E1152 – 研究者はオープンアクセスについてどう考えているか

カレントアウェアネス-E

No.189 2011.03.03

 

 E1152

研究者はオープンアクセスについてどう考えているか

 

 欧州委員会(EC)の資金援助のもと欧州原子核研究機構(CERN)等により実施されている,査読付きのオープンアクセス(OA)出版の現状等を調査する“SOAP”(Study of Open Access Publishing)プロジェクトの第2フェーズの調査結果が,2011年1月に公表された。これは,2010年9月に公表された,出版社側の状況をまとめた第1フェーズの調査結果(E1113参照)に続くもので,第2フェーズでは,研究者のOAに対する見方や経験等が調査された。

 第2フェーズの調査は世界各国の研究者を対象として実施され,調査結果では,回答者のうち過去5年間に査読付き論文を1本以上公表している162か国の38,358人の回答が分析されている。学問分野別では,生物科学(7,284人),医学・歯学(7,094人)等の自然科学系の研究者が多くなっているが,社会科学(3,393人),教育学(1,393人),歴史学・哲学(960人)等,人文・社会科学系の研究者からの回答も含まれている。

 OAが自身の研究分野で有益かどうかを尋ねる設問では,89%の研究者が有益と回答している。言語学,歴史学・哲学,教育学等,人文・社会科学系の研究者では9割を超えており,自然科学系よりも高い回答割合となっている。どのような点で有用かについての自由回答をその内容によって大きく分類したところ,情報共有の円滑化等の「学術コミュニティにとっての利益」が36%で最も高く,続いて,無料で利用できる等の「財政的な問題」(20%),道徳的な価値等の学術コミュニティにとどまらない「公益」(18%),自身の認知度を高められる等の「個人的利益」(10%),アクセスが技術的に容易になるという「アクセシビリティ」(9%)という順となっている。

 回答者のうちOA論文を公表したことがない研究者にその理由を尋ねた設問では,出版費用の負担等の財政的な問題(39%)とOA誌の品質の問題(30%)が二大理由であり,特に,自然科学系では財政的な問題の割合が高くなっている。OA論文を公表したことがある研究者にはその際の費用等が聞かれ,50.2%は「費用負担なし」で公表したと回答している。学問分野別では,言語学・文学,歴史学・哲学,マスコミュニケーション学等の分野では8割以上が「費用負担なし」なのに対し,生物科学では3割未満,医学・歯学では4割未満となるなど,自然科学系の学問分野では「費用負担なし」の割合が低くなっている。費用負担の方法としては,「公表のための資金が予め研究資金に含まれている」が28%,「(公表専用の資金ではないが)研究資金を用いて支払う」が31%,「所属機関が支払う」が24%,「研究者自身が支払う」が12%となっている。

 なお,調査データは,ECの研究投資への成果還元を最大化することを目的として,著作権を放棄するというクリエイティブコモンズの“CC0”で公開されており,自由に利用することができる。

Ref:
http://arxiv.org/abs/1101.5260
http://project-soap.eu/report-from-the-soap-symposium/
http://www.researchinformation.info/news/news_story.php?news_id=714
E1113