E1358 – ジェンダー間のデジタルディバイドの問題に取り組む図書館

カレントアウェアネス-E

No.226 2012.11.15

 

 E1358

ジェンダー間のデジタルディバイドの問題に取り組む図書館

 

 公共図書館を通じた経済的・社会的発展を目指すプロジェクト“Beyond Access”が,2012年10月付けで,レポート“Empowering Women and Girls Trough ICT at Libraries”を刊行した。ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団の助成を受け,EIFL(Electronic Information for Libraries)や国際図書館連盟(IFLA)等の8つの団体によって運営されているBeyond Accessは,主に途上国における様々な課題に対し,その国の公共図書館が実施している様々な取り組みを支援するプロジェクトである。これまでにも金融排除問題を扱ったレポート(E1340参照)等を刊行しており,今回のレポートでは,途上国におけるジェンダー間のデジタルディバイドの問題,すなわち,女性のインターネットアクセスからの疎外とICTスキルの向上という問題にスポットを当てている。

 レポートは,途上国におけるジェンダー間の格差をめぐる状況説明から始まる。途上国において女性は,しばしば伝統的な役割に縛られ,男性に対して劣位に置かれていることがあると指摘している。そして,このような格差はインターネットへのアクセスの機会にまで及んでおり,情報のオンライン化が進むことで,それにアクセスできない女性が社会的にも経済的にもこれまで以上に疎外されてしまうと懸念している。もちろん,このような状況を改善すべく,ユネスコ等の様々な国際機関が,女性を対象にしたICTスキルトレーニングの提供に乗り出している。

 しかし,とレポートは続く。女性向けのICTスキルトレーニングを実施する多くの機関は,近年の研究でも明らかにされているような,地域において公共図書館が安全で信頼のおける空間として認知されていることを考慮していないと指摘する。また,このようなトレーニングの提供では,しばしばそれを専門とする機関やプログラムが作られる傾向にあるが,継続性という点で難がある。それに対し公共図書館は既に大きなネットワークの一部に組み込まれており,また市町村レベルから国レベルの予算枠に入って継続的な活動が見込まれることから,公共図書館の意義が指摘されている。そして,インターネットへのアクセス提供では,公共図書館に頼らずとも携帯電話で可能ではないかという指摘もあるが,国によっては女性が携帯電話を持つこと自体ハードルが高いものである。したがって,途上国の女性が安心してインターネットへアクセスし,その使い方の教育を受けられる場所が求められている中で,公共図書館は大きな意味を持つとされている。

 レポートでは,女性向けのICTトレーニングに取り組んでいる公共図書館等を5館紹介している。例えば,ガーナのタマレ北部地域図書館である。この図書館では,インターネットやweb 2.0サービスの使い方,検索テクニックを教える3か月間のプログラムを実施し,125人の女性の参加者を得た。日中働いていても講座に参加しやすいような時間設定を行ったり,女性が参加しやすい場を作ってコンピューターやインターネットへのアクセスを促進したり,技術についての定期的なイベントを開催したりしているとのことである。また,ウクライナ南部のザポリージャ図書館の職員は,周辺地域でドラッグに溺れる若い女性が多いことから,ICTトレーニングや職業相談等のトータルな支援ネットワークを提供するプログラムを実施した。ここでは,基本的なITスキルを教えるだけでなく,個々の参加者の関心に応じた指導も行ったことから,女性が図書館でPCを利用する時間が増えていったという。最後の事例としてウガンダ国立図書館では,農業に従事する女性を対象にしたICTトレーニングプログラムを提供している。プログラムの提供前に調査を行ったところ受講者の情報ニーズが満たされていないことが明らかとなり,ICTスキルを学びながら,生産する穀物のオンラインでの価格設定の仕方といった経済的な成功に繋がる内容を教えているとのことである。

 レポートの最後では,女性向けのICTトレーニングの提供に取り組む様々な機関や政府等に対して,3つの提言をまとめている。1つ目は,インターネットアクセスや講座提供を行う機関は公共図書館との連携を視野に入れるべきというもの,2つ目は取り組みを開始するに当たり新たにプログラムを立ち上げるのではなく,図書館という既存のインフラを支援し,それを利用して作り上げるべきだというもの。最後に3つ目が,市町村レベルから国レベルに至るまで行政機関は,公共図書館が質の高い技術やインターネットアクセス,知識を持ったスタッフを抱えることを保証すべきだというものである。

 男女格差という根深い問題の解決に図書館はどのように貢献できるのか。今後の成果が注目される。

(関西館図書館協力課・菊池信彦)

Ref:
http://www.beyondaccess.net/2012/10/18/empowering-women-and-girls-through-ict-at-libraries-october-issue-brief/
E1340