カレントアウェアネス-E
No.207 2011.12.22
E1252
マンガ『夜明けの図書館』の作者・埜納タオさんインタビュー
2011年10月に刊行された『夜明けの図書館』は公共図書館でのレファレンスサービスをテーマにしたマンガである。3年間の就職浪人を経て「暁月市立図書館」に採用された新米司書「ひなこ」が,利用者の様々な「知りたい」に対する手助けを通じて成長していく姿が,市役所から転属してきた同僚「大野」等の登場人物とともに描かれている。この作品について作者の埜納(ののう)タオさんにお話を伺った。
●『夜明けの図書館』というタイトルの由来について教えてください。
図書館を舞台にしたマンガというのを明確に打ち出したかったので「図書館」というワードは必ず入れたいと考えていました。「夜明け」と付けたのは,マンガの舞台となっている架空の市の名前「暁月市」にちなんでいます。「明けない夜はない」というように,たとえ難題のレファレンスにぶつかっても,なんらかの回答を見つけ出して行く,そんな過程と「夜明け」のイメージをシンクロさせたつもりです。
●なぜ図書館とレファレンスサービスを題材に選ばれたのですか?
担当編集さんの提案です。「図書館を舞台にしたレファレンスサービスものってどうでしょう?」 と。私自身,マンガのテーマを探していた時期で,自分にはそういった発想がなかったので,なんだか面白そう!と思いました。ただ「レファレンスサービス」について全くの無知でして……。とりあえず,いろんな本を読みあさりました。それで,マンガのテーマとして扱うなら,利用者の背景と,主人公の奮闘がドラマになるのでは?と考えました。なぜそれが知りたいのか,レファレンスに込められた利用者の悩み・想い・願いなどをひなこが汲み取り,探しながら,共に成長できたらと。
●本作を描く前の図書館の印象はどのようなものでしたか?
図書館は本を借りるだけ,と思っていました。カウンターの中にいる図書館員さんは,みんなクールで賢そうに見えて,正直近寄り難いなと(ごめんなさい)。
●図書館のことを知っていくにつれてイメージは変わりましたか?
はい。利用者側から見える業務は,カウンターでの受付や配架などですが,バックヤードでたくさんのお仕事をされていることを知りました。多岐にわたる実務の他に,いろんなイベントも企画されていたり……。図書館の規模によってさまざまだと思いますが,いずれもハードなお仕事なのだと分かりました。それから,調べれば調べるほど図書館の運営や雇用状態についての厳しい一面も知り,そのような状況下で,きめ細やかなサービスを提供してくださっていることに一市民として感謝しています!
●図書館を取材した際に印象に残ったことはありますか?
印象に残ったのは図書館員さんについてです。冷静そうに見えて実は熱い人たちだなと。「図書館員魂」を感じました。「本が好きなだけじゃ勤まらない,人が好きじゃなきゃ!」というお話は幾人もの方からお伺いしました。あと,「図書館によってカラーが違う。それはもう個人商店のように違うのでたくさんの図書館を取材なさってください」とも言われました。あくまで公正,かつ的確なアドバイスに感服しました。知力も体力も兼ね備えなければならない図書館員のみなさまを心よりリスペクトしています。
●連載中はどのような点に苦労されましたか?
主人公と利用者の関わり方・距離のバランスに気を遣いました。ひなこは一図書館員ですし,利用者のプライベートにあまり踏み込めないはずなので,レファレンスインタビューではできるだけ自然な会話で,利用者側から質問の背景を語らせるようにしています。でも,主人公が,ある程度お節介じゃないと話も転がっていかないので,現実で行われるであろう図書館の対応と,マンガとして持っていきたい展開をすりあわせていくのが,意外と難しいところでした。現実離れもさせたくないし,マンガとしても楽しんでもらいたいし,という板挟みで苦労しました。
あと,肝心要の作中のレファレンスについて,探し方がこれで妥当なのか毎回気掛かりでした。図書館員の方に質問をしたり,ご意見をいただいたりして,それを参考にさせていただいたのですが,「現実ではそうなんだろうけれど,それではストーリーが動かない」という局面では,編集さんと相談しつつ,マンガの中で生かせるようにアレンジしていきました。ツッコミどころが多々あると思いますがお許しください。
●読者からはどのような反応がありましたか?
図書館を見る目が変わったという声をいただきました。レファレンスサービスを利用してみたいとも。あと,「大野の描き方がリアル」と言われてとても意外でした。大野のような立場の方にお話を伺ったわけではなく,細かい部分は想像でもあったので……。市役所の方が図書館で働くことについて,本で調べたり,そこにあった記述を参考にしたりもしました。ちなみに大野は,やる気に満ちた新米司書ひなこと対照的なキャラを登場させたいという担当さんのリクエストで誕生させました。
●続編の予定はありますか?
反響をいただいたおかげで,2012年春頃よりシリーズ連載を予定しています。ただ,毎回本当にギリギリで出来たので,今後もできるのかと不安の方が大きいです。そこで……,「夜明けの図書館」続編を制作するにあたり,取材やアドバイス等にご協力いただける頼もしい図書館員の方を探しています。日々の業務だけで大変だと思いますが,マンガを読んで少しでも興味を持たれた方がいらっしゃいましたらぜひとも宜しくお願いいたします。
Ref:
http://www16.ocn.ne.jp/~tao/
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000011306146-00