CA1726 - シンガポール国立図書館のビジネス支援サービス / 長崎理絵

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カレントアウェアネス
No.305 2010年9月20日

 

CA1726

 

シンガポール国立図書館のビジネス支援サービス

 

1. はじめに

 シンガポールは、人口約470万人、面積約700km2の小さな国であるが(1)、世界の情報ハブとなることを目指し、国をあげて情報政策に注力している。その中で図書館は主要機能の一つとして重要な位置を占めている。シンガポールには国立図書館(National Library)1館と地域図書館(Regional Library)3館、公共図書館(Public Library)19館、公共児童図書館(Community Children’s Library)1館が存在しており(2)、国家図書館委員会(National Library Board)という組織が国立図書館と公共図書館を運営している(3)。中でも国立図書館では、先進的なビジネス支援サービスを提供しており、多くの新しい取り組みもなされてきた(4)

 筆者が所属している国立国会図書館の科学技術・経済課では、毎月1,100件を超える口頭・電話レファレンスをカウンターで受けており、その多くはビジネスに関するものである。2010年3月、筆者はシンガポール国立図書館を訪問する機会を得た。そこで、本稿ではシンガポール国立図書館におけるビジネス支援サービスの現状を中心に紹介したい。

 

2. シンガポール国立図書館の概要

 シンガポール国立図書館は、シティと呼ばれる官公庁街の中心に位置し、2005年にリニューアルオープンした(E356参照)。Lee Kong Chian Reference Libraryという名称で、国家図書館委員会の建物の7階から13階に位置している。同じ建物の1階および地下1階には中央公共図書館(Central Public Library)が入っており、こちらはレファレンス中心の国立図書館とは異なり貸出中心のサービスを展開している(5)。国立図書館の開館日時は、祝日を除く毎日、10時から21時までで、2008年度の来館者数は約190万人である(6)

図 シンガポール国立図書館の外観

図 シンガポール国立図書館の外観

 国立図書館には、人文社会科学(Social Sciences and Humanities)、科学技術(Science and Technology)、ビジネス(Business)、芸術(Arts)、中国コレクション(Chinese Collection)といった主題ごとに閲覧室がある(7)。敷地面積が広くなく、1フロア1部屋という構造となっており、2つの閲覧室を有するフロアもあるため、厳密に区分された主題専門閲覧室とは言い難い。例えば、ビジネスは芸術と同じフロアにあり、入口向かって右側がビジネス、左側が芸術という配置になっており、入口すぐに設置されたレファレンスカウンターでは両分野に関する問い合わせを受けている。各レファレンスカウンターに配置されるスタッフは1名で、繁忙の時間帯には簡易な利用案内等のためのアシスタントが1名付く。

 

3. ビジネス支援サービス

 ビジネス支援サービスには、来館利用者向けサービスと非来館者向けサービスがある。

 まず、来館利用者向けサービスだが、ビジネスの閲覧室に開架されている資料は約4万冊で、主な資料としては会社録、調査レポート、統計(政府統計、民間統計)、政府刊行物、業界雑誌、業界新聞などがある。なお、利用者は開架資料を返却する際は書架に戻さず返却台に置くことになっている。スタッフが返却台に置かれた資料を書架に戻す際に資料のバーコードを読み取り、利用された資料のデータを収集している。これにより、ビジネス閲覧室の資料の年間利用状況などが分かるとのことで、2009年は年間延べ22万冊が利用されているとのことであった。

 また、提供しているデータベースが豊富なのも特徴の一つである。契約しているデータベース数は約160あり(8)、国立図書館内でのみ利用可能、国内のあらゆる図書館からも利用可能、自宅からも利用可能と3通りの契約体系がある。ビジネス系のデータベースでは、BloombergやSourceOECDは国立図書館内でのみ利用可能だが、KompassやEuromonitor社のGMIDは全図書館から利用可能であるし、EBSCOhost regional business newsやProQuestの各種データベースなど大半のデータベースは自宅から利用可能である。シンガポールのナショナルサイトライセンスにより提供されているデータベースは、自宅で利用できるデータベースが多く、国民にとって非常に便利である。一方で、自宅でデータベースが利用できるという利便性から来館者数は年々減少しているため、図書館としては来館者数を増やすために様々なイベントやワークショップを開催するなどの工夫をしているとのことであった(9)

表 主要ビジネス系データベース一覧

データベース名利用可能エリア
ProQuest 各種全図書館および自宅
EBSCOHost Regional Business News全図書館および自宅
EBSCOHost Business Source Complete全図書館
Global Market Information Database (Euromonitor)全図書館(プリントアウト制限有)
Kompass全図書館
Economist Intelligence Unit (EIU)国立図書館および地域図書館
Global New Products Database (Mintel)国立図書館および地域図書館
Bloomberg Professional Service国立図書館のみ
Business Monitor Online国立図書館のみ
One Source国立図書館のみ
Source OECD国立図書館のみ

(2010年3月現在)

 以上は、2010年3月時点での情報だが、館内のサービス体系が大きく変わり、閲覧室についても改編がなされる予定であるという話も聞いた。芸術と同じフロアにあったビジネスは、科学技術と合併し、より充実したビジネスサービスの提供を目指しているとのことであった。従来の会社録、調査レポート等に加えて、規格、商標、特許などを融合的に提供することにより、ビジネスコンサルティングセンターとしてのアプローチを強化したいというのが狙いのようだ。改編後の動向については、今後も注目していく必要があろう。

 次に非来館者向けサービスだが、全分野に当てはまることではあるが、e-mailでのレファレンスがある。個人からの依頼が大半だが公共図書館からも受けており、ビジネス分野では3~5日以内には回答するようにしているとのことであった。また、携帯電話からのメール(ショートメッセージサービス:SMS)によるレファレンスも2006年より開始している。レファレンスの月平均受理件数は、e-mailが951件、SMSが48件であり、そのうち科学技術・ビジネスに関するものが50~60%を占めているとのことであった。e-mailレファレンスは、国立図書館のホームページ内のReference Pointから申し込むことができる(10)。また、その中のReference Point Enquiries Bank(11)に、よく聞かれる質問と回答を掲載している。利用者には質問を送付する前にここをチェックし、同様のレファレンスの有無を確認してから質問するよう案内している。質問は10の主題に分けて掲載されており、キーワード検索も可能である。2010年6月現在、ビジネスに関する質問は217件掲載されている。

 

4. 職員の体制

 レファレンス部門の職員55名のうち、ビジネス部門の職員は9名(12)であるが、他の閲覧室のレファレンス業務も定期的に行うことで、レファレンス業務における広い視野を保つよう工夫している。しかし、部門を越えた人事異動は本人の希望がない限り原則的に行わないため、その他の部門の業務を経験することはほとんどない。そこで、他の部門の業務を少しでも経験することで館の業務の概要を把握するような仕組みを設けている。Cross Division Projectというもので、資料収集、書誌作成、レファレンス、イベント等の経験を一定期間(業務内容により数週間~最大1年)積むことができる。また、レファレンス部門に配属する職員は専門性を重視しており、例えばビジネス部門の職員については、大学で経済学や経営学を専攻した者が優先されている。配属されてからは基本的にはOJTでスキルアップを図っており、職員間の知識の共有に関しては特に気を配っているとのことであった。

 

5. おわりに

 シンガポール国立図書館は、政府によるIT振興政策を担う機関の一つと位置付けられており、その果たしている役割、政府や国民からの期待度はとても大きいという印象を持った。国立図書館はもとより、公共図書館や大学図書館も先進技術に基づいたナビゲーションシステムが構築されており、豊富なデータベース、電子ジャーナルを提供している。国立図書館は多くのデータベース、電子ジャーナルの自宅からの利用を可能にする契約を締結しており、国民はその利便性を享受している。そのことが図書館の有用性を国民に印象付けているのかもしれない。また、ビジネス支援サービスについても、シンガポール政府が起業を促進し、国としてビジネス支援を政策にしていることから、専門性の高いサービス内容となっている。今後は経済産業分野と科学技術分野がより強固に結びついた形でのビジネス支援サービスの展開を目指しているとのことであり、その動向は注目に値するだろう。

主題情報部科学技術・経済課:長崎理絵(ながさきりえ)

 

(1) 二宮書店. データブック・オブ・ザ・ワールド Vol.22. 2010, 479p.

(2) 数値は、National Library BoardのHPによる(2010年6月現在)。
“Library Locations”. National Library Board Singapore.
http://www.nlb.gov.sg/page/corporate_page_visitus_AllLibraries, (accessed 2010-06-24).

(3) “National Library Board Singapore”.
http://www.nlb.gov.sg/, (accessed 2010-06-24).

(4) 宮原志津子. 図書館サービスの新たなる可能性に向けて:シンガポール国立図書館の取り組み. 情報の科学と技術. 2008, 58(1), p. 13-18.

(5) “Central Public Library”. Public Libraries Singapore.
http://www.pl.sg/PL.portal?_nfpb=true&PlLibraryLocations_1_2BranchCode=CLL, (accessed 2010-06-24).
“Central Lending Library FAQ”. Public Libraries Singapore.
http://www.pl.sg/library/images/LibInfo-CLL.pdf, (accessed 2010-08-02).

(6) National Library Board Annual report 2008/2009 Statistical Summary.
http://www.nlb.gov.sg/annualreport/fy08/content/NLBarSS09.pdf, (accessed 2010-06-24).

(7) “Collection”. National Library Building.
http://virtualtour.nlb.gov.sg/static/collection.htm, (accessed 2010-06-24).

(8) “e-Resources Books”. National Library Board Singapore.
http://eresources.nlb.gov.sg/index.aspx, (accessed 2010-06-24).

(9) ビジネスに関するイベントページ
“Business”. GoLibrary.
http://golibrary.nlb.gov.sg/Channel.aspx?Channel=057, (accessed 2010-06-24).

(10) “Reference Point”. National Library Singapore.
http://www.nl.sg/NLWEB.portal?_nfpb=true&_pageLabel=NL_ASK&_nfls=false, (accessed 2010-06-24).

(11) “Reference Point Enquiries Bank”. National Library Singapore.
http://rpe.nl.sg/index.aspx, (accessed 2010-06-24).

(12) 職員は9名で、加えてアシスタントが2名。

 

Ref:

ラマチャンドラン, ラスほか. シンガポールの図書館政策 : 情報先進国をめざして. 日本図書館協会, 2009, 155p.

National Library Singapore.
http://www.nl.sg/, (accessed 2010-06-24).

 


長崎理絵. シンガポール国立図書館のビジネス支援サービス. カレントアウェアネス. 2010, (305), CA1726, p. 8-10.
http://current.ndl.go.jp/ca1726