E1311 – 「Y世代」の研究行動調査 最終報告書(英国)

カレントアウェアネス-E

No.218 2012.07.12

 

 E1311

「Y世代」の研究行動調査 最終報告書(英国)

 

 2012年6月28日に,英国図書館(BL)と英国のJISCが,博士課程学生の情報探索行動や研究行動について調査したレポート“Researchers of Tomorrow”を公開した。この調査は2009年から3か年かけて実施されたもので(E994E1190参照),今回のレポートはその最終報告書にあたる。

 報告書で調査対象とされている「Y世代(Generation Y)」とは,1982年から1994年までの間に生まれた者と定義されており,いわゆる「デジタルネイティブ」とは異なる世代として扱われている。調査には,3年間に英国内の大学70校以上に在籍しているY世代の博士課程学生約17,000人が参加した。調査全体として,Y世代の博士課程学生は情報技術一般において不自由なく扱っているものの,こと研究上では最先端の技術を積極的に利用しているわけではないことが明らかになった。

 学生に最近の研究での情報収集について尋ねた結果,全学問領域を通じ博士課程の学生は,アーカイブ資料や大規模なデータセット等といった,「生」の,いわゆる一次資料ではなく,雑誌論文や図書として刊行された二次資料を求める傾向にあると述べられている。これを結論づけるにはより詳しい調査が必要であると断りつつも,もし仮にこれが立証されるのであれば,一次資料等を探索したり利用したりした経験のほとんどない博士課程学生を「研究者見習い」とみなすことになり,それは研究の質等に関わる長期的な問題を提起するものであると指摘されている。

 また,Y世代の博士課程の学生にとって,電子ジャーナルにアクセスできるかどうかは研究の進捗を左右する大きな要因となっている。仮に電子ジャーナルにアクセスできない場合,約半数のY世代の学生は論文要旨で間に合わせると回答しており,このことはY世代より年長世代の学生にはほとんど見られない傾向であるとコメントされている。

 博士課程の学生にはオープンアクセス(OA)やセルフアーカイブに関する知識が一般に欠けており,また,インターネットリソースやウェブベースの学術コミュニケーション環境に関する理解も乏しいことが指摘されている。博士課程の学生がインターネットから入手できる膨大かつ多様な研究リソースや資料の中を渉猟するために,機関側が適切な支援や備えができているのかどうかといった問いが提起されている。

 情報技術の研究利用についても指摘がある。Y世代の博士課程学生は一般的には情報技術を極めて十分に使いこなしているが,それは研究において最新技術のアプリやツールをいち早く取り入れたりするというものではなく,これまでの研究活動に容易に取り込むことができる場合に限られているとしている。

 また,博士課程学生の多くは,チームではなく一人で研究しているため,その研究成果については指導教員や学生仲間の限られた間でのみ共有する傾向があるとされている。成果をOAで公開する学生も増えてきてはいるものの,OAジャーナルに対する不信感やOAジャーナルに査読がないという誤解等がそのための障害となっていると報告されている。

 Y世代の学生は,誰にとっても役立つような一般的な形での研究指導よりも,自分の研究分野やニーズに合致する形での支援が望ましいと考えていることが示されている。そのために学生は,指導教員から定期的にかつしばしば非公式に受ける研究指導を望ましいものと考えていることが明らかになったとしている。

(関西館図書館協力課・菊池信彦)

Ref:
http://www.jisc.ac.uk/news/stories/2012/06/generationy.aspx
http://pressandpolicy.bl.uk/Press-Releases/The-results-are-in-major-study-into-the-behavioural-habits-of-the-Generation-Y-PhD-students-released-by-JISC-and-the-British-Library-5ad.aspx
http://www.jisc.ac.uk/publications/reports/2012/researchers-of-tomorrow.aspx
E994
E1190