CA848 – ドイツ図書館:全国書誌統合への努力 / 戸田典子

カレントアウェアネス
No.160 1992.12.20


CA848

ドイツ図書館−全国書誌統合への努力−

ドイツ統一により,旧西独フランクフルト・アム・マインのドイツ図書館(Deutsche Bibliothek),旧東独ライプツィヒのドイツ図書館(Deutsche Bucherei),ベルリンのドイツ音楽図書館(Deutsches Musikarchiv)は90年10月統合された(CA726参照)。共通名称はDeutsche Nationalbibliqthekが有力であったが,やや控え目なDie Deutsche Bibliothekとなった。

統合前フランクフルトとライプツィヒはいずれもドイツ語文献の全国書誌を作成をしており,競合関係にあった。統合後は重複をなくすため,資料を出版地によって分担して収集整理することにした。ライプツィヒは旧東独地区,ベルリン,ノルトライン=ヴェストファーレン州,オーストリア,スイスを,フランクフルトはノルトライン=ヴェストファーレン州を除く旧西独地区を担当する。ドイツ図書館法の改正により2部納本制が採用されたため,保存は各館1部となる。

記述目録規制,件名目録規則はいずれも旧西独の規則を適用する。そのためライプツィヒでは大幅な機構改革が実施され,司書の再教育が行われている。最終的にはライプツィヒで整理したデータをもオンライン入力し,均一のレベルの全国書誌を編集刊行することが目標である。しかしこれは91年の時点ではまだ達成されていない。ライプツィヒの再教育に思ったより時間がかかること,ライプツィヒには91年2月から館内ネットワークとしては最新の設備が導入されたが,電話網などのインフラストラクチャーの未整備のためフランクフルトとのオンラインが不可能であることなどがその原因である。さらに,雑誌と図書の区分といった基本的な領域でも両館の合意がまだ出来ていない。オンラインへの接続は92年から徐々に実施する。共通の排架記号の導入は93年の予定である。

一方フランクフルトの典拠ファイルも団体名を除いてデータベース化されておらず,依然としてカード形式である。そのため,91年の段階では,ライプツィヒはCD-ROM版の全国書誌を典拠としてパソコンで作成したデータをフランクフルトに送り,フランクフルトがこれを点検し補ってデータベースに入力するという手間のかかる方法をとっている。

91年1月から刊行が始まった統合後の全国書誌のタイトルは,ライプツィヒを主に継承してDeutsche Nationalbibliographie und Bibliographie der im Ausland erschienenen deutschsprachigen Veroffentlichungenとされた。体裁はフランクフルトを継承している。

以上の共同分野に加え,どの館もその存在意義を失うことがないよう以下の専門分野を持たせた。すなわち,

フランクフルト:全国書誌サービスの管理。中央コンピュータの管理。情報技術,コミュニケーション技術の研究。

ライプツィヒ:書物保存研究。テキストの他の媒体,例えばマイクロへの変換。特別コレクション−ドイツに関する外国語の出版物,ドイツ語文献の翻訳,国際寄託図書−の収集。

ベルリン:楽譜,レコードなど音楽資料の整理。

新しい図書館の組織を知的に構想するだけなら面白い作業であるが,そこには生身の人間が関わるため事態は複雑になる。専ら教えを請う側に立たされ,さらには職を失う恐れさえあるライプツィヒの職員から統合への意欲を引き出すのは簡単ではない。ライプツィヒが東独の独裁的な体制と妥協していた事実も消えたわけではない。職員の個々の責任が問われることもあるであろう。

40年を超える分断は2つの図書館を隔たったものにしてしまった。統合は容易であるはずがない。しかし統合1年後のドイツ図書館の年次報告書は,共通の目標と方針を打ち出せたことに「東と西の統合の成功したモデルとなり得る」希望を見ている。

戸田典子(とだのりこ)

Ref: Die Deutsche Bibliothek. Jahresbericht 1991
Lehmann, K. -D. Innenansichten, Aussenansichten, Deutsche Bucherei und Deutsche Bibliothek nach der Vereinigung. Buch Bibl. 44 (4), 314-322, 1992