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カレントアウェアネス
No.327 2016年3月20日
CA1865
震災時の図書館における事業継続への取組 ―仙台市図書館の経験から―
仙台市民図書館:村上佳子(むらかみ よしこ)
はじめに
東日本大震災から5年が経ち、仙台市の復興事業もひとつの区切りを迎えている。
筆者は、震災発生時、地区館である太白図書館に勤務していたが、2012年4月、若林区中央市民センターに異動となり、その後3年間、震災の被害が最も大きかった沿岸部の行政区で、区役所と公民館の職員という立場から、震災復興に向けたまちづくりと社会教育の業務に携わることになった。
仙台市図書館ではその間、2012年3月に「仙台市図書館振興計画」(1)を策定し、これまでの図書館政策の課題を整理するとともに、今後進めるべき施策をまとめている。これは、震災前にほぼ完成していたもので、1年遅れの策定となったが、震災を受けての取組についてはごく簡単に触れるにとどまっている。
現在、この計画の見直しを控えていることもあり、改めて震災をふまえた図書館の利用者サービスの継続といった視点から、現状と課題を考えてみたい。
仙台市図書館の現況
仙台市図書館は7館ある(2)。いずれも複合施設で、4館が直営、3館が指定管理者による運営となっている。市民図書館の震災直後の状況については、すでに詳細な報告があるが(3)(4)、ここではまず、震災前後で施設や運営形態が変わった館を含め、各館の規模と2011年3月11日に発生した東日本大震災後の利用者サービス再開時期を示したい。
比較的早い時期の再開が可能となった広瀬図書館を除き、各図書館では、施設の安全確認と修繕工事が終了する前に、屋外やロビースペースを利用した臨時窓口による貸出サービスを開始しており、最も早い太白図書館の臨時窓口開設と移動図書館の暫定運行は4月5日、震災から25日後であった。
その後、広瀬図書館の4月19日を皮切りに、2か月以内に3館、5か月以内に6館が再開し、最も被害が大きかった泉図書館の再開には8か月以上を要した。
各図書館の被害状況は、『仙台市図書館要覧』(5)にその概要が記されているが、特に泉図書館では、外壁、内壁に多数の亀裂が入り、一部では室内の壁面から外が見える状態であった。
表 仙台市図書館
館名 | 運営形態 | 蔵書数(冊) | 職員数(人) | 施設再開日 臨時窓口開設日 |
広瀬 | 指定管理*1 | 10万 | 13 | 4月19日 |
市民 (中央) | 直営 | 55万 | 44 | 5月3日 4月9日 |
太白 | 直営 | 20万 | 27 | 5月10日 4月5日 |
若林 | 指定管理*2 | 23万 | 27 | 5月27日 4月6日 |
榴岡 | 指定管理*3 | 7万 | 12 | 7月26日 5月12日 |
宮城野*4 | 直営 | 22万 | 21 | 8月5日 4月28日 |
泉 | 直営 | 52万 | 36 | 11月30日 5月12日 |
移動図書館 | 委託*5 | 3500(積載) 2台 | 9 | 5月31日 4月5日 (暫定運行開始) |
蔵書数・職員数は2015年4月現在
*1 2008年4月から移行
*2 2015年4月から移行
*3 2012年4月から移行
*4 2012年10月に新館へ移転
*5 1999年10月から移行
施設維持のために
震災後、図書館施設を復旧させるにあたって、最も時間を要したのは大小を問わず修繕工事であった。あまりに大規模な災害であったため、やむを得なかったところではあるが、今後も、自然災害に限らず様々な要因で施設の修繕が必要になることが予想される。
仙台市では、公共施設の持続的提供のために「仙台市公共施設総合マネジメントプラン」(6)をまとめ、施設の長寿命化に向けた取組を始めている。「壊れた後で直す事後保全」から、「大切に長く使う計画保全」への転換により、施設の長寿命化を図り、事業の継続と長期的視野でのコスト削減をめざすものである。
改めて図書館の施設管理を考えると、壊れる直前まで使用するのが通常となっており、仙台市の財政状況から見ても理想的に保全を進めるのはかなり難しいと思われるが、このプランで重要性が示されている点検の徹底については、現場での取組が可能と考えている。施設を熟知している職員による目視や、触ってみたり動かしてみたりして違和感がないかといった小さな確認作業の積み重ねにより、施設の安全性と職員の意識を高め、計画保全の取組につなげていきたい。
仙台市の事業継続計画
仙台市では、2015年3月に「仙台市業務継続計画(BCP)[地震・津波災害対策編]」(7)を策定している。これは、東日本大震災がこれまでの想定をはるかに超える大災害であったため、被災直後からマンパワーが不足するとともに、災害対応業務と通常業務の配分や通常業務の再開時期が不明確であったことにより業務の遂行に多くの混乱をきたしたことを教訓としている。各部局の非常時優先業務として、災害対応業務と優先的通常業務の大枠が、発災から時系列で示されており(8)、教育局の社会教育施設である図書館は、所管施設の再開に向けた業務とともに、指定避難所の運営を担当することになっている。
発災から3時間以内に着手する災害対応業務は、所管施設の保全・利用者保護・被害調査・応急復旧等と、避難所運営である。市内に約200か所ある指定避難所は、それぞれ運営を担当する課が決まっており、図書館も、直営館4館が所定の避難所を割り振られている。
優先的通常業務は、発災の24時間後から72時間以内では社会教育施設所蔵資料の整理、1週間後から1か月以内では社会教育施設の管理運営の復旧、1か月後から2か月以内では社会教育施設の再開とされている。
先に示した震災後の図書館の再開状況に照らしても現実的な計画といえるが、学校の再開が、72時間後から1週間以内とされていることをふまえ、これからも可能な限り早期の再開に向けた取組を考えていきたい。
図書館事業の継続のために
2011年11月に開催された第13回図書館総合展におけるフォーラム「図書館のための事業継続計画(BCP)とは何か?-東日本大震災をふまえて」(9)のなかで、アカデミック・リソース・ガイド株式会社の岡本真氏が、自治体職員が災害対策本部へ組み込まれることに触れている(10)。仮に避難所が開設されるような災害が発生した場合、仙台市でも直営4館の職員は先に記したように自治体の災害対応業務にあたることが優先され、市民図書館では、正職員が2名ずつ交代であらかじめ指定された担当の避難所での業務につくことになっている。それ以外の職員は非正規職員を含め、基本的に図書館の再開にむけた優先的通常業務につくことになる。これは東日本大震災時の対応の反省によるもので、非常時に担当する業務を計画に入れておくことで、関係する機関と日頃から情報共有をはかるとともに、本来の事業の継続をより確実することにつながると考えられる。
図書館における利用者サービスの継続には、施設・資料・システムの三つの要件が確保されることが必要であろう。もちろん、それらを稼働させる職員が必要となるのは当然である。
施設については前述のとおりだが、資料に関する業務を振り返ると、散乱した図書の排架等の作業は比較的短時間で着々と進められたように思う。各館とも耐震対策が徹底されていたため、書架の倒壊は無く、津波による被害も無かったことが幸いであった。割れたガラス片にまみれた一部の図書を処分することはあったが、200万冊近い蔵書は職員の手で次々と元の書架に収められていった。仮に、火災や津波にといった図書館そのものが損壊するような災害を想定すると、仙台市図書館でのみ所蔵している地域資料等を、電子化によりデータ化し複数館で保存していくといった対策が課題である。
図書館システムの復旧は2週間後の3月25日であった。復旧作業の経緯は「東日本大震災の記録-3.11をわすれないために-」(11)に記されているが、建物の安全確認とサーバ室の空調機器が作動するまでに10日以上を要している。空調機器の復旧により連続作業が可能となった2日後には全館のシステムが稼働し、臨時窓口での貸出開始に向けて準備を進めていくことができた。2週間は決して短い期間ではないが、当時の状況のもとでは無理からぬところと思われた。今後も図書館システムの更新を控えており、関係者とともに様々な事態を想定した対応をしていかなければならない。
県北部の沿岸部に位置する気仙沼市では、「2階部分が使えなくても、コンピュータが動かなくても、貸出ができなくてもいいではないか」と、3月30日に図書館を再開している(12)。仙台市でも、避難所への配本や児童館での読み聞かせ等をはじめていたが、仮にシステム復旧が遅れた場合であっても、もう一歩進めた取組をできたのではなかろうか。震災直後、停電や移動手段の断絶により接する情報が限られていた時に、新聞や週刊誌の報道が貴重なものであった。たとえば、地元書店組合に協力を要請し、災害直後に発行された出版物を優先的に納品してもらい、迅速に閲覧サービスを提供するなど、システムが動かない事態でも可能なサービスを検討することが重要である。
仙台市図書館の職員は、直営館ではおよそ半数が市の正職員、残りの半数が図書館専任の嘱託職員と臨時職員である。正職員は非常時の災害対応業務を担当するが、非正規職員と指定管理館の職員はいずれも図書館業務に専心することになる。震災直後、正職員が被災者支援や施設の復旧に奔走する中で、嘱託職員や指定管理館の職員たちが協力し合い散乱した図書の排架や貸出サービスの準備にあたったことは図書館再開への大きな力となった。非正規職員の雇用や指定管理者制度の是非は、また別の大きな問題であるが、図書館が現在置かれている状況のなかで利用者サービスを継続していくためには、全館の職員の力を最大限活かした運営が不可欠と実感している。
前掲のフォーラムの中で、日本図書館協会事務局長(当時)の松岡要氏が、非常時に図書館が事業を継続するためには図書館が日常的にどのようなサービスや取組をしているのかが問われるとの発言(13)をされているが、まさに、非常時の問題は、日常の問題の延長線上にあり、日常の取組のなかに減災・防災の新たな可能性があると思われる。
おわりに
震災後、筆者が区役所の業務に携わっていた時、神戸市から派遣されていた保健師の話を聴く機会があった。保健福祉の分野でも、阪神淡路大震災後に顕著となった問題は、震災前からの問題が一気に顕在化して現れたのであって、問題の本質は震災にあるのではないとのことであった。
図書館においても、市民の暮らしに直結したサービスを担う自治体の施設として、現状の課題の一つひとつに粘り強く向き合っていくことが重要であろう。震災後、臨時窓口を開設した初日にやって来た利用者に、「私にとって図書館はライフラインなの」と言われた言葉が改めて思い出される。多くの市民の暮らしにとって図書館が不可欠な存在となれるよう日々の業務に努めていきたい。
(1)仙台市教育委員会.“仙台市図書館振興計画 平成24年3月”
http://www.city.sendai.jp/kyouiku/soumu/plan-pdf/41_toshokan-plan.pdf, (参照2016-01-05).
(2) 仙台市民図書館. “仙台市図書館要覧 平成27年度”. p. 1-2.
http://www.city.sendai.jp/kyouiku/simintoshokan/youran/pdf/H27youran.pdf, (参照2016-01-28).
(3) 平形ひろみ.一司書が見た3・11-仙台市民図書館から.LISN:Library & Information Science News.2011, (149), p. 1-4.
(4) せんだいメディアテーク,仙台市民図書館.“東日本大震災の記録‐3.11をわすれないために”
http://www.smt.jp/toplus/wp-content/uploads/2012/03/45cfbf6b525bb3ffe80082b6db21c07d.pdf, (参照2016-02-08).
(5) 仙台市民図書館. “仙台市図書館要覧 平成27年度”. p. 4.
http://www.city.sendai.jp/kyouiku/simintoshokan/youran/pdf/H27youran.pdf, (参照2016-01-28).
(6) 仙台市.“仙台市公共施設総合マネジメントプラン最終案 平成26年2月”.
http://www.city.sendai.jp/shisei/__icsFiles/afieldfile/2014/02/19/honbun.pdf, (参照2016-01-05).
(7) 仙台市.“仙台市業務継続計画(BCP)[地震・津波災害対策編] 平成27年3月”.
http://www.city.sendai.jp/kurashi/bosai/keikaku/__icsFiles/afieldfile/2015/06/05/H2703_BCP_sendaiHP.pdf,(参照2016-01-05).
(8) 前掲.p. 3-45.
(9) 熊谷慎一郎, 宮川陽子, 松岡要, 岡本真.第13回図書館総合展 創業97周年記念フォーラム 図書館のための事業継続計画(BCP)とは何か?―東日本大震災を踏まえて.LISN:Library & Information Science News.2012, (151), p. 1-23.
(10) 前掲.p. 22.
(11) せんだいメディアテーク,仙台市民図書館.“東日本大震災の記録‐3.11をわすれないために”. p. 19-20.
http://www.smt.jp/toplus/wp-content/uploads/2012/03/45cfbf6b525bb3ffe80082b6db21c07d.pdf, (参照2016-02-08).
(12) 白幡勝美. 震災からの復旧・復興と気仙沼図書館. 図書館雑誌. 2012, 106(3), p. 148-149.
(13) 熊谷,宮川,松岡,岡本. p. 21.
[受理:2016-02-08]
村上佳子. 震災時の図書館における事業継続への取組 ―仙台市図書館の経験から―. カレントアウェアネス. 2016, (327), CA1865, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1865
DOI:
http://doi.org/10.11501/9917287
Murakami Yoshiko
Attempts for Business Continuity at the Library in Case of Disaster: The Experience at the Sendai City Library