カレントアウェアネス-E
No.245 2013.09.26
E1483
出版を志す人たちをサポートする公共図書館の諸活動
米国の図書館において,メイカースペースの設置など,多様な創作活動を支援する取組みが活発になっている(E1370,E1378参照)。そんな中,創作活動のうちでも,特に人々の執筆や,それを出版する活動を支援する図書館の取組みに,改めて注目する動きが現れている。ニューヨーク州のモンロー郡図書館とニューヨーク州立大学ジェネセオ校のミルン図書館が中心となり,2013年8月に“Library Publishing Toolkit”と題するレポートを公表したプロジェクトがそれである。400ページほどある同レポートでは,その多くを大学図書館の取組みに割いているが,ここでは,前半部分に掲載された公共図書館の活動をいくつか紹介しておきたい。
ミルン図書館のブラウン(Allison P. Brown)氏は,同レポート中の一節“About Publishing in Public Libraries”において,公共図書館の動きについて総論的にまとめている。ここでは公共図書館が行っている出版を支援する図書館の活動を,「創作(creation)」,「製品化(production)」,「アクセス(access)」の3つに大別し,概括している。創作の支援は,情報資源やスペースの提供,執筆者のコミュニティの構築など,執筆活動そのものを支援するような活動である。製品化の支援は,出版に必要なテクノロジーの提供やその利用に関する支援である。アクセスの支援は,プロモーション活動など作品の流通面に関する支援である。各図書館における活動はそれらを組み合わせたものと見ることができるだろう。
同レポートで取り上げられている事例のうち,ニュージャージー州のプリンストン公共図書館の活動は,創作面への支援から発展していった事例として捉えることができる。同館では,米国で展開されている全国小説執筆月間“National Novel Writing Month(NaNoWriMo)”に参加する人たちに,執筆用のスペースを提供していた。その後,スペースの利用者から執筆サークルが3つほど立ち上がり,定期的に活動を行うようになった。これらのグループは自立的に活動しており,同館の関わりは大きくはないようであるが,同館は,必要なスペースを提供したり,広報活動を行ったりするといったマネジメントを意識的に行ってきたようである。さらに同館では,アクセスの支援にも活動を広げている。地元の作家たちとの関わりを通じて,自費出版を行う人たちは作品を読んでもらうことを望んでいるが,知名度がないと図書館がイベントを開催しても人を集めることが難しいことを知った。そこで,最近作品を発表した地域の作家を集め,作品を紹介したり販売したりする“Local Authors’ Day”というイベントを開催するようになったのである。2012年には40の枠に70人以上の応募があったという。“Local Authors’ Day”と同様のイベントは,ミシガン州のワート公共図書館でも“Writers’ Night”として開催されている。
執筆サークルの活動を支援している事例は,他にもフロリダ州のセーフティハーバー公共図書館が紹介されている。同館では,4年ほど活動を続けている執筆サークルがあり,最近では,このサークルへの参加者が膨らみすぎ新たなグループが立ち上げられたほどだという。同館では,担当の職員が,Wattpadのような執筆者に役立つ交流サイトについて紹介したり,歴史小説の執筆の例などを引き合いに,図書館員が執筆に必要な調査の支援ができることを案内したりしているという。
製品化を支援する活動も,近年の関連する技術の発展とともに,新しい取組みが登場してきている。同レポートでは,マサチューセッツ州のプロビンスタウン公共図書館が立ち上げた“Provincetown Public Press”という事業を紹介している。この事業は,図書館が出版用ソフトウェアやデザインソフトウェアを提供し,デザインやレイアウトの作成を支援するなどして,電子書籍としての出版を支援するというものである。ウェブサイト等の情報によると,すでに2013年4月には最初の電子書籍を販売ルートに乗せており,さらに4月から6月にかけて行われた新規の募集では30件ほどの応募があり,このうち5件が出版にむけたサポートが進められているようである。このほか同レポートでは,エスプレッソブックマシーン(E1379参照)を活用したオンデマンド出版に関する取組みにも着目している。カリフォルニア州のサクラメント公共図書館やリバーサイド郡図書館などのサービスを紹介している。また,電子書籍貸出システムの構築で注目されているダグラス郡公共図書館(E1363参照)において,新たに出版支援サービスを手掛ける計画が進められていることも紹介されている。
執筆活動を行う多くの人たちにとって,これまで図書館が重要な情報源であったことは言うまでもない。同レポートの関係者は,その歴史の上に,創作活動を支援する公共図書館としてのこれからのサービスの在り方を模索しているようである。大部のレポートではあるが,創作活動の支援を意識している図書館関係者には,目を通しておく価値のあるものといえよう。
(関西館図書館協力課・依田紀久)
Ref:
http://www.publishingtoolkit.org/
http://nanowrimo.org/
http://www.wattpad.com/
http://www.saclibrary.org/istreet/
http://flashbooks.weebly.com/
http://provincetownpublicpress.org/about/
http://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/industry-news/libraries/article/59025-check-it-out-with-michael-kelley-the-provincetown-public-press.html
http://www.libraryasincubatorproject.org/?tag=provincetown-public-press
http://lj.libraryjournal.com/2013/04/publishing/whats-the-problem-with-self-publishing/
E1363
E1370
E1378
E1379