。また,79条では自弁(私物)の書籍等の閲覧について定めており,80条では新聞等により時事の報道に接する機会を在院者に与えるよう求めている。

 少年鑑別所法では65条から69条が関連条文となっており,少年院法より条文数が多い。65条では少年院法と同じく書籍等の閲覧に関する基本事項を定めており,鑑別所長に対し「在所者の健全な育成を図るのにふさわしい書籍等の整備」と「自主的に閲覧する機会を与える」ことを求めている。「矯正教育等への積極的な活用」への言及はないが,これは少年鑑別所が矯正教育を目的とした施設ではないためだと考えられる。66条と67条では,在所者の立場の違いごとに条文を分けて,自弁の書籍や新聞紙等の閲覧について定めている。68条では在所者が取得可能な新聞紙の範囲や取得方法について,少年鑑別所が管理運営上必要な制限ができる旨を規定し,69条では新聞等により時事の報道に接する機会を在所者に与えるよう求めている。

 

4.今後について

 現行の少年院法には読書に関する条文が無かったため,少年院等における「読書」には明確な根拠がない状況だった。今回の改正で関連条文が設けられたことで,これまで曖昧だった施設内での「読書」にも法的根拠が生まれることになる。

 改正少年院法等では,具体的な運用方法等は示されていないが,施行に向けて訓令等により示されるものと思われる。これについては,刑務所等の根拠法である「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」が参考になるだろう。同法にも「読書」に関する条文があり,「被収容者の書籍等の閲覧に関する訓令」やこの訓令の運用に関する通達が出されている。

 改正少年院法等の施行期日は今のところ未定だが,附則では「公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」とされている。改正内容が実際の施設運営に反映されるまでには少し時間がかかると思われるが,各施設の読書環境等が今後どのように変化していくのか,注視していきたい。

大阪府立中央図書館・日置将之

Ref:
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi06400003.html
http://www.moj.go.jp/content/000058922.pdf
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei08_00019.html
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_99999.html
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_00010.html
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_00012.html
http://www.moj.go.jp/content/000124849.pdf
http://www.moj.go.jp/content/000124851.pdf
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei03_00019.html
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H17/H17HO050.html
http://www.moj.go.jp/content/000003066.pdf
http://www.moj.go.jp/content/000003067.pdf