E1500 – 米国政府機関の閉鎖による図書館界等への影響

カレントアウェアネス-E

No.248 2013.11.07

 

 E1500

米国政府機関の閉鎖による図書館界等への影響

 

 米国政府予算の不成立により,会計年度が始まる2013年10月1日から,米国政府機関の一部が閉鎖を余儀なくされた。この閉鎖は,10月16日深夜に2014年1月15日までの暫定予算を含む与野党合意案が上下両院で可決され,17日未明にオバマ大統領の署名により関連法が成立するまでの16日間,継続した。一時帰休を余儀なくされた政府機関の職員は約80万人にのぼったとされる。もちろん,日本の図書館におけるサービスにも影響を与え,実際,いくつかの大学図書館においては,特定のデータベースが使用できないことや代替データベースについて案内されていた。本稿では,米国政府機関の閉鎖が,図書館界等に与えた影響についてまとめる。

 10月1日以後,米国政府の各機関は,行政管理予算局(OMB)の指示を受けて事前に定めた緊急時の対応計画にもとづき,航空管制や国防警備,警察など国民生活に不可欠であるとされる業務を除いて,活動を停止した。

 米国議会図書館(LC)では,10月1日から一部を除く大半のウェブサービス,すべての来館サービスを停止し,予定されていたイベントも中止した(ただしウェブサイトについては,情報の更新は行わない形で,10月3日に再公開した)。LCの一部門である全米視覚障害・身体障害者サービス図書館(National Library Service for the Blind and Physically Handicapped)も同様にサービスを停止した。

 米国国立公文書館(NARA)は,13の大統領図書館を含むNARA所管の諸施設を閉館し,サービスを停止した。ただし例外として,連邦文書センター(Federal Records Centers)は縮小して業務を実施し,また連邦政府公報(Federal Register)もコンテンツを限定して刊行を継続した。大統領図書館の中でも,私的な財団が運営している施設は,継続して開館された。

 博物館・図書館サービス機構(IMLS)は,助成金を受けている機関に対してウェブサイトでFAQを公開し,すでに助成金の受給が正式に決定している機関は計画どおりにその活動を続けることができること,閉鎖期間中は,助成金の支払いや問い合わせへの対応は基本的に行わないこと,助成の申込みへの対応は閉鎖解除後になることなどが示された。また,米国政府印刷局(GPO)の連邦政府刊行物寄託図書館制度(FDLP)の会議をはじめ,各種のカンファレンスなども中止や延期が発生した。

 なお,首都ワシントンD.C.の図書館サービスについては継続された。ワシントンD.C.は地方政府の予算で運営されているが,予算成立に連邦議会の承認が必要であるため,本来であれば,図書館サービス等の国民生活に不可欠ではないとされるサービスは停止されるところであった。しかし,グレイ市長はOMBの緊急時の対応計画の作成指示に対して,図書館サービスを含むワシントンD.C.政府のすべての業務は必要不可欠である旨を回答し,サービス停止を免れた。

 研究活動にも多くの影響があった。米国衛生研究所(NIH)のPubMedは更新なしで提供を継続したが,統計局(U.S. Census Bureau),全米科学財団(National Science Foundation),米国商務省経済分析局(Bureau of Economic Analysis at the U.S. Department of Commerce),米国教育科学研究所(Institute of Education Sciences)など多くのウェブサイトが閉鎖され,オンラインで提供されていたデータベースが利用できなくなり,米国内外でこれらのデータベースを使用した研究や調査が滞ることとなった。米国政府から助成を受けていた学会等は開催できず,研究への新たな助成も停止された。

 このような状況に対して,その影響を最小限に抑える取り組みもなされた。Library Journal誌のウェブサイトでは,LCやNARAが公開した緊急時の対応方針などを紹介し,想定される影響について事前に注意喚起を行った。

 また,アクセスできなくなったデータベースの代替として,オックスフォード大学出版局(Oxford University Press)が,Oxford Reference,American National Biography Online,Social Explorerなどの有料データベースを無料で公開し,EBSCO社もEducational Resource Information Center(ERIC)の無料公開を行った。Internet Archiveもウェブサイトを閉鎖した政府機関をまとめ,閉鎖前のウェブサイトのアーカイブへのリンクを提示した。このほか,LCの人名典拠の代わりにOCLCに収録されたLCの人名典拠やVIAFを利用する方法など,代替サービスの活用方法をブログで紹介する図書館員もあらわれた。

 政府機関の閉鎖という1996年以来の異常事態に,政府の各機関は緊急時の対応計画に基づき,粛々と業務を停止した。米国内外の学術関係者においては,代替データベースの無料公開や,代替手段の情報の共有など,情報へのアクセスを確保することで影響を最小限に抑える動きがあった。なお,10月17日に成立したのは,2014年1月15日までの暫定予算である。2014年度本予算の成立まで,引き続き注視が必要である。

(関西館図書館協力課・篠田麻美)

Ref
http://www.cnn.co.jp/usa/35037870.html
http://edition.cnn.com/2013/10/16/politics/shutdown-showdown/
http://tohoej.blogspot.jp/2013/10/pubmed_8.html
http://tul.library.tohoku.ac.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=629
http://quilt.slcn.ac.jp/jox94suc0-11/
http://www.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/gacos/news/20131008.html
http://www.whitehouse.gov/omb/contingency-plans
http://www.loc.gov/today/pr/2013/13-A07.html
http://www.archives.gov/contingency-plan/contingency-plan.pdf
http://www.imls.gov/assets/1/AssetManager/ShutdownFAQ_Grantees.pdf
http://beta.fdlp.gov/news-and-events/1779-government-shutdown-and-2013-dlc-meeting-and-fdl-conference
http://www.wjla.com/articles/2013/09/government-shutdown-2013-mayor-gray-defends-move-to-make-city-operations-essential-94529.html
http://www.insidehighered.com/news/2013/10/03/government-shutdown-curbs-academic-research-many-levels
http://lj.libraryjournal.com/2013/09/funding/dc-mayor-declares-libraries-essential-will-stay-open-if-government-shuts-down/
http://oupacademic.tumblr.com/post/63372339537/free-access-to-oxford-content-during-the-government
http://www.ebsco.com/freeERIC
http://www.ebscohost.com/newsroom/stories/ebsco-information-services-releases-a-complimentary-version-of-eric
http://blog.archive.org/2013/10/02/governmentblackout/
http://hangingtogether.org/?p=3350