E1165 – 国立公文書館に提出された歴史公文書等保存方法検討報告書

カレントアウェアネス-E

No.191 2011.04.07

 

 E1165

国立公文書館に提出された歴史公文書等保存方法検討報告書

 

 国立公文書館が2010年5月に設置した歴史公文書等保存方法検討有識者会議が,同館に対して「歴史公文書等保存方法検討報告書」(2011年3月付け)を提出した。同館はこれに基づき,所蔵している紙媒体の歴史公文書等の保存に際して,従来のマイクロフィルム化に加えて,場合に応じて,デジタル化を採用する等の方針を明らかにした。同館の歴史公文書等の保存方針を転換に導いた同報告書の内容について紹介する。

 報告書は全5章から構成される。「はじめに」から第2章までは,歴史公文書等の保存方法を検討するに至った背景と,その目的と経緯,そして,国立公文書館における保存方法の現状についてまとめられている。

 第3章では,「国内・国外における代替物の在り方等事例調査」と題し,原資料の長期保存を目的とした代替物作成がどのような方針や枠組みの中で計画・実施されているのかを,文献・ウェブサイト情報に依拠して調査した結果がまとめられている。国内では国立国会図書館(NDL)の,国外では欧州,北米,アジア・太平洋地域の主要な国立の公文書館や図書館の取組みを紹介している。さらに,LIFE(CA1696参照)等のデジタルデータの長期保存に向けたコスト関連の取り組みにも視野を広げて調査していることは注目される。調査結果では,紙媒体の原資料の保存年限が長期間でない場合については利便性の観点からデジタル化する傾向があること,長期保存の媒体としてはマイクロフィルムが継続して重視されていること,代替物作成後も原資料は廃棄されず保存され続けていること等が記されている。

 第4章「歴史公文書等保存方法の検討」では,4つの論点,「代替物の在り方について」,「代替物及び原資料の長期保存について」,「継続的な維持管理について」,そして「利用関連の状況について」を基に,歴史公文書等の保存のための代替物の在り方等を論じている。検討の結果,マイクロ化とデジタル化の双方に技術面でも経費面でもメリットとデメリットがあり,マイクロ化は長期保存の安定性等の技術面及び作成・維持管理コストの低さ等の経費面の両方で優れている一方,デジタル化は長期保存性がマイクロフィルムに及ばないものの,提供の利便性が高く利用時のコストや環境負荷を低く抑えられる点で優れているとしている。

 第5章「結論」では,前章までを踏まえ,国立公文書館における紙媒体の歴史公文書等の望ましい保存方法について,次の5点からなる提言をまとめている。

  • これまでと同様,原資料の保存状態,内容,利用頻度等に応じて,代替物作成の方法・媒体を適切に使い分ける取組みが必要である。
  • 代替物作成の方法・媒体として,マイクロフィルムからではなく紙媒体からの直接的なデジタル化を採用すべきである。
  • デジタル化あるいはマイクロ化という代替物作成の方法・媒体の選択に当たっては,原資料の緻密な「仕分け」を行う必要がある。
  • デジタル化により代替物を作成する際には,紙媒体の歴史公文書等の価値を維持するための技術,規格,仕様等に準拠する必要がある。
  • デジタル化とマイクロ化を並行して行うコスト及び保存の必要性を慎重に比較考量して検討する必要がある。

 最後に,今後の課題として,作成したデジタルデータを必要な期間適切に保存・管理するためには,メタデータ,保存媒体,保存環境,継続的な維持管理の在り方等について検討を深める必要があると指摘され,報告書は括られている。

Ref:
http://www.archives.go.jp/news/110315_01.html
http://www.archives.go.jp/about/activity/pdf/hozonkentou.pdf
CA1696