E1446 – 島根県の学校図書館の現状―学校司書等配置率100%

カレントアウェアネス-E

No.240 2013.07.11

 

 E1446

島根県の学校図書館の現状―学校司書等配置率100%

 

 島根県議会6月定例会の知事答弁を受けて,6月18日付中国新聞に「図書館司書 全校に配置 県 全国初 推進事業実る」の記事が掲載された。厳密に言えば,島根県内の分校を除くすべての市町村立小中学校(315校),県立高等学校(35校),特別支援学校(12校)に,正規職員,非常勤職員,有償ボランティアのいずれかが配置された。なお,小中学校の多くは司書資格を有する者が配置されたというわけではない。

 学校図書館への司書等の配置は,2009年度に開始した「第二次子ども読書活動推進事業」に基づくものである。同事業は,2008年2月に溝口善兵衛島根県知事が先駆的な学校図書館として知られる松江市立城北小学校の学校図書館を視察した後,1億円を超える事業実施を決断したことを受けて始められた。2013年度までの5か年での県内の全公立小中学校の学校図書館の充実を目標に掲げ,2009年度から,司書教諭養成事業,学校司書研修,学校図書館パワーアップ(大改造)事業など様々な取組みを開始した。

 冒頭で紹介した学校司書等配置率100%の達成を後押ししたものは,市町村が採用する司書等の人件費の一部を県が財政支援する制度である。特に有償ボランティアの場合は,毎日1時間以上学校図書館に行くことが条件とされているが,県が人件費の全額を負担している。この制度の成果はすぐに現れた。2008年度の県の小中学校の学校司書配置学校の割合は約28%であったが,2009年度には約97%にまで増加し,そして今回2013年度に100%に達した。従来から約半数の県立高等学校には正規専任の学校司書が在籍していたが,2011年度は残る半数の高等学校にも嘱託学校司書が配置された。また,2013年度からは,全ての特別支援学校図書館にも学校司書(非常勤職員)が配置されている。無人の本の置き場から,人の温もりのある本のオアシスへと学校図書館は変わることができたのである。

 しかし,「第二次子ども読書活動推進事業」はただ学校司書を配置しただけではない。各学校の図書館に相当数残っていた1980年代に受け入れた蔵書を処分するとともに,書架の配置換えや掲示物を一新するなど読書環境の整備を集中的に行った。2010年度には県が図書整備の支援を行うこととしたが,この時のねらいは学校図書館と公共図書館との連携にあった。県は全ての市町村にそれぞれ約2,000冊の調べ学習用図書(学校図書館活用教育図書)を寄託し,主に公共図書館に配備(図書館未設置町村は学校等に配備)した。市教育委員会と市立図書館が共同で,教諭と学校司書を対象に「学校図書館活用教育図書」利用説明会を催す自治体もあり,新たに学校と公共図書館とのパイプがつながる地域があった。

 これらの取組みが功を奏し,学校全体で学校図書館活用教育に取り組み,司書教諭と学校司書が両輪として機能する学校がいくつか既に育っている。邑南町立石見中学校では,学習に活用される図書館づくりと,図書館活用教育を日常化するための職員の意識改革を図り,「図書館・情報活用教育年間計画」に基づいて,積極的に学校図書館を活用した授業を実践している。一例として,1年生国語の授業では,故事成語を現代の暮らしに置き換えた「四コママンガ」を作成,グループで発表を行った。この授業は町内の小中学校図書館司書に公開し,小中連携による系統的な学習について検討の場となった。さらに,厳しい財政事情にありながらも,毎年のように有償ボランティアから市町村の負担が増加する学校司書配置へと切り替える学校が増加しているのは,学校司書配置の効果を実感する関係者が多いからだろう。

 長い間,多くの学校図書館は本来の機能を果たせない状態にあったため,学校図書館に大きな可能性があると考える理解者はまだ少数に留まるだろう。島根県は,そんな荒地に学校司書という名の種を蒔き,耕し水をやりながら,子どもたちの学ぶ環境を整え始めている。溝口知事は,常々「子どもの頃,図書館や書店は世界に向かって開いた窓だった」と自らの経験を振り返り,「子どもたちの読書環境を守るのは大人の役割」であると発言している。10年後,20年後,学校図書館を当然のものとして活用した子どもたちが,様々な場面で活躍することを夢見て,我々学校図書館に関わる者は耕し続けていきたいと考えている。

(島根県立図書館・大野浩)

Ref:
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn201306180008.html
http://www.pref.shimane.lg.jp/shakaikyoiku/kodomodokusyo/
http://www.lib-shimane.jp/dokusyoken-shimane/shimane-project/shimane-project.html
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/04/__icsFiles/afieldfile/2009/06/05/1263139_1_1.pdf
http://katsuji.yomiuri.co.jp/event/other/post.htm