『カレントアウェアネス』-「変わったこと」と「変わらないこと」 / 野末俊比古

カレントアウェアネス
No.300 2009年6月20日

 

『カレントアウェアネス』-「変わったこと」と「変わらないこと」

 

 『カレントアウェアネス』(CA)は、2002年3月までは国立国会図書館(NDL)東京本館において、2002年4月以降は同関西館において、編集が行われてきた。非常勤調査員および編集企画員として、東京・関西の両方で編集に関わってきた立場として、CAに対して思うところを述べてみたい。もっとも、編集の意図や様子などについては、その変遷を含めて、すでに本号他稿(特に田村先生、北先生による記事)において述べられているはずなので、私としては、東京時代の旧CAから、関西時代の新CAへの「変化」に対する雑感を、思うままに記させていただくことにする。以下の記述は、すべて私の個人的な経験と見解に基づくものである。

 旧CAと新CAとは、大きく変化した。月刊の冊子である旧CAは、図書館や図書館情報学における最近の動向について、比較的コンパクトな分量の記事で紹介していた。これに対し、新CAは、季刊の冊子(ウェブでも公開されるが)となり、やや長期的なスパンで動向をとらえて(必ずしも速報性を第一義としないで)解説する記事が中心となっている。記事の分量も長めになった。図表を交えた説明もしばしばなされるようになり、視覚的なわかりやすさも増した。新CAのこうした方向性は、「動向レビュー」という記事区分が設けられたことからもわかる。ちなみに、旧CAは、ページ数や刊行頻度の制約などから、こうした方向性を取ることはなかなか難しかった。

  新CAでは、日本に関する事柄を積極的に扱うようになったことも大きな変化であろう。これは、日本における研究文献について、テーマごとにレビューする「研究文献レビュー」という記事区分に象徴されている。旧CAは、もっぱら「海外」を対象としていたが、これは、「国内」については類似他誌・記事に委ねていたことによるところが大きい。CAに対して、NDLによる情報誌ならではの、固有の意義を強く求めていたためであったと思う。

  新CA(冊子)を補完するものとして、速報的なニュース記事を流すメールマガジンの『カレントアウェアネス-E』(CA-E)が刊行されるようになった。また、速報性をいっそう重視した『カレントアウェアネス-R』(CA-R)も開始された。これらを統合して提供しているウェブサイト「カレントアウェアネス・ポータル」(CAポータル)は現在、図書館関係者にとって重要な情報源になっている。冊子に留まらず、インターネットでの配信が取り入れられたことも、旧CAから大きく変わった点である。

  CAの編集が東京から関西に移ることが決まったあと、旧CA編集の合間を縫って新CAの形式などについて検討が進められたが、検討のなかで、新CA(冊子)とCA-E(メールマガジン)との「棲み分け」についてかなり議論した記憶がある。旧CAの編集過程においては、CAに掲載される記事の「候補」となる情報(雑誌記事など)がたくさん集められていた。そうした情報のほとんどは、編集会議の結果、「記事」にならずに、担当者の手許に置かれたまま(あるいは廃棄されていたのかもしれないが)、陽の目を見ることはなかった。CA-E(およびCA-R)の記事は、いわば、そうした「CAの記事予備軍」を掲載しているものといえるかもしれない。そうした情報を流すことによって、「読者から新たな情報が寄せられる(あわよくば、読者のなかからCAの記事の執筆者を見つけられる)」という期待も、CA-Eを始めることにした動機のひとつであったと記憶している。

 少々「思い出話」が過ぎたかもしれない。旧CAから新CA(CAポータル)へと、CAは確かに大きく変わってきた。しかし、私自身は、本質的なところは、何も変わっていないと受け止めている。

 CAの根本的な役割は、「国内」の図書館関係者に対し、有用な最近(願わくば最新)の情報を提供することにある。そうした役割は、唯一の「国立」図書館として、わが国の「図書館(界)」を支えていくというNDLの存立意義から生じるものであろう。CAは、いわば、NDLがNDLたる証のひとつであるといえる。

 旧CAの記事が「海外」の情報に限られていたのは、読者である「国内」の図書館関係者にとって、それが「役立つ」と考えられていたからであるといえよう。月刊・冊子という頻度・形態も、当時の読者には便利であったと思われる。しかし、予算・人員削減などが進められる一方で、「インターネット時代」を迎え、学習支援・課題解決支援などといった「新しい(ように見える)」役割も求められるなど、わが国の図書館を取り巻く状況が大きく変化している現在、「国内」の動向についても、さらに迅速かつ正確に、そして効率的に把握・理解する必要が生じるようになった。そうしたなかで、国内の情報も取り扱うことにし、新たな記事区分を設けるとともに、普及したインターネット環境を活用して、速報性と解説性のバランスを少しずつ変えた、CA、CA-E、CA-Rという三つの媒体を展開していくことは、読者のニーズに対応するための「変化」であるといえよう。「変化」の過程でCAの本質的な意義は失われることはなく、むしろ、意義をより強化していくために「進化」を遂げてきたのである。

 今さら言うまでもないことであったかもしれないが、30周年・300号を迎えるにあたり、CAの「原点」を確認しておきたかった次第である。CAに掲載するには忍びない駄文であることは率直にお詫びするが、(ほとんどお役に立っていないとはいえ)編集に関わってきた立場として、CAに込めている「思い」を伝えることにはいくらかの意味はあると考えている。

 実は、編集に携わるなかで見聞きした「裏話」を書こうとも思ったが、それはまた別の機会にしたい。最後に、創刊から現在まで、CAの成長を支えてきたNDL職員をはじめとする関係者の方々(特に編集担当の事務局職員と記事執筆者の方々)のご努力に心から敬意を表して、むすびとしたい。

青山学院大学:野末俊比古(のずえ としひこ)

 


野末俊比古. 『カレントアウェアネス』-「変わったこと」と「変わらないこと」. カレントアウェアネス. 2009, (300), p.7-8.
http://current.ndl.go.jp/ca_no300_nozue