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カレントアウェアネス
No.324 2015年6月20日
CA1850
『日本十進分類法』新訂10版の概要
収集書誌部国内資料課:髙橋良平(たかはし りょうへい)
1.はじめに
『日本十進分類法』(NDC)は、標準分類法として日本の図書館に広く普及している図書分類法である(1)。1929年の刊行以来版を重ね、この度、新訂10版(以下、10版。他の版についても同様)が2014年12月に刊行された。9版刊行から実に19年ぶりの改訂である。筆者は、国立国会図書館(NDL)収集書誌部国内資料課で国内刊行図書の目録作成に従事する傍ら、2010年から日本図書館協会(JLA)分類委員会委員として10版改訂作業に携わってきた。本稿では10版の改訂内容について概観し、併せて分類委員会の今後の予定について触れる(2)。なお、本文中の意見にわたる部分は、分類作業実務者である筆者の個人的見解であり、所属機関を代表するものではないことをお断りしておく。
2.改訂方針
2004年に公表された改訂方針(3)では、9版の改訂方針を継承して書誌分類を目指すものの、「実務の継続性の確保の観点から」、NDCの根幹に関わる体系の変更は行わないことが確認された。そのため分類委員会では、既存の分類体系の枠内で、改訂方針が目指す「分類作業が行いやすく、また利用者にも分かりやすい分類表」を実現すべく検討を重ねてきた。
3.主な改訂点
3.1 「序説」・「使用法」
10版では、9版の「解説」を廃止し、NDCの基本構造を説明する「序説」と、分類作業の進め方について解説した「使用法」を新たに設けた。また、「各類概説」を独立させ、「序説」及び「使用法」の説明に沿って各類の構造が理解できるように内容を拡充した。文中に登場する専門用語は「用語解説」にまとめている。
今までNDCに関する概説書やテキストは多数出版されてきたが、これらと同じ水準の説明がNDCの本体に組み込まれ、NDCの仕組みや考え方を分類委員会として公式にまとめた意義は大きいといえる。
(1)序説
多様な主題をNDCの分類体系に位置づけるには、資料の「主題」と、主題の扱われ方である「観点」を把握する必要がある。しかし、その重要性にもかかわらず、「観点」の意味が今まで分かりやすく説明されてきたとは言い難い。その結果、主題と観点のどちらを優先すべきかが曖昧となってきた。そこで10版の「序説」では、「観点分類法」について概説し、「NDCではまず主題の学問分野(観点)を明確にし、その観点の下に用意された主題に分類する」(用語解説「学問分野」)ことを明確にした。このことは、NDCの構造理解に寄与するとともに、後述する抜本的改訂の理論的根拠ともなると考える。
(2)使用法
元々、NDCは蔵書を書架に配架する書架分類法として発展してきた経緯がある。しかし、NDCが書誌分類として機能するためには、複雑な主題を分類記号で十全に表現し、多面的な主題検索に対応できなければならない。そのため「使用法」の解説では、主題分析によって得られた主題を分類記号に適切に変換することに主眼を置いた。また、書架分類の指針とされてきた「分類規程」を書誌分類に適合したものに改め、資料が複数の主題を扱っている場合などについて、分類を重出する方向性を示した。NDCが書誌分類を目指す上での足掛かりを作ったものといえるだろう。
3.2 新主題
10版では新主題に対応して、細目表で288件の項目を新設した。特に情報学とその関連領域は、改訂が求められていた分野である。9版が刊行された1995年からインターネットが普及したこともあり、9版の分類体系が現在の情報学関連の主題に対応しきれていないことは明らかであった。
委員会では当初、情報科学(007)と情報工学(548)の統合の可能性を検討してきたが、最終的に、007、548に加え、通信工学.電気通信(547)、電気通信事業(694)に分散するそれぞれの観点を以下のように明確に区分することで対応した。
- (1)「情報学一般」に相当する部分は007に、また主題分野を限定しない社会学的な観点に関するものは007.3を中心に位置づける。
- (2)工学・技術的な観点に関するものは547/548に位置づける。
- (3)産業・経営・事業に関する観点に関するものは694に位置づける。
また、それぞれの項目に「観点が明確でないものは、…に収める」という注記を新たに設けた。主たる観点が明確でないときに、その主題概念をどこに位置づけるべきかという問題は、観点分類法において避けては通れない重要な問題である。9版の「分類規程」では「最もその主題にとって基本となる分類項目に分類する」と定めていたが、学際的分野における主題の「基本となる分類項目」を決めるのは容易でなく、実績等を基に各図書館で判断するのが実情であった。今回採用した手法が、今後の改訂作業で標準となることが望まれる。
3.3 用語
市町村合併による自治体名の変更や新しい法令の成立をはじめ、用語の変遷は枚挙に暇がない。10版では新名称への変更、用語の現代化に取り組んだ。用語の変更が主題概念間の階層関係に影響することもあるため、分類項目の移動も含む慎重な検討を要した。
また、NDCの分類項目名は名辞を列挙することで主題概念の範囲を表すものが多いが、適切な用語に置き換えられるものについては適宜修正した(例:666.79の「かめ.食用蛙.すっぽん.へび.わに」を「両生類・爬虫類増殖」に修正)。
表記については、漢字を常用漢字に統一し、外来語の片仮名表記を一般的な用語に変更するなど、本表全体で統一がとれるよう留意した(例:「車輌」→「車両」;「ディジタル」→「デジタル」)。
3.4 注記
注記は分類項目の概念範囲を規定する要素のひとつである。10版ではまず、各種注記の定義を再確認した。また、別法注記では、別法の適用箇所を厳密に類型化した。その上で、本表中にある個々の注記の表現が定義に沿っているかを見直し、併せて表記を統一した(例:012(図書館建築.図書館設備)の包含注記「館種の別なく、ここに収める」を、限定注記「ここには、すべての館種に関するものを収める」に変更)。また、3.2で紹介したように、新たな注記も多数設けている。
3.5 補助表
NDCは列挙型分類法だが、「一般補助表」、「固有補助表」を用意して多様な主題を表現できるようにしている。10版では「一般補助表」は「複数の類で共通に使用されるもの」、「固有補助表」は「特定の類でのみ使用されるもの」と明確に切り分け、9版で一般補助表だった「言語共通区分」と「文学共通区分」を固有補助表に位置づけた。
また、「言語共通区分」と「文学共通区分」については、「言語の集合(諸語)」には付加しないことが9版で定められていたが、今回新たに「分類記号を複数の言語で共有している言語」に対しても付加できないことを明確にした(例:889.1の「ブルガリア語」は「マケドニア語」と分類記号を共有しているので言語共通区分記号を付加できない)。これは、将来の改訂で分類項目を新設する際に、既存の分類記号と重複しないようにするための措置である。
固有補助表ではこの他に、日本の地方史(211/219)を時代区分するための表を新設した。これにより一般補助表は3種4区分、固有補助表は10種類となった。
3.6 相関索引
相関索引では、(1)本表に示された名辞は、不使用項目等の例外を除いて、基本的に全て索引語として採用し、(2)『基本件名標目表』第4版から索引語を優先的に取り入れ、(3)『国立国会図書館件名標目表』その他の参考資料も適宜参照することに重点を置いて作業を行った。その結果、索引語は9版から約4,000件増加し、33,367件となった。なお、本表の改訂で項目名が更新された場合でも、旧来の名辞も原則として残すこととした。
冊子体から除外した索引語の異表記については、NDCの機械可読版であるMRDF(Machine Readable Data File)に収録することで検索性を向上させる予定である。
3.7 冊子形態
10版では物理的な使いやすさにも留意した。
まず、判型を従来までのA5判からB5判に拡大した。これによって1ページあたりの情報量が増え、改訂による大幅なページ増を抑えることができた。
また、2分冊の構成を、9版の「本表編」「一般補助表・相関索引編」から「本表・補助表編」「相関索引・使用法編」に変更した。これによって、分類作業は「本表・補助表編」1冊で行えるようになった。作業の基本に立ち返りたければ「相関索引・使用法編」を紐解けばよい。目的に応じた使い分けが可能となった。
この他にも本表の小口に見出しを設けたり、「序説」と「使用法」に目次を設けるなど、随所に工夫を施している。
4.分類委員会の事業計画
4.1 出版計画
2015年度に10版のマニュアル『日本十進分類法の手引き』(仮題)の刊行を予定している。分類委員会公式の解説書としては原著者もり・きよし(森清)による7版(4)、8版(5) 準拠のものがあり、分類作業の指針となってきたが(6)、書架分類を前提とする内容が多く、個々の記述も時代の変遷による古さは否めなかった。今回のマニュアルでは10版の「使用法」を拡充し、書誌分類の立場から個々の規程を見直す方針である。
4.2 NDCの電子化
書誌情報がWeb上で流通している現在、NDCについても、電子形態での提供のあり方について検討する必要がある。このような問題意識のもと、委員会では以下の取り組みを予定している。
(1)MRDF10
8版から行われているMRDFの作成・頒布を、10版でも検討する予定である。ただし、その構造化、頒布形式については、従来通りの方針でよいか十分な検討が必要となるだろう。その際、次に述べるLinked Data化実験は大きな意味を持つ。
(2)NDLとのLinked Data化共同実験
2015年度に、NDLと共同で、8版と9版を用いたNDCのLinked Data化の実験を行う。この実験により、NDCの構造上の問題が改めて明らかになることが予想される。また、本実験では、Linked Data化されたNDCの維持管理体制のあり方、データのオープン化(Linked Open Data化)の是非についても検証する予定である。この実験によって、将来のNDCの提供方針に関わる重要な示唆が得られるものと期待される。
5.抜本的改訂に向けて
10版ではNDCを論理的に運用できることを目指して改訂を行ってきた。しかし、体系に関わる変更はしないという制約から結論を先送りした箇所も数多い。既存の分類体系の維持を最優先とする改訂作業は、もはや限界にきているのではないだろうか。特に今回、NDCの言う「観点」が「学問分野」であると明確になったことで、NDCの拠って立つ「学問分野」の体系の再確認は不可避となったといってよい。個々の「学問分野」が包含する主題概念を精査し体系づけていくことが、新主題を適切な学問分野(観点)に収める包容性をNDCに与えることにつながる。デューイ十進分類法(DDC)のいわゆる「フェニックス」と呼ばれる全面改訂を参考に、NDCの発展の道筋を立てていくべきであろう。
10版では将来の抜本的改訂に向けて、いくつかの布石を打った。
(1)要目レベルの項目削除
要目レベルの546(電気鉄道)と[647](みつばち.昆虫;646.9の二者択一項目)を削除項目とした。
9版の5類(工学)では、鉄道は516(鉄道工学)、536(運輸工学)、546の3分野に分かれていたが、546を削除項目とし、電気鉄道を含む鉄道施設・設備については516に、鉄道車両については536にそれぞれ収めることとした。これにより、546に隣接する通信・情報工学分野(547/548)の将来的な拡張に備えることができた。
[647]は646.9の二者択一項目であったが、今回削除項目とした。次版以降に630(蚕糸業)を647へ移設することを見込んでの措置である。移設によって綱目レベルの630全体が空番号となれば、新主題に柔軟に対応できる余地が生まれるだろう。
(2)別法の導入
分類表の体系に関わる改訂では、分類記号の移設が多数行われ、図書館資料の配架に大きな影響を与える。このことが、今まで抜本的改訂の必要性が指摘されながらも実現に踏み出せなかった要因であった。そこで10版では、多数の実績がある分類項目を移設した際に、9版の分類項目を別法とすることで、図書館が従来の置き場所を維持できるようにした(例:「点字」の本則を801.91とし、従来の置き場所であった378.18を別法とした)。この手法を綱目レベルに応用すれば、既存の分類体系を別法として書架への影響を抑えつつ、本則で新規の体系を組み立てることが可能ではないだろうか。
6.おわりに
本稿では10版改訂内容について概観したが、改訂作業に携わった者としては、様々な制約下でやれるだけのことはやったというのが偽らざる心境である。しかし、9版刊行から改訂に至る19年は、やはり長すぎたと言わざるを得ない。議論の過程では、当初の試案が長い歳月を経て古びてしまい、最終段階で再度作成したことが一再ならずあった。この期間にDDCは、既に3回の改訂を行っている。NDCもできるだけ早い時期に11版の改訂方針を示す必要があるだろう。
主題組織化は、多種多様な情報資源を体系化して利用者に提供する図書館の基幹事業である。Web時代にNDCが主題検索のツールとしての役割を果たすためには、常に時代に即した分類体系であることが求められる。今回の10版刊行を契機に、よりよいNDCを目指して図書館界全体で議論が活発となれば幸いである。
(1)2008年にJLAによって行われた「図書の分類に関する調査」では、公共図書館の99%、大学図書館の92%がNDCを採用している:大曲俊雄. わが国における図書分類表の使用状況:日本図書館協会「図書の分類に関する調査」結果より. 現代の図書館. 2010, 48(2), p. 129-141.
(2)分類委員による以下の概要がある:
・那須雅煕. 『日本十進分類法(NDC)新訂10版』の刊行によせて. 図書館雑誌. 2015, 109(2), p. 96-97.
・藤倉恵一. 『日本十進分類法』新訂10版のあとさき. 現代の図書館. 2015, 53(1), p. 39-46.
(3)金中利和. 日本十進分類法新訂第10版の作成について:JLA分類委員会の改訂方針. 図書館雑誌. 2004, 98(4), p. 218-219.
(4)もり・きよし. NDCのつかい方. 日本図書館協会, 1966, 127p.
(5)もり・きよし. NDC入門. 日本図書館協会, 1982, 178p.
(6)例えばNDLの分類基準では、『NDCのつかい方』及び『NDC入門』で定められた規程の多くが採用されている:“日本十進分類法(NDC)新訂9版分類基準(2010年版)”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/pdf/NDCbunruikijun2010.pdf, (参照 2015-05-13).
[受理:2015-05-18]
髙橋良平. 『日本十進分類法』新訂10版の概要. カレントアウェアネス. 2015, (324), CA1850, p. 11-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1850
DOI:
http://doi.org/10.11501/9396325
Takahashi Ryohei.
Overview of the NDC 10th edition.