CA672 – 中国の公共図書館―経費不足とその解決への試み― / 小坂寿巳恵

カレントアウェアネス
No.130 1990.06.20


CA672

中国の公共図書館−経費不足とその解決への試み−

中国の公共図書館において経費の不足は図書館業務に深刻な影響をおよぼしている。

たとえば資料購入費の不足である。資料購入費の不足により,少なからぬ図書館では副本の購入を減らしている。ある図書館では購入図書の種類をもとの2分の1,甚だしいところでは3分の1に減らしている。事典,年鑑類は購入が中断され,状況のひどい図書館ではここ数年1冊も新しい図書を購入していないという。

経費不足は資料の保存対策にも大きな影響を与えている。揚州市図書館がその一例である。図書館の面積は2,826平方メートル,座席は295席,蔵書は67万冊である。3分の1の蔵書は書架からあふれ出し,書庫に積みあげられ,黴び腐り変質しつつある。

また揚州市図書館は貴重な古典籍の所蔵が大変多く,所蔵古典籍11万冊のうち256種類が全国善本書目にはいっているほどである。古典籍部は清末の塩商人の住宅を利用したものであるが,長年修理されず,シロアリがくい,雨漏りがし,採光,温度,湿度いずれも古典籍の収蔵条件に達していない。また周囲が民家であり,ガスストーブ等の火種には欠かない状況である。

揚州市図書館の新改築を訴えるレポートは何度も書かれ市当局の計画にも2度ほど組み入れられたのだが,結局,経費の不足によりふいになったのである。

公共図書館の経費不足は,書籍等の価格の高騰によるところも大きいが,図書館に対する国庫補助の伸びがはかばかしくないことにも理由はある。一般図書館の購入図書の平均価格は,1986年には1.77元であったのが,1988年には2.70元,1989年には3.90元になっている。新聞雑誌類も2倍以上に価格があがっている。しかし,図書館に対する国庫補助は,唐山13県区図書館を例にあげると,1986年17.37万元,1987年17.4万元,1988年20.04万元とあまり増えていないのが現状である。

公共図書館の経費不足はどのように解決すればよいのか。

たとえば河北省玉田図書館の試みがある。この図書館では古本の収集販売部を新しく設立した。3割引あるいはもっと割り引いた価格で古本を購入し,価値の高い書籍が手に入った場合は図書館で保存し,一部分は外部へ販売するのである。1年の利益は1万元以上になり,この利益によって,経費不足を解決できたという。また,図書館の業務を図書の閲覧,賃貸,購入販売,古本の収集販売とまとめたことは,多くの利用者に便宜をはかることにもなったのである。

中国の公共図書館においては,経費不足を解決するために,即ち,図書館を改革するために一層の努力が求められているといえよう。

小坂寿巳恵

Ref.光明日報 1990.2.28
同  1990.3.16