E1349 – 多様な図書館サービスモデルの理解に向けて<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.224 2012.10.11

 

 E1349

 多様な図書館サービスモデルの理解に向けて<文献紹介>

 

Kwanya, Tom; Stilwell, Christine; Underwood, Peter G. Library 2.0 versus other library service models: A critical analysis. Journal of Librarianship & Information Science. 2012, 44 (3), p.145-162.

 図書館サービスは,それぞれの国,時代の状況に応じて変化してきた。近年では米国において,Web 2.0の登場とともにLibrary 2.0の議論が活発となり,これと他のモデルを比較した議論が活発に行われた(CA1624参照)。ただし,新しいモデルを模索する議論は活発に行われてきているものの,多様な図書館サービスモデルを相互に比較できるよう体系的にまとめた論考は少ないものと思われる。このような中,南アフリカのクウェンニャ,スティル ウェル,アンダーウッドの三氏が,図書館サービスモデルについて学術的にまとめた文献は非常にまれであるとの課題意識のもと,散在している記述を多くの文献より渉猟し分析した論文をまとめ,公表した。

 この論文で図書館サービスモデルとして取り上げられているのは,Library 2.0モデルを筆頭に,伝統的図書館モデル,コミュニティ図書館モデル,エンベディド図書館モデル(Embedded library model)(CA1751E1309参照),書店型図書館モデル(bookstore library model),図書館出張所モデル(library outpost model),移動図書館モデル,インフォメーションコモンズモデル,電子図書館モデルである。

 例えばコミュニティ図書館モデルについては,1890年代には英国に現れ,今日に続くものの多くは1960年代に,受動的な伝統的図書館モデルから能動的なサービス中心の使い勝手の良い図書館へ転換する試みとして現れたものであるとのスティルウェルの論考を紹介している。その上で,コミュニティ図書館で提供される情報は,大きく分けて2種類あり,その1つは,健康,住まい,所得,法的保護,経済的機会等に関する課題に取り組む際に求める“生きていくための情報”(survival information)であり,またもう1つは,地域の社会的,政治的,法的,経済的な過程に効果的に参加することを可能にする“市民情報”(citizen information)である,との論考も紹介している。

 また図書館出張所モデルについては,特に都心の公共図書館がより良いサービスを提供することを目指して2008年頃から注目されているモデルであると紹介している。このモデルは,図書館の出張所を,ビジネスセンターや学校,集合住宅やデパートなど,人々が既に集まっている場所に設置することが目指されている。出張所モデルの重要な特徴としては,140平米程度以下の小さな施設を利用者に近いところに戦略的に配置すること,利用者に便利なようにサービス時間を長くすること,ブラウジング用のコレクションよりもその図書館全体の蔵書をオンラインで検索し出張所に取り置くことができること,オンラインデータベースやインターネット上の情報源を活用した非常に優れたレファレンスサービスを提供すること,Wi-Fiなどの利用環境やデジタルコンテンツが利用できることなどがある,とヒル(Nate Hill)氏による説明を紹介している。

 また併せて,これらの図書館サービスモデル発展史上の重要事項について,時系列で整理している。項目は紀元前の図書館の登場から起こされているが,最近の事項としては,例えばエンベディド図書館について,1970年代にそのコンセプトが臨床図書館員職(clinical librarianship)の発展とともに現われ,その後2004年になり研究機関等でチームに参加し専門的サービスを提供する図書館員として記述されるようになり,これらは,従軍記者と同様に機能するものとされたとしている。また,電子図書館に関連してハイブリッド図書館という用語が1996年頃より登場し,純粋な電子図書館でも純粋な伝統的図書館でもない図書館を表すものとして,特に既に非デジタル資料を既に所蔵している伝統的図書館のジレンマを反映したものとして発展したと整理している。

 この論文で取り上げられている図書館サービスモデルは欧米中心のものとなっているが,日本の図書館のサービスモデルを相対化し,その特徴や位置づけを改めて捉えなおす上で役に立つ,有益なレビューになっているものと思われる。

(関西館図書館協力課・依田紀久)

Ref:
http://lis.sagepub.com/content/44/3/145
CA1624
CA1751
E1309