E1242 – 欧州科学財団によるデジタル人文学のための研究インフラ提言

カレントアウェアネス-E

No.205 2011.11.25

 

 E1242

欧州科学財団によるデジタル人文学のための研究インフラ提言

 

 「研究インフラなくして,人文学の重要な一部の研究を行うことは不可能であろう。」冒頭そのように説く報告書を,欧州科学財団(European Science Foundation)が2011年9月付けで公表した。報告書のタイトルは「デジタル人文学における研究インフラ」(Research Infrastructures in the Digital Humanities)という。報告書は,人文学の研究インフラに関する欧州レベルでの共通戦略に向けて,優先事項と今後の研究の指針を示すものであり,研究者や情報専門家(図書館員・アーキビスト等),研究助成機関等向けに作成された。2009年以来2年間の検討を経てまとめられたこの報告書では,人文学における研究インフラのケーススタディを多数収録しており,研究インフラが人文学の抱える問題の探求の方法と,人文学に対し新たな問いを投げかける手段を研究者に提供するものであるとしている。

報告書の掲げる7つの優先事項と研究指針の中からその一部を紹介する。

  • 研究手法の現状とニーズ
    研究インフラによる支援という観点から,研究活動の現状と将来のニーズを綿密に調査すること,全欧州規模や地方レベル,あるいは一機関のレベルといった,それぞれの水準での研究インフラが共存し協同できるような研究インフラの体系を構築すること。その際は多言語・多様式・多次元のフレームワーク開発もサポートされるべきである。
  • 物理的研究インフラとデジタル研究インフラ
    図書館等の物理的研究インフラとデジタル研究インフラとを結びつけるような試みを継続すること。コンピュータサイエンスと人文学のアプローチの仕方と伝統との間を取り持つような,分野横断的な取り組みへの支援を拡大すること。
  • 戦略的方向性
    複数の学術コミュニティにまたがる研究を促進するため,既存の学術コミュニティと研究課題に基づく研究インフラを開発すること,相互運用性・ユーザビリティ・コレクション管理に関する優良事例の把握と促進を行う研究プログラムを支援すること,研究データをオープンアクセスで提供する研究インフラを開発すること,デジタル環境への対応のため著作権および関連法制などの法的枠組みについて検討を行うこと,また,将来的にデータへのアクセスができなくなったり原資料が失われたりしてしまうことに備え,安全なリポジトリへのデータ保存を行うこと。
  • パートナーシップとネットワーク構築
    学術コミュニティ,図書館,文書館等の複数のコミュニティや機関にまたがるパートナーシップを構築すること,研究インフラ提供者と学術コミュニティとの間の関係構築における課題を把握すること。
  • 学界による承認
    学界がデジタル出版のもつ特徴を承認する文化を持つようにすること,国際的で分野横断的な共同研究について学術的な信頼性と承認を確保するため,ピアレビューを含めた権威づけのメカニズムを構築すること。
  • 普及とアウトリーチ活動
    研究インフラによって生まれた成果のデモンストレーション・普及活動を行うこと,研究インフラを活用する学術コミュニティの事例をモデル化して研究者に対し普及させること。
  • 研究インフラの評価
    研究インフラを評価するためのシステムの構築,複数の研究プロジェクト参加機関にまたがる分野横断的な研究協力者を欧州の研究助成団体や学術機関が適切に評価すること,また,研究インフラにかかわる若手研究者を育成するため,適切な評価とキャリアパスを示すこと。

Ref:
http://www.esf.org/publications/science-policy-briefings.html
http://www.esf.org/media-centre/ext-single-news/article/humanities-researchers-and-digital-technologies-building-infrastructures-for-a-new-age-776.html