E1164 – 「米国デジタル公共図書館」に関するワークショップが開催

カレントアウェアネス-E

No.191 2011.04.07

 

 E1164

「米国デジタル公共図書館」に関するワークショップが開催

 

 2011年3月1日に米国のマサチューセッツ州ケンブリッジにおいて,「米国デジタル公共図書館」(Digital Public Library of America:DPLA;E1105参照)に関する初めてのワークショップが開催された。ハーバード大学バークマンセンターが主催したこのワークショップには,公共図書館・研究図書館の関係者や出版関係者等約50名が参加し,DPLAに登載するコンテンツと対象について話し合われた。このワークショップの概要について,DPLAのプロジェクトWikiサイトに掲載された報告資料に基づいて紹介する。

 ワークショップは3つのセッションに分けて開催された。最初のセッションでは,誰のためのDPLAかをテーマに議論された。参加者からは,公共図書館(Public Library)という言葉はアカデミックユーザー以外の人々を主にサービス対象とするという意味あいがあるため,DPLAの名称に使われている“Public”という言葉には注意を払うべきであるという意見や,研究図書館の利用者には,信頼できるメタデータの提供と,物理的媒体とのつながりが必要であるとの意見が出された。また研究者等が新たなサービスを構築できるよう,APIの提供や,データ・メタデータのオープン化を求める声もあった。

 また,ここでの議論では,デジタル時代にはアクセスの困難なコンテンツが存在すると指摘され,もはや図書館はこれまで提供していた全ての資料へのアクセスを今後提供することはできないという現実が浮き彫りにされた。そしてこのような課題にDPLAがどのように取り組むべきかという問題提起がなされた。

 2番目のセッションでは,パブリックドメインのコレクション構築に関わる問題について論じられた。参加者からは,コンテンツの集約とそれへのアクセスを可能とするシステムに関して,コンテンツを一箇所に集めるシステムから各機関のコンテンツ提供システムの統合検索まで,様々なモデルの可能性について議論された。

 また,ここではコンテンツとその媒体に関する議論も論じられた。コンテンツを媒体から切り離すことでコンテンツに可能性が広がると言う意見もあれば,逆に,コンテンツを媒体から抜き出すのは未来の研究ニーズにとっては価値を減じることにつながりかねないという反論も参加者から寄せられた。

 最後のセッションでは,著作権によりアクセスや利用に制限のあるコンテンツについて議論された。それら制限のあるコンテンツについては,出版後一定のエンバーゴ(猶予期間)を設けることで出版界と合意してはどうか,大学の研究者に対してオープンアクセス化を呼び掛けてはどうか等の意見が出された。また,孤児作品(orphan works)や絶版資料が最も量が多いため,それをDPLAで提供できるようにするためには著作権法改正が不可欠であるとの指摘もなされ,多くの参加者はパブリックドメインの資料のみを提供するのでは,DPLAの機能として十分ではないとの認識を示していたという。

 今後,DPLAの運営委員会では,「財政・ビジネスモデル」等の6つのカテゴリーについて,関係者間で議論を重ね,運営委員会が計画案にまとめる予定であるという。

Ref:
http://cyber.law.harvard.edu/node/6661
http://cyber.law.harvard.edu/dpla/March_1_Workshop_Notes
http://americanlibrariesmagazine.org/inside-scoop/first-digital-public-library-america-workshop
E1105