カレントアウェアネス-E
No.194 2011.06.09
E1181
2011年CEAL年次大会・NCC公開会議・AAS-ICAS合同会議<報告>
2011年3月27日から4月1日にかけて,東亜図書館協会(CEAL)年次大会(E775参照)と北米日本研究資料調整協議会(NCC)公開会議が,米国ホノルルで開催された。これらは,3月31日から4月3日にかけてのアジア学会(AAS)-国際アジア研究者会議(ICAS)合同会議に合わせて開催されたものである。
CEAL年次大会では,公共サービス,整理技術などの各委員会やテーマ別の分科会,そして総会が開催された。総会では,委員の交代などCEALの運営に関する報告,東アジア資料に関する事例・状況報告などが行われた。また,日本から参加した岡本真氏(Academic Resource Guide株式会社代表取締役)から,東日本大震災による図書館の被害状況に関する緊急の報告があった。
今回,CEAL年次大会初の試みとして,日本・中国・韓国の3資料委員会の合同セッションが開催された。セッション第1部ではまず,「日中韓電子図書館イニシアチブ」(CJKDLI)をテーマに,中国国家図書館,韓国国立中央図書館,そして国立国会図書館(NDL)からは筆者により,CJKDLIの概要や各国立図書館による取組の報告が行われた。続いて「日中韓地域研究資料の共有」をテーマに,各国における東アジア地域資料の所蔵状況やデジタル化の状況が報告された。日本からは,NDLの鴇田潤関西館アジア情報課課長補佐と,アジア歴史資料センター次長の清井美紀恵氏が報告を行った。続く第2部では,「東アジアライブラリアンシップと日中韓地域研究コレクションの国際的構築・管理」をテーマに,図書館運営,人材育成,学生への資料提供等に関する体験を交えた報告や,「次世代東アジア研究図書館員のための文献ガイド」の共同編纂プロジェクトの紹介などが行われた。また,合同セッションの最後に,中国と北米東アジア研究図書館が共同して行う貴重漢籍のデジタル化とメタデータ共有のためのプロジェクトの紹介と参加呼びかけがあった。
NCC公開会議は「日本における電子書籍」をテーマに開催された。まず,紀伊國屋書店,丸善のそれぞれから,現在大部分が国内に留まっている日本の電子書籍の流通状況と今後の課題について報告がなされた。続いて,京都大学附属図書館研究開発室の古賀崇准教授から,「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」における議論と,その結果を踏まえて総務省の公募事業として国立情報学研究所(NII)を中心に行われた電子書籍に関する実験事業の紹介があった。その後,Academic Resource Guideのインターン3名による,日本の電子書籍市場の動向とソーシャルメディア等を通じた読書経験の変化についての報告が行われた。このほか,NCCの活動に関連して,協同コレクション構築ワーキンググループの活動や,『北米日本専門家・日本研究機関ダイレクトリ』の次の版は電子版のみとなる,といった報告があった。
また,日本を含むアジア地域研究に関する国際会議であるAAS-ICAS合同会議の一部としても,CEAL,NCCに関連するセッションが開催された。NCCがスポンサーとなった「自宅で日本研究」ワークショップでは,NCCが作成中のウェブ版日本情報ガイドや,グローバルILLフレームワークへの取組と現状の報告,画像利用プロトコル等についての紹介が行われ,質疑では,東日本大震災を巡って,saveMLAKや歴史資料ネットワークの活動の紹介や,関連する記録の保存の必要性について議論が交わされた。その他にも,社史グループによる社史・団体史,企業アーカイブをテーマとした「社史による調査・研究」セッション,アジア歴史資料センター主催の「デジタル・アーカイブズと日本の国際関係研究」セッション,前述のNCC公開会議とほぼ同様の内容の「日本の電子書籍:新たなる研究の地平」ラウンドテーブルなどが開催され,多くのCEAL,NCC関係者が参加した。
AAS-ICAS合同会議は,アジア全域が対象であるだけに規模が非常に大きく,4日間で約800セッションが行われた。日本関係資料に直接関連したもの以外にも,日本の文学,歴史,美術,サブカルチャー等をテーマに様々なセッションが行われ,世界各国の日本研究者が発表を行った。東日本大震災を受けて急遽開催されたセッション「3/11以後:地震・津波・原発事故後の日本」は,震災の犠牲者への黙祷で始まり,北米の日本研究者やジャーナリストに,東京大学の北岡伸一教授も加わって,震災以後の日本に関して,真摯な議論が行われた。
上記の各会議では,交流会やレセプションなど,人的交流を図る機会も併せて設けられ,多くの日本研究関係図書館員・研究者が集まり,交流を深めていた。こうした機会を通じて,様々な方から,筆者に対し,NDLの電子図書館サービスが海外における日本研究の支えとなっているという感謝の言葉ともに,今後の展開への熱い期待が寄せられたことを,ここに付記しておきたい。
(関西館電子図書館課・大場利康)
Ref:
http://www.eastasianlib.org/
http://www.nccjapan.org/
http://www.asian-studies.org/2011-Conference/
E775