E1309 – 情報が至る所にある時代の公共図書館員の活躍の場所は?

カレントアウェアネス-E

No.218 2012.07.12

 

 E1309

情報が至る所にある時代の公共図書館員の活躍の場所は?

 

「情報が至る所にあるとするならば,我々がレファレンスデスクにとどまっている意味はあるのだろうか? いや、ない。多くの図書館員は新しい働き方を試みている。」

 米国カトリック大学のシュメイカー(David Shumaker)氏が2012年4月18日に行われたテキサス図書館協会年次大会でのプレゼンテーションで示した言葉である。シュメイカー氏は,図書館員が,その活動の場を図書館の建物の中に限定せず,コミュニティの中に自らを埋め込むようにして,密接に関わりながらサービスを提供することの意義を説いている。コミュニティ内の組織と目標を共有し,協同しながらサービスを提供するこのエンベディッド・ライブラリアンの考え方は,従来,サービス対象を限定・特定しやすい大学図書館や専門図書館になじみやすいものとされ,公共図書館への応用は示唆される程度であった(CA1751参照)。

 しかしながら,公共図書館においても,エンベディッド・ライブラリアンの考え方を援用する事例が登場している。

 2012年6月13日,American Libraries誌に米国コロラド州ダグラス郡図書館のコミュニティ・レファレンスの取組みが紹介された。この記事は,ガルストン(Colbe Galston)氏ら,ダグラス郡図書館の図書館員によって書かれたものである。

 記事によれば,館長のラルー(Jamei LaRue)氏は,図書館の最も強力な資産は職員であると考え,図書館員がコミュニティと相互に関係し,彼らの質問に答え,彼らのディスカッションに情報提供を行い,パートナーとして彼らの目標達成を支援することを望んだ。そして,そのような機会は図書館が求めることによって得られるものであると考え,図書館員をコミュニティに派遣するようにしたのだという。段階的に発展してきた同館の取組みのあらましは以下のようなものである。

 2006年,ダグラス郡図書館は,エンベディッド・ライブラリアンの取組みを試行した。ダウンタウン地区の図書館マネージャーと図書館員をパーカー・ダウンタウン開発委員会という新生のグループに参加させ,委員会付きの事務員や調査員などとして地域建築や小都市の経済発展の手法に関する調査などのサービスを提供した。この活動は委員会から高く評価され,同時に同館の成功モデルとなった。

 2010年,コミュニティ内の組織の課題意識を理解し,レファレンス質問に積極的に回答することが,組織との協力関係の構築へとつながった好例が現れた。地域のある経済開発委員会が,コロラド州における医療用マリファナ薬局の増加状況を受け,これに関する規制に興味を持った際には,同委員会に派遣されていたエンベディッド・ライブラリアンが資料をまとめ,3ページのわかりやすいレポートや表を作成し,提供した。委員会はそのレポートを評価し,市議会にも共有するに至った。

 同年には,より大きな調査課題にも挑み始めている。2010年11月,ダグラス郡図書館は高等教育に関する事業を承認し,5人の図書館員を任命した。図書館員は,高等教育に関する複数の側面についてレポートをまとめるべく,地域のリーダーや機関へのインタビュー,文献レビュー,150人以上に対する地域住民に対する電子メール調査を行った。この調査結果の入手希望は,地域の大学の学長や市の職員などから頻繁に寄せられ,同館のウェブサイトでも公開された。ガルストン氏らは,この際の回答協力者の反応が印象的であったと紹介している。すなわち,回答協力者の多くが,図書館は公平であり,この調査を実施するに理想的な機関であると感じ,また図書館がコミュニティの目標を認識していることに感銘をうけているものもいた,とのことである。

 このように段階的に発展し,同時にコミュニティからの理解も得てきた同館のサービスについて,ガルストン氏らは,調査の結果といった有形の価値だけでなく,コミュニティの組織の成功につながるなど,無形の価値をも生み出していると指摘している。そのうえで,このトピックに関する電子書籍を作成するため,他の図書館の新しい取組みについての事例を寄せてほしいとしている。エンベディッド・ライブラリアンの考え方を導入し始めた米国の公共図書館において,図書館員の活動の場はどのように広がりつつあるのか。さらなる事例の共有が期待されるところである。

(関西館図書館協力課・依田紀久)

Ref:
http://embeddedlibrarian.com/2012/04/25/who-let-the-librarians-out-presentation-available/
http://embeddedlibrarian.com/2012/03/17/public-libraries-privatization-collaboration-and-embedded-librarianship/
http://lj.libraryjournal.com/2012/01/opinion/editorial/moving-to-outcomes-editorial/
http://americanlibrariesmagazine.org/features/06132012/community-reference-making-libraries-indispensable-new-way
CA1751